表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/150

第18話「姉貴の課金厨嫌いの気持ちがわかってきた」

「これ、どうしよう…」


 ある日の夕方。現実世界の自室で、端末画面に表示した、銀行口座の出入金一覧を目の前に、困惑する私、佐藤春香(さとうはるか)

 18歳の高3。あと少しで高校を卒業し、大学に入学する予定。ちょっとばかり小柄だが、至って普通の、平凡な学生だ。繰り返す。普通で、平凡だ。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、……。何度数えても、同じ桁数…」


 記録された最後の行の、一番右端、残高。ああいや、口座残高は画面右上にも表示されているけど、この残高に至るまでの出入金記録と共にそれを見て、ため息をつく。


 所得税払って、これって…。サラリーマンの平均生涯所得、いくらだったっけ…?

 そういう比較対象を考えるほどの金額が、そこには表示されていたのである。



 ソルトに、こう聞かれたことがある。


「なあ、ケイン、やっぱお前って、リアルでも金持ちなの?」

「へっ!?え、あ、いや、そういうわけでもない、かな?」

「じゃあそのアバター、どうやって手に入れたんだ?初期投資だけでも金貨5枚は必要だろ?」


 そんなの、レベル1のリーネでも雑魚討伐数日分だけで…というのは、心の中に留めておく。


 『フェルンベル・ワークス・オンライン』における仮想世界では、通貨単位というものが存在しない。金貨1枚=銀貨100枚、銀貨1枚=銅貨100枚。それだけだ。

 日本円で例えるなら、銅貨が十円玉で銀貨が千円札か。そして、FWO内のあらゆるモノ・サービスの価格は、現実の物価水準を参考に決められている。

 つまり、金貨5枚というのは、現実世界でいう五十万円相当であり、ゲームを始めたばかりのプレイヤーがFWO内で簡単に稼げる額でない。…リーネは数日で稼げたけど。


 FWO内で稼げなくても、現実世界から課金してゲーム内貨幣を手に入れることもできる。レートは、金貨1枚一万円。ケインアバターの初期投資を課金で賄うなら五万円だ。

 始めたばかりの私とてそんな課金をするはずもなく、リーネが既定額を稼いですぐにケインのアバターを作り直した。リーネは、食事会の時までほぼ初心者装備で済んでたし。


「それともお前、結構年上?社会人で金持ってるの?」

「年齢とかは教えられないけど、そんなにお金持ってるってわけじゃないよ」

「ホントか?まあ、あまりログインできない社会人が、アバターの、しかも、初期投資だけでぽーんと何万円も出さないかあ」


 いやあ、わからないよ?時間をお金で買う人は割といる。いわば、リーネの一心不乱の雑魚討伐報酬を、課金でカバーするようなものだ。

 でも、お金をかけた分、愛着やら執着やらが湧いたり、ゲーム内でもとを取ろうとしたりして、でも結局時間が取れず、後悔する。結果的に、そんなプレイヤーは少数だ。


「ということは…やっぱ、リアル金持ちか?くそう、リーネちゃんも稼ぎ頭なのに、そこに更に課金で…。あ、姉貴の課金厨嫌いの気持ちがわかってきた」

「い、いや、始めた時に、ちょっとツテがあってね、クーポンとか併用できたんだ。ゲーム初めてだったから、確かに少し奮発したってのも、あるかな」

「あー、そういえば、サービス開始直前に先行登録特典の抽選があったっけ。その特典を誰かにもらったってことか?」


 あいまいな表情で、肯定とも否定ともとれない笑顔を返しておく。よし、今日の嘘八百も健在だ。



 という感じなので、リアルを含めて、あの姉弟にお金の話題を振るのは得策ではない。

 リーネとケインの中の人が、複数のPV協力費用やら広告費マージンやらフィギュア肖像権使用料やらで、リアル金持ちになってしまったと知られたら、たぶん縁を切られる。


 まあ、わかる人はわかるだろうなあ、運営から結構な額のリアルマネーもらってること。この間の事件をきっかけに、一般雑誌やTVとかでさえ特集組まれてたりするし。

 幸いなのは、FWOの運営会社が、こういった金銭関係に関して非常に誠実ということ。『上司』さんは特にそうだ。…この間の事件の迷惑料的なものもあるのかもだが。


「ここはやはり、両親に正直に話して、なんらかのアドバイスを…」


 18歳になると、いろんな『契約』が電子署名で単独でできてしまう、そんな時代。しかし、お金があるとトラブルに巻き込まれやすくなるのは、いつの時代も同じだ。


 ネットで調べればいろいろわかるが、両親は私がVRゲームをやっていることを知っているし、きちんと話をしてアドバイスをもらうべきだろう。

 とはいえ、あまり深刻に切り出すのは誤解を招きそうだ。今晩は一緒に晩御飯食べる予定だから、その時にでも話題を振ろうかな。


 コミュ障気味の私は、両親にさえ遠慮した話し方になってしまう。 無難に進めて損はない。よし。



「ほー、今のVRゲームはすごいんだなあ。続けるには結構お金がかかるのか?」

「う、ううん。この間、買ってもらったヘッドセット、があれば、ネット経由で、ほとんどのことが、できるよ」

「そうなの?じゃあ、私達もやってみない?この、『フェルンベル・ワークス・オンライン』っていうの」


 なんですと―――――――――!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=463137323&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] おや? 参加? 親、参上!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ