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第39話「春香さん、あなたしかできないんですよ」

【春香様】映画FWOについて語るスレPart12【リーネ様】


32: 名無しの吟遊詩人

おい、なんで今日こんなに書き込み少ないんだ


33: 名無しの重騎士

>>32

公式行け

そして聴け



 私の最新でフレッシュな黒歴史は、翌日にはPV第2弾と化して公開されていた。衛星回線はやはり便利だったらしい。

 FWO編集班には、日本に帰ったらたくさんのお土産を渡さなきゃ。クルーズ船ならたっぷり手に入るもんね、塩辛い水しぶき。うふふふ。


「春香さん、子供用の備え付けの水鉄砲をもってどうしたのですか?…はっ、『リーネ』がガンナーに転職を…!?」

「これは、リアル用」


 田中さんとプールサイドで水鉄砲を打ちながらきゃっきゃうふふした。その間、私の顔は無表情だったが。更に言えば、水鉄砲を持っていたのは私の方だけだった。この諸悪の根源が。

 …『心に棚を』って、いい言葉だよね。


 ちなみに、昨夜田中さんに『春香くん』などと背筋が凍るような呼ばれ方をされたので、『せめて、さん付けで』とお願いした。リーネのような喋り方で土下座するのは新鮮だった。


 喋り方、といえば、やはりリアルの『佐藤春香』はリーネのロールプレイに侵食…というか、融合っぽい感じになっているみたいだ。

 気がついたら、『リーネ・フリューゲル』としての私も『わたし()』と言うようになっていた。前は『あたし』だったのに。


 それは、美里というかミリーも気づいていたようだ。


「ならもう『ハルカ・フリューゲル』にすれば…あ、やっぱダメだ。ごめん」

「別に、気にしない」

「ごめん、本当に、ごめん。…あのクソ女と春香を一緒にするなんて、あたしったら…」


 あの黒歴史は墓まで持っていこう。いくつかの運営会社を道連れにしてでも。

 そう、心に誓った。リアル近況報告のため、ミッキーの魚屋で姉弟とお刺身をつつきながら。


「それにしても、綺麗な歌だったわあ。あたし達の高校、音楽の科目なかったから、リーネ…春香がこんなに歌うまいなんて知らなかった」

「うまいわけじゃないよ。覚えていたのを、口ずさんだだけ」

「ケインは知ってたのか?先輩が歌うまいってこと」


 私自身が知らなかったわよ。と、いうか、未だ何かの間違いかと。

 とはいえ、ケインの口からそんなことを言えるはずもなく。


「いや、知らなかったなあ。リアルで会ってるといっても、カラオケとかしたことなかったし」

「昨日は、直接聞いたんだろ?大海原の静けさの中での歌声、辺境の草原で黄昏れているリーネちゃんにもぴったりだよな。本人だから当然だけど」

「これで、映画のエンディング曲は決まりだね!」


 ミッキー高橋さん、包丁を振り回しながら興奮しないで下さい。危ない。

 『それで、オープニング曲と挿入歌は!?』とかいう話題が振られそうだったので、今日は早めにログアウトする。ケインの魔法陣生成も倍速できたしね。やっぱり全部レベル1だけど。



 今回のクルーズは、確かに仕事もあるものの、一部のFWOスタッフの、いわば休暇旅行も兼ねている。選抜基準が『残業時間の多い人』だったため、誰も文句を言わなかったらしい。

 もっとも、仕事の実態は、衛星回線が入った時点でお察しである。それに加えて、あのPV第2弾。同情はしない。

 いくつかの国の港に寄りながら航行するため、多くの各国招待客にとってもむしろ都合が良かったようだ。ただしビザの都合上、私達FWO関係者は下船しない。日本までずっと乗船だ。


 そういう趣旨の航海なので、海に囲まれているとはいえ、何日も引き篭もる生活となる。

 それ自体は、別にいい。どうせ仕事以外の多くの時間帯は、衛星回線経由でFWOにログインしているのだから。FWOの約10倍の時間加速も、精神的な余裕を生み出してくれる。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、…」


 ただ、日課のランニングがどうにもやりにくい。

 クルーズ船に併設されているジムのランニングマシンでもいいかとやってみたものの、甲板を回って走るそれよりどうにも窮屈な感じだ。物理的な余裕まではどうにもしがたい。


 というわけで、船の先から後ろまでの、ちょっとくねくねして進むことになる甲板や、プールサイドの周囲などを走っている。

 の、だが。


「…」

「…」


 ピッ


 ちょうどプールサイドに近づいた時に、小型カメラをもった田中さんにドロップキックをかましてプールに突き落とした私を、誰が責められようか。

 映画撮影の一貫?そんな小型カメラで?どうせ、FWO内の『リーネ』の記録映像とクロスさせてPV第3弾をでっち上げるつもりでしょうが。わかってるんだよ?ん?


「それより、私のヘッドセットの分析は?次の日のお昼前には返してもらったんだから、終わっているはず」

「ああ、それはとっくに。結論から言えば、何も成果が得られませんでした。普通のヘッドセットの機能がふたつ、としか」

「そう」


 だよなあ。改造なんて全くしていないんだから(ドヤ顔)。


「しかし、だからこそ、問題が出ています。かなり、深刻な」

「深刻?」

「別のヘッドセット2個を使い、春香さんの方法で統合しても、誰も同時フル接続なんてできなかったんです。いくら、電極の位置などを微調整しても」


 …え?


「専門の技術スタッフが時間をかけて試したのですが、2アバター分の同期信号を得るには至りませんでした。一方の信号が得られたと思ったら、それまで出ていたもう一方は弱くなったりして」

「つまり…どういうこと?」

「春香さん、今のところ、あなたしかできないんですよ。『2つのアバターを作って同時に操作』などということは」


 なんか、根本的なところがガラガラと崩れたような、そんな気持ちになった。

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