第21話「ベタベタせず、しかし、心が通じ合っているこの感じ」
両親のアバターは、共に高校生風。高校の制服を着ているとかではなく、16歳くらいの、平均的なジャパニメーション主人公のような風貌、という意味合いだ。
なんでも、昔流行った異世界転移モノ作品の主人公達を参考にしたらしい。アバター名は、父親がカズキ、母親はエリカ。…はて、あったっけか、そんな作品。
「で、こちらが商店街です。僕やリーネはあまり寄らないのですが、プレイヤーやNPCが店をやっていて、食事とかもできるんですよ。まあ、有料になりますが」
「ケイン、それなら、魚屋」
「ああ、そうだった。とりあえず、魚屋に行ってみましょう。知り合いのプレイヤーがやっている店で、お刺身などを出す食堂も併設しています。ごちそうしますよ」
基本的には、ケインが流暢に説明をし、時々、リーネが補足をするようにケインに話しかける。ちょっとだけ、袖を引っ張って促すように。
んー、いいねいいね。あんまりベタベタせず、しかし、心が通じ合っているこの感じ。同一人物だから当たり前だけどね!
周囲にいるプレイヤーアバター達からは、羨望とも嫉妬とも怨嗟ともとれるオーラが漂ってくる。残念、これは自作自演だ。
「あら、ごちそうだなんて、悪いわ。初ログイン特典で、えっと、ひとり銀貨10枚あるんだから」
「いえ、知り合い価格でだいぶ安く食べられるんですよ。お任せ下さい」
高橋さん…ミッキーのあの様子なら、タダで食べられるかもしれないしね。
そんなわけで、早速魚屋へ…というところで、ちょっとやっかいな人達が走ってやってきた。
「ケイン!」
「リーネ!…はぁはぁ。何よ、今日は、ログインしないんじゃ、なかったの?」
シェリーとソルト、あらため、ミリーとビリーの姉弟だ。
ログインしないって言ってないもん、レベル上げと図書館探索を休むって言っただけだもん。
しかし、そんなに息せき切らして問い詰めるようなことかな?
「ああ、ごめん。フレの知り合いの初心者プレイヤーを案内することになって。そのフレには借りがあってね」
「借り?しかも、ふたりそろって?」
「あたしは、ケインの付き添い。ケインだけだと、トラブルが発生しそうだから」
万が一にもPKが現れたら、ケインはともかく、両親アバターに被害が及びかねない。図書館や露店地域は割と人目があるから、PKが現れることはほとんどないんだけど。
ちなみに、リーネだけの案内では殺伐とし過ぎる。ロールプレイ厳守である。
「なんだ、そういうことか…。てっきり、ふたりのリアフレかと」
「『りあふれ』?どういう意味かな」
「現実世界での知り合い、って意味ですよ。ああ、御心配なく。僕らはおふたりの素性については詮索しませんので。どのような御関係とか、ね」
そう、ケインとしての私が言うことで、防衛線を張ったつもりだった。
「あら、私達は夫婦よ。『ルーク』でしたっけ、あの男の子は娘で。あの娘から聞いてませんでした?」
ちょっ。
「『ルーク』?それが、借りのあるっていう、ケインのフレなのか?」
「しかも、リアル女の子?」
ああほら、面倒なことになったよ。
◇
ミッキーの魚屋食堂で、新鮮なお刺身をつつきながら歓談する、私達6人。大所帯になったなあ。
なお、ミッキー高橋さんはやっぱり全部タダにしてくれた。姉弟の分まで。目をキラキラ輝かせながら。そういえば、この姉弟もFWOでは有名なプレイヤーだったっけ。
あ、既にふたりのサインが店に飾られてる。以前の名前を使ったサインは希少ですかそうですか。
「まあ、そうでしたの…。『ろーるぷれい』、ですか。あの娘に悪いことしたかしら」
「他のプレイヤーには言いませんから。ミリーとビリーもいいよな?」
「まあな。すまん、俺がリアフレとか余計なこと言ってしまったせいで」
それはまあ、しかたがない。両親が素朴すぎた。大規模SNSとかも使ってないみたいだし。あと、この姉弟はリアル上等。
「で?そのルークって子、ケインとどういう関係?」
なものだから、この話題を引っ張る引っ張る。
しかし、シェリー…ミリーも、ケインと気さくに話すようになったなあ。食事会と、あと、『ハルカ』の件が一応の決着をみて吹っ切れたのかな。名前を戻したのも影響しているようだ。
「昔、僕が作った防御石のお得意さんだったんだよ。レベル1の魔石なんて見向きもされなかった頃のね。今では彼女…彼の作る魔石の方が性能いいけど、フレのつながりは残っていてね」
「ああ、そういえば、娘はFWO開始初日からプレイしていると言っていたな」
「え、それじゃあ、あたし達よりも古参!?知らないはずだわー」
ふう、なんとか軟着陸させたよ。両親よりも、姉弟の対応の方が疲れるって…。




