第35話「リーネとしての私と、ケインとしての私」
【春香たん】FWO総合スレPart2109【リーネたん】
232: 名無しの武士
しかし、本名で記者会見とはなあ
映画でも本名で演じるみたいだし
233: 名無しのワインソムリエ
>>232
名字も名前もありふれたものだからな
リアル俺のような高貴な名前では無理だ
234: 名無しの陶芸職人
>>233
ほざけ名無し
235: 名無しの木材配達
芸名付けてもよかったんじゃね
236: 名無しの狩人
>>235
『リーネ・フリューゲル』以外にあるか?
237: 名無しの拳闘士
>>236
ある意味こっちも本名だしな
役柄の名前を芸名って普通ならぷげらだが
238: 名無しの書店店員
>>237
しかもリアルでもイメージぴったりって
リーネたんはぁはぁ
239: 名無しの門番
>>238
通報
運営じゃないぞ
リアル警察だぞ
240: 名無しの盗賊
しかし、ようやくクランクインか
公開はいつのことになるやら
241: 名無しの工作員
>>240
大学進学を控えているからな
当分は無理じゃね
242: 名無しの呪術師
>>240
リアル撮影&編集は時間がかかるしな
243: 名無しの踊り子
なんか、撮影を海外メインでやるとかいう噂が
FWOローカルサーバ拡大の巡業を兼ねて
244: 名無しの大道芸人
>>243
すっかり広告塔だな
VRでもリアルでも
245: 名無しの吟遊詩人
広告塔と言えば、ケインはリアバレしないのか?
246: 名無しの風水師
>>245
しないらしい
やっぱりキモオタデ…おっと、春香たんが来たようだ
247: 名無しのナイフ使い
>>246
マジで気をつけろ
春香ちゃんケインのリアル知ってるみたいだしな
248: 名無しの近衛兵
>>247
なら、そこそこの奴なんじゃね
リア充もげろ
249: 名無しの諜報員
>>248
リアルでも春香ちゃんのヒモって噂があるらしいしな
春香ちゃん、映画に関係なくFWO関係で儲けてるし
ケインの中の人もリアルマネーもらってるはずなんだが
250: 名無しの死霊術師
>>249
なんだそれ
もげろ
◇
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、…」
日課の、早朝ランニング。
肌を切る風が気持ちいい。土手に広がる草花が美しい。川のせせらぎが心地良い。
心が、安らぐ。
…んなわけあるかあっ!
私の心の中は、寝ても覚めても、羞恥心と疲労感の嵐が吹き荒れている。
走りながら、ここ最近の、いろいろな出来事をあらためて思い出す。
◇
あの『事故』は、普通に処理された。表向きは。
なにしろ、死傷者ゼロだったのである。ちょっとすりむいた人はいたけど。私がスライディングアタックかました美里とか。
荒くれ者という名のクレーマー達が軽犯罪に問われたり、FWO運営から損害賠償請求されたりしたのが、事件性といえば事件性だろうか。
なお、剣を投げてきたのは高橋さんだった。なんてことしてくれたんだ、とはいわない。アレのおかげで私は助かったのだ。
とはいえ、高橋さん本人としては、あの言動に特に意図はなかったらしい。レッドドラゴンのハリボテに併せて転がっていた剣をつかみ、無我夢中で投げつけただけだったらしい。
にしては、『ケインのために!』とか、私のトラウマ級のロールプレイを発動させるに充分なセリフを抵抗なく叫んだのはどういうことなのか。…まさか、会った時からリアルの私で妄想…うええ。
今回の件で一番大きいのは、現場で目撃した人々と、防犯ビデオの映像を含めて伝え聞いた人々との、温度差である。そりゃあもう、桁違いである。
美里が叫んだ、あの言葉。
『落ちてくるたくさんの鉄骨を剣一本で蹴散らすなんて!!』
誰が、信じるというのか。このちんまい小娘が、んなことできるわけがない。
防犯ビデオの映像は、証拠にならない。このVR全盛時代、映像はいくらでも加工できる。
目撃者以外が、加工を疑ってまで信憑性を確認しようとするようなレベルではない。
一方、その防犯ビデオの映像をちゃっかり流用して作られた映画化PVは大好評だった。ええ、大変不本意ながら。
ようやく顔出ししたリーネの中の人である私と、『リーネ』アバターが折り重なるという、演出。なんか、リーネが私に幽霊のように取り憑いてるようにも見えるんですけど、アレ。
あと!あれ何!BGMが壮大過ぎるんですけど!エリアボス攻略時のより荘厳ってどうなのよ!え、そこじゃない?
とまあそういうわけで、正式な記者会見をもって、田中さんプロデュースの映画化発表は大成功を収める。
とはいえ実際は、プロデュースなどほとんどする必要がなかったらしいのだけれども。結果的に。
田中さんがもともと考えていたのは、リーネコスプレをした私が『中の人』として記者会見に臨むというものだった。装備一式を送りつけてきたのはそういうことだったんかい。
いずれにしても、リアル私の素性は、見た目から本名から広く知られることとなった。羞恥心と疲労感の嵐が吹き荒れるのは当然である。
この間道を歩いていたら、小さい子に指を刺された。お母様、そこは『しっ、見ちゃいけません』と言うべきです。『サイン下さい!あ、あと、ケイン様のもこのアバターに!』はNGです。カット。
で、そのせいだろうか。
リアルの『佐藤春香』として他の人に接する時に、なんとなくリーネっぽくなってきてしまっているような気がする。トラウマ級ロールプレイが染み込んできているのだろうか。
普通、リアルでまでアバターのように振る舞うなど、厨二病の極地である。実際、私の頭の中は、黒歴史とトラウマでいつも悶えている。まあ、もともと大人しい方だったのだが、対人的には。
そういう意味では、これまでの『佐藤春香』も、ある種のロールプレイだったんだろうか。そうだったんだろうなあ。頭の中で罪悪感に苛まれながら美里や健人くんに接していたことを思い出す。
◇
「…美里に、健人くん?」
「あ、や、お、おはよう、佐藤先輩」
「は、春香!?お、おはよう…」
このランニングコースがある土手って、ふたりが住んでいる家よりかなり遠いよね?
そんな場所で、早朝から、軽く腕を組みながら散歩している姉弟って、どうなのかなあ。
どうなの、かなあ?
「き、奇遇ね?い、いつも、この辺を走って、いるの?」
「うん。毎朝」
「そ、そう…。あ、あたし達、もう、行くね?そろそろ、朝ごはん、なんだ」
「そう。じゃあ、また」
美里が前の私のような喋り方になっているように聞こえるのは、気のせいだろうか。
私のロールプレイ?まさか、ね。
それにしても、あの時。
『だから、リーネ…あれ、春香?春香、だよね?え、あれ?あれぇ!?』
私にさんざんケインに貢ぎまくっているとかなんとか言った後、ようやくリーネのプレイヤーが実は私だったってことを実感し始めていく様子は、妙におかしかった。
ケインについては、運営と高橋さん以外に伝えるつもりはないが、もし、もしケインのことも美里に伝えたら、どうなるのだろう。
…いや、考えないでおこう。
私は、ひとりでふたりだ。リーネとしての私と、ケインとしての私。どちらも、必要だ。
それが、VRMMOで攻略とスローライフの両方を手に入れる、とっておきの方法なのだから。




