第36話「今回は、ケインにどれぐらい貢ぐの?」
【全体メッセージ:プレイヤー『リーネ・フリューゲル』率いるパーティが第51エリアのボスを討伐しました。第52エリアを開放します】
「はー、難なく倒したわねえ…」
「みんなで、攻略したから」
「いやあ、あたし『レッドドラゴン』は未だにトラウマだから…」
そんなことを、ミリーがしみじみとつぶやく。
しみじみとなる分、まだマシなんじゃないかなあ。本当のトラウマってのはね…うっ。
まあ、私達、最近本当に多いよねえ、トラウマとか黒歴史。VRでもリアルでも。
映画化発表の関係であまり進んでいなかったボス攻略が、ようやく進む。
元クラ初心者の雑魚討伐を支援していたってのもあるけど。ケインとしても生産職に回ったグループの指導があって、同時操作が少しばかり煩雑になったというのもある。
とにかく、ここんところいろいろありすぎたせいで、第50エリアボスは他のパーティに攻略されてしまった。
いかんなあ。従来のペースだったら、もっと耐久性のあるローブを既に購入していて、ケインに…
「…なに?」
「今回は、ケインにどれぐらい貢ぐの?」
「…その言い方、やめて」
そうだよ、ケインは確かにリーネのヒモだよ。間違いないよ。
でもね、リーネの攻略報酬をケインの装備とかにつぎ込むのは、私の望みなんだよ。本願なんだよ。
リーネとしては、攻略できた達成感さえあればいい。それは、あらゆるスキルをレベル1でもいいから楽しもうという、ケインのスローライフでは得られないものなんだよ。
「ケインと私の求めるものは、違う。だから、これでいい」
「そりゃあ、ケインがリーネをぞんざいに扱っているとは思わないけど…。でもさ、リーネの方が圧倒的に忙しくなってるんだよ?でしょ、『春香』?」
「問題は、ないよ」
同一人物だしね。
それに…。
「実際、今回のボス攻略は、うまくいったし」
「ん?どういう意味?」
「私、今、日本にいないから」
そうなのだ。
「太平洋上を移動するクルーズ船から、衛星回線経由でログインしている」
「へ…?」
◇
【春香ちゃん】映画FWOについて語るスレPart9【リーネちゃん】
213: 名無しの狙撃手
そういやさ、俺、『春香ちゃん』って書いてるけど、
彼女より年下
214: 名無しの鍛冶職人
>>213
中坊か
春休みの宿題は終わったか?
215: 名無しの狙撃手
>>214
ちげーよ!18歳未満だって言ってんだよ!
216: 名無しの弓使い
小学生ってアカウント登録できたっけ
217: 名無しの重騎士
>>216
できる
親の承諾手続きがいるが
13歳以上から単独登録OK
218: 名無しの狙撃手
小学生でもねえよ!
219: 名無しの回復師
小学生って言えばさあ、春香ちゃんってさあ
春香ちゃんってさあ
これで察しろ
220: 名無しの商人
>>219
わかる
よくわかる
221: 名無しの祈祷師
>>220
リアフレは違うな
そんなにヤバいか?
222: 名無しの商人
>>221
あんまり詳しいことは書けないが
そのヤバいもの筆頭が送られてきた
223: 名無しの斥候
>>222
詳細
224: 名無しの魔導師
知りたければあたしのところに
見せないが
225: 名無しの重騎士
>>224
だから目的語をはっきりしろと
◇
「お前からもリーネちゃん、佐藤先輩に言ってくれよ!ケインにも画像データ送られてきてるんだろ!?」
「あ、ああ、うん」
「ていうか、お前は気にならないのかよ!こんな、水着にパーカーの姿で…」
「まあ、見慣れているから…あっ」
ぴしっ。
ん?
なんか、いつかどこかで聞いたような音が聞こえてきたような。
ああ、健人くんが私のことを『見た目そういう雰囲気』とか口が滑った時だねえ。
「ケイン、お前、まさか…」
「な、なに?」
「お前の中の人、田中さんだったのか―――!?」
なんで、そうなる。
ただ単に、クルーズ船の上で田中さんと並んで写っているだけでしょうに。
「違う違う。少なくともそれだけは断言するよ」
「じゃあ、見慣れてるってどういう…え、もしかして、リアルのお前もクルーズ船にいるのか!?」
「…ああ、まあ、そんなところ」
おお、なるほど。うん、その設定イタダキ。
「そういうことか…。まあ、そうか。運営ならケインのリアル知ってて当然か」
「ああ。だから、リーネ…春香がクルーズ船にいる間は、リーネに合わせてログインやログアウトするからね」
「わかった。…ん?ケインの口から先輩のリアルの名前が出たの、初めてだな」
ああ、そうね。ちょっと新鮮かも。




