第24話「決して出会うはずのないふたりが、運命の…」
次の週末、両親はFWOの探索ルートを開始した。仕組みは戦闘職のエリア開放に似ており、ボス討伐の代わりに、秘密とされている『ゲート』を探し出し、開放していく。
秘密であるので、ゲート開放時に全体メッセージが流れるわけではなく、また、誰かが開放したからと言って、ゲートが見つかりやすくなるわけでもない。
掲示板等で情報交換することはあっても、基本的にはプレイヤー各自がゲートを探す。地味な『攻略』なので人気はないが、もともと登山や旅行が好きなら気に入るだろう。
「リーネも、『旅の戦士』の雰囲気が、あるけど、討伐で稼ぎたい、みたい。ケインは、広く浅くの、モノづくりが、いいって」
「春香は、本当にふたりの知り合いなのだな。あらためていろいろ調べてみてびっくりしたよ。ゲーム内はもちろん、現実世界でもかなり有名じゃないか」
「FWOを、してなくても、3Dビデオで、追体験できるように、なったからね。リーネも、ケインも、どちらのシリーズも、好評、みたい」
『上司』さんの商魂のたくましさには、既に呆れを通り越して無の境地である。よくもまあ、そういう商売を思いつくものだ。素材厨、は、もはや褒め言葉だろう。
なお、どちらのシリーズも好評なのは当然である。要所要所に挿入される、ふたりのラブロマンス。そんなことをおおっぴらにした記憶は全くないが、それがバカ受けなのだ。
あの食事会という名の合コンがきっかけ…実際にはきっかけでもなんでもないが、それから始まるわけでもなく、実に、実に壮大な出会いが演出されてしまっている。
「宿でVol.1を観たわ。討伐に明け暮れる、幼くも可憐な少女剣士。街の人々を日々癒やし尊敬を集める、麗しき青年錬金術師。決して出会うはずのないふたりが、運命の…」
はい、ストップ。
などとは口に出せないけど、攻略厨とスローライフ勢の出会いに運命も何もないでしょうが。あと、可憐とか尊敬とか、一体誰のことよ。ただの、無愛想とヒモのコンビよ。
…なーんてね。私もある意味、美里のことは言えないかも。割と真面目に作り込んだリーネとケインがこんな風に扱われるのは、正直、嬉しい。素直に受け止めておこう。
…マージンが期待できるとか、そんなんじゃないよ?そもそも…
「あ…あああっ!?」
「な、なに?」
「どうした、春香?」
口座残高の件、なにひとつ解決してない…。
◇
預金問題については、とりあえず、FWO運営会社の株を買ってみることにした。ここまで来たら諸共だ。それに、もとは運営のお金だ。会社が潰れても私に損はない。
ていうか、シリーズコンテンツが増え続けている3Dビデオに関わる収入が…。映画化を皮切りにゲーム本体も全世界拡大展開、の話も本当なのかなあ。
「ケインさん見て下さい!私、会員証を更新したんですよ!」
「え、や、その撮影データは両…カズキとエリカには絶対見せないで下さいね?FWOでも、リアルでも」
銀行カードではない、高橋さんのノーマル会員証の表面には、ミッキーと『ルーク』のアバターが一緒にプリントされている。これはヤバい。絶対秘匿だ。
「もちろんです!その代わり…握手して下さい!」
協力者としてありがたい、と思ったのは早まったかなあ…。




