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第38話「黒歴史が!増えた!リアル太平洋の!ど真ん中で!」

 晩餐会は、滞りなく終わった。まさか、立食パーティ中にリアル剣技を見せることになるとは思わなかったけど。やっぱり、そういうのが目を引くということなのかな。

 それにしても、なぜ田中さんを始めとしたFWOスタッフよりも、私にいろいろと質問してくるかなあ。スキルや装備とかはともかく、どこのメーカーのヘッドセットがお勧めかとか。なぜに。

 ちなみに、そういう末端ユーザ向け対応は高橋さんが適任だ。今回も『協力者』として田中さんの方で声をかけたらしいが、昨日の今日では仕事調整がどうにもならない。


「というか高橋さん、パスポートとってないって言ってたな。お父さんもお母さんも仕事だし…」


 甲板の手すりに手をかけてひとり佇み、夜の海を眺めながら物思いにふける。

 月明かりに照らされ、闇と濃い青の混じり合った深い色合いが、昼間とは全く異なる空と海を見せてくれる。はるか遠くに見える、この世の果てとも思える、水平線。


「こんなスローライフも、いいかもね。今のケインの、モノづくりライフのそれとも違う感じで」


 なにもしない。なにもできない。なにもない。

 単純な、しかし、雄大な自然が包み込んでくる。

 さざなみの音が、聞こえてくる。


 そういえば、そんなVRゲームが、ある国にあった。

 そのゲームでは、雄大な自然環境しかなかった。NPCも作り込まれておらず、街も閑散としていた。プレイヤーも少なかったように思う。

 日本のそれだったら、街が人や物であふれ、辺境ではたくさんの魔物が跋扈する。それがVRゲームの当然と思っていた私は、その世界を新鮮な気持ちで楽しんだ。ダラダラしたとも言う。


 その世界のある港街で、ある男の子と出会った。いや、アバターだから、中の人まで男の子だったかはわからないけど。

 その男の子が、歌を口ずさんでいた。最初、歌詞がどこの言葉かわからなかった。その国の標準語でもなかったから。

 旅人のロールプレイをしていたこともあって、私は、その歌のことを尋ねた。なんでも、その国の少数民族の言葉で、伝統民謡のようなものらしい。


「今思えば、あの男の子のプレイヤー、おじいさんとかだったのかなあ。閑散としていて、でも、設定だ何だとあくせくする必要がないあのゲームを、それなりに楽しんでいたのかな」


 中の人のことは、本人が言うまであれこれと聞かない。それがVRゲームの一般的なマナーだ。

 実際、それで良かった。私は、その男の子(・・・)の歌を、歌詞の大まかな意味合いを聞くだけで満足した。


 素朴でゆったりとした、でも、なぜか物悲しい、フレーズとメロディ。

 そんな歌を思い出した、私は…

 


 この港町に、昔から住んでいるんだ。

 この歌も、お父さんから教えてもらった。

 お父さんは、おばあちゃんから教えてもらったって。


 ああ、そうそう。

 僕の名前、『ケイン』っていうんだ――――――

 


Hotk, laxu kik Puk's hao uuwa

Tfjasthushf lkojtsas, lkisjthoofls Khaj'apc

Setwt lxuk shalkf kirom tlwitlr

Luxykn, oshom fam kukrpfaq yiqwu nprulkn


Ofrutf iqacls oxnupuy, ruckqif qkuct

Fbalk sylok wpoc wat et kaptau hwo, orshpamf

Rhuwi cshihshy fashi arzusr, tyika wacft ufhlayimc

Xhayy wkiyko, tens nocf texpi prup


Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Asar cakpen pfos rtory hawnb rrikcoks

Oqulh xyalio kpan, ntcyao



 …んー、結構、覚えているものだなあ。

 それにしても、この歌詞の言葉、結構興味深いのよね。日本語でいう濁音がほとんどない。あと、音節単位も…


 パチパチパチパチッ


「「「おおお………!」」」

「「「わああ………!」」」


 振り向くと、拍手喝采を受けていた。

 いつの間にか後ろにいた、招待客の人達に。


 えええ…。


 はっ。

 こ、これって、もしかして…


 ―――ピロン♪

 ―――春香 は 『急に歌うよ』 スキル を 修得した


 黒歴史!黒歴史が!またひとつ!増えた!リアル太平洋の!ど真ん中で!


 早速『orz』の体制をとろうとして、ふと、田中さんもいることに気がつく。

 なにやら体がわなわなと震えているが、問題は、その手にある、小型カメラ。


「す、素晴らしい…映像…か、カメラの記録…PV…編集班…!!」


 暴走しているのは別にどうでもいい。いつものことだね。

 さーて、アレどうやって(ぴー)してでも奪い取ろうかなあ。


 と、殺意をみなぎらせていたら、田中さんが私に近づいてくる。

 肩を、ぽんっと叩かれる。


「これからも、夢に向かって一緒にがんばろう、春香くん!」


 何のロールプレイよ、それ。

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