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第31話「荒くれ者の冒険者ふたりが怒鳴り散らしていた」

 田中さんに連絡したら、何十人もヘッドセットを付けてダイブできる施設が会社ビル内にあるそうだ。社員による大規模テストのために必要なんだとか。もちろん、セキュリティ完備。当然か。

 元クラ集合の件を話したらふたつ返事でOKが出て、迎えも出すらしい。え、なんで?あ、株主優待ですかそうですか。

 美里に『もっといい環境がある』とFWO本社設備について伝え、集合場所を最寄駅にしてもらう。変更連絡はグループで一発だそうだ。あ、そう、ふーん。


『で、でも、よく借りられたわねえ』

「お世話になってる、電器店の店員さんが、紹介してくれたんだ。だから、その人も、行くよ」


 全く嘘は言っていない。


『そう。ああ、健人も行きたいって言っているけど、いいわよね?春香も話したいこと、あるんでしょ?』

「うん。それじゃ」


 健人くん、ケインに私がルークってこと言っちゃったのを気にしてるんだろうなあ。ミッキー経由でそのこと私に知られて、それで…とか思ってるのだろうかとか。それじゃないから安心して。



 翌日のお昼頃の最寄駅。

 予定の23人+健人くん・高橋さん・私、の26人が集合する。この人数だと目立つなあ。

 ていうか、FWO本社はともかく、これだけの人数を収容できるネットカフェってどんなところなんだろ。一度見てみたい気もする。


「高橋です。会員証は作ってないんだけど、『魚屋のミッキー』って言えばわかるよね?」

「ふぇっ!?あの、ミッキー!?イメージ、全然違いますねー!でも、いいんですか?リアバレして」

「ふたりがとうの昔にリアバレしてるしね。あ、ソルトあらためビリーくん、よろしく」

「あ、ども」


 健人くんが高橋さんに、言葉少なに挨拶する。ミッキー相手には普通に話してるのに…うんうん、リアルでは、ないすばでぃのお姉さんだしね。ふっ。


「それで、どうやって向かうんですか?」

「それは…ああ、来た来た」


 うーん、目立つね、大型バスって。へー、FWOのマークが入ってる。広報を兼ねた会社専用かなあ。ちょっとカッコいいかも。あははは。

 だーかーらー、リーネとケインのアバターをでかでかと描くなら事前に知らせてよ!そういう、アニメとかのキャンペーン広告のバスや電車走ってるの珍しくないけどさ!


「あれ、普通にFWOのアバターなんだ」

「映画化決まったんだし、ポスターと同じ絵柄とかにしないのかなあ」

「あの映画って、やっぱり…」


 元クラの皆様は冷静に分析をしている。

 確かにあの映画ポスター、キャッチコピーはともかく、顔出ししていないリーネの私…あうう、そのリアルの私の評判がよろしくないことは、FWO内の噂でも聞いている。ケインとして。

 こちらとしては助かるんだけど。どうせ元手があまりかかっていないんだ、単なる話題づくりの実写映画と思われた方がこちらとしても気が楽である。ていうか、企画倒れしてしまえ。


「ほとんどの皆様は初めまして。FWO運営会社で各種事業をとりまとめている、田中と申します」

「田中さん、今日はよろしくお願いします」

「はい、高橋様」


 田中さんが直接来たのか。今のところは知らんぷりしておこう。

 だから、こっちみんな。


 みんな、順番にバスに乗り込んでいく。40人は乗れるバスだからゆったりとできる。

 バス酔いしないかなあ、私。結構時間がかかるんだよね、首都圏まで。



 数十分で到着した。高速使って直接向かうと早いんだなあ。


「言っていただければ、いつでもこちらから迎えに行きますのに…」

「いいです。というか、今はあんまり、話しかけないで下さい」


 FWO本社前に到着したバスから降りた後、ちょっとつぶやいた私の言葉を拾って、田中さんがそんなことを言い出す。ので、牽制しておく。

 美里にはバスの中で話だけはしておこうと思ったんだけど、みんな好きな座席で小グループ作ってわいわいやってたから、話しかけづらかったんだよね。

 しかも、健人くんは高橋さんにやたら話しかけていた。リアル初対面の時とはえらく違うっていう。まあ、美里という名の鬼が介入していたけど。


「まったく、これだから男は…」

「違うって、ミッキーとしての情報を聞いてたんだってば。掲示板のこととかさ」

「はあ…そういうことにしておく」


 うーん、傍から見たら完全に恋人同士だなあ。それとも、交際経験がない私だから、そう見えるのかな。しかも、ひとりっ子だし。


「おお…」

「うわあ…」


 だだっ広い玄関ホールには、ひとつの巨大オブジェが組み立てられている最中だった。

 禍々しい、ドラゴン。でかいなあ。実寸大?いや、ドラゴンは架空の存在だ、実寸も何も。


「こちらは、これからFWOで実装される、第51エリアのボス『レッドドラゴン』です」

「ああ、だから見たことなかったんだ」

「さすが美里、攻略組だね!そんなことさらっと言えるなんて!」

「ハリボテですが、一応、実寸大です。実装を楽しみにしていて下さい」


 確かに、大きい。昔両親に連れてってもらった博物館で見た恐竜の、その巨体よりも大きい。

 そういえば、竜種がボスになったことはなかったなあ。竜使いって職業はあったけど。

 竜は賢いって設定だからね。テイムスキルを使いこなせば言葉も交わせるし。


 しかし、これは怖いなあ。いくらハリボテでも、万が一これが倒れてきたら、ケガ人続出だよ。

 やわやわな銀貨とはまるで違う素材っぽい。まあ、当たり前か。崩れてきたらさっさと逃げよう。

 そう考えると、いくら広いったって、なんで玄関ホールにこんなもの作るかなあ。


 受付前だし、ビルの外からもよく見えるから、広報には最適なんだろうけど。見た目を意識してか、作業している人達の足場まで、ドラゴン模様のコーティングだ。どんだけー。

 私達が来たのがイレギュラーってのもあるのかな。春休みにゲーム会社集団見学って普通はないしね。でも、これからは気をつけよう。田中さんは当てにならないし。


「ではみなさん、まずはこちらで受付を…」


 田中さんの案内で受付に向かおうとして、


「おい、社長出せよ!こっちは未だ痛みが引かねえんだよ!」

「そうだそうだ!出さねえと警察呼ぶぞ、このクソ運営が!」


 ギルドの受付で、荒くれ者の冒険者ふたりが怒鳴り散らしていた。


 ん?ごしごし。あ、焦点があった。受付遠いんだもん。


 FWO総合受付の窓口で、プレイヤーらしき男ふたりが怒鳴り散らしていた。

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