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第27話「それまでもなかったことになるのか。私の気持ちまでも」

 うまい具合に気絶できなかった私は、しかたなく『上司』さん、田中さんの話の続きを聞く。


「では、こういうプロットはどうでしょう?『もうひとりの自分』を求めてFWOを始めた、普通の女子高生。平穏で平凡な現実世界とは異なり、ボス攻略に時間を費やし、ひたすら魔物を退治する、殺伐とした日常。かつてない充実感を得た彼女だったが、しかし、何かが物足りない。そして、ある日…」

「それ、追体験型ビデオの冒頭。運命なんてなかった」

「ここからがいいところなんですが…。それに、『普通の女子高生』から始めるのがいいんです。異世界転移風の要素もあって、私達の世代にもウケそうですし」

「私の両親と、似たようなこと言わないで」


 運営会社の中にリアルの姿でいるせいか、リーネのロールプレイが無意識なまでに絶好調だ。田中さんの流れるような説明が突っ込みどころ満載だからという話もあるが。


 しかし、その突っ込みどころ満載の田中さんの話は、私の評価に関係なく、どんどん続く。


「…そして、ログアウトしてヘッドセットをはずしても、先ほどまでの余韻が残っている、平凡なはずの、私。見回すと、見慣れた平凡な自室、そして、鏡に映る平凡な、私。しかし、本当に私は、普通で平凡な女子高生の、ままなのか。FWOでは、間違いなく、誰よりも輝いている彼の隣に、いた。現実に戻れば、それまでもなかったことになるのか。私の、気持ちまでも。しかし、彼も…」

「彼も、私なんですが」


 飽きてきたので、携帯端末をいじりながら、そうつぶやく。FWOの中なら、雑魚討伐をしながら聞き流しているところだ。

 見ると、高橋さんと社長さんが苦笑している。止めてよ。特に、社長さん。


「ですので、リーネとケインのプレイヤーは別人ということにしましょう。ドキュメンタリーではなくなるかもしれませんが、ケインのプレイヤーを登場させなければ、あながち間違いでもないでしょう」

「それは、そうですが」

「この映画のいいところは、FWO内の映像は全て記録映像を編集して作成できる、ということです。ちょうど、他のプレイヤーアバターと接することも多くなってきていますしね」

「そうですね」


 なら、そっちで勝手に編集して作ればいいんじゃないかなあ。

 それなら、私の素性を公開しなくても…

 ん?『FWO内の映像は』?


「…えっと、FWO以外の、映像は?」

「それはもちろん、現実世界で新しく撮影します。出演料は当然お支払いしますよ?」


 何言ってんだろうこの娘は、という顔でさらっとのたまう、田中さん。


「普通、こういうのって、プロの俳優さんを使うのでは?」

「佐藤さんなら、そんな必要ないでしょう。言いましたよね?今回お会いしてそう思ったって」


 また、何言ってんだろうこの娘は、という顔をされる。

 え、それって、素性の公開の話じゃなかったっけ?あ、いや、意味は同じなのか?

 そりゃ確かに、ロールプレイは得意だけど、リアルでロールプレイするの?え?


 社長さんを見ると、納得しているような顔をしている。

 高橋さんを見ると、うんうんと頷いている。


 誰か、いつでもひっそりと気絶するための方法を教えてほしい。

 そして、私を攻略とスローライフの世界に戻してほしい。

 あ、ここがその世界の神々の住まう場所だった。気絶スキルぷりーず。



「ここは、メインのモーションキャプチャーシステムがある部屋です。昔と違い、ただ動きを取得してアバターを表現すればいいわけではなく、脳神経の同期信号の取得も必要となっています」


 気絶をあきらめた私は、必殺『しばらく考えさせてほしい』を繰り出した。

 それはしかたがないですよね、ということになり、今日は帰るかと腰を上げようとしたら、せっかくなので会社の『視察』をしていきませんか、と、社長さんに言われた。高橋さんと一緒に。

 視察?見学じゃなくて?と、言ったら、私は超優良顧客という立場以外にも、超優良株主という立場もあることを指摘された。え、もしかして、社長さんよりも偉くなっちゃったの、私?


「どうですか、試してみますか?」

「試すって、動きと同期信号の取得、ですか?」

「ええ。剣技スキルなどの発動はオートモードとはいえ、不自然な動きをアバターにさせるわけにはいきませんから。佐藤さんの動きを『リーネ』アバターにフィードバックできるかもしれません」


 技術スタッフの方から、なかなか興味深い提案を受けたので、試してみることにする。

 首の後ろのうなじのあたりに電極を付けられた後、鞘に入れられた模擬剣を渡される。全方位にカメラが設置されている。

 背中に固定した鞘から模擬剣を抜いてみる。おお、適度な長さと重さだ。これなら、持っている手応えを感じながら振ることができそうだ。


「はい、それではいきますよー。とりあえず『【剣技】フラッシュ』をお願いしまーす」


 剣技の基本技だ。一旦、鞘に剣を収めて―――



 この世の全ての魔を、攻略する。



 ひゅんっ

 ぱちん


 うん、リアルでは初めてだったけど、リーネの時と同じ感覚で剣を扱うことができた。

 この模擬剣、いいなあ。同じものどこかで買えないかな。…どこで振り回すのかって話があるが。近所の神社?うん、通報。


 …あれ?技術スタッフの人が呆然としている。

 見ると、一緒に見物していた高橋さん、田中さん、社長さんも。


「す…すごい、すっごいよ、春香ちゃん!第1回バトルロイヤルのラストシーンそのまんま!」

「え…。あの時は、『ハルカ』を数回、切り刻んだんだけど。さすがに、あれは無理」

「違う違う!その、鞘から抜いて一閃して、また鞘に収める、その動き!カッコ良すぎる!」


 技術スタッフの方も、鞘から抜いてまた収めるところは想定してなかったらしく、単に、『フラッシュ』として剣を振るところの腕や体の動きを確認したかっただけらしい。

 んー、無理な力やスピードが必要なければ、これくらいリアルでできると思うんだけれども。反射神経だけでおっけーといいますか。まあ、体育館や剣道場で試合を分析した成果とも…


 …うあああ!そうだよ、それ、健人くんに見られてたんだよ!

 どんだけ!どんだけ私に、トラウマ植え付け続けるのよ!もういい!美里とイケナイ関係になって、私なんか忘れちゃえ!お幸せに!


「…どうしたの?固まっちゃって」

「え…あ、ううん、な、なんでもない」

「素晴らしい…。生身の体で実現してしまうこの能力、どこかに取り入れることはできないか…?」


 田中さんの商魂に火が付いたようです。飛び火しないうちに帰ろう。

 あ、せっかくだから、併設レストランで何か食べて帰ろう、そうしよう。

 クリームシチュー、おいしかったです。

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