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第1話「リーネとケインが同一プレイヤーであることは極秘だ」

 ―――安寧なるスローライフを、この手に。


【全体メッセージ:プレイヤー『リーネ』率いるパーティが第5エリアのボスを討伐しました。第6エリアを開放します】


「うお、あのプレイヤー、第5エリアもクリアしたのか。相変わらず、トップをキープしてるなあ」

「だなあ。経験値も凄いらしいし…おお、プレイヤーごとに金貨300枚か」

「金貨300枚!?現実なら3千万円相当じゃないか…って、なんでお前が知ってるんだ?」

「え、あ、いや、これまでのエリアボスクリアの報酬が、順当に増えればそうなる…らしい」


 しまった、つい『目の前の個別メッセージ』をケインとしてしゃべってしまった。リーネの方が討伐直後で気を抜いてしまったかな。


「そっかー。それだけあれば、俺も大きな商店が買えるんだけどなあ」

「僕は、こうして露店販売できる程度でいいかなあ。スローライフが一番」

「ガチなエンジョイ勢は言うことが違うね。ま、楽しみ方は人それぞれか」


 ガチ勢なのかエンジョイ勢なのかよくわからない評価を、顔馴染みの隣の露店主『ソルト』に言われてしまった、ケインとしての私。

 しかし、あながち間違いでもないだろう。レベル上げよりもむしろ、このゲームに存在するあらゆるポーション作製や魔法発動を試しているという意味では。


 ではなぜこうしてぼーっと露店販売しているかと言えば、リーネが討伐クエストで戦闘をしている時は、そちらに意識を集中する必要があるからだ。

 戦闘中はケインとしてはログアウトしてもいいのだが、こうして露店販売すれば『アリバイ』にもなる。

 リーネとケインが同一プレイヤーであることは極秘なのだ。運営は認めてくれたが、他のプレイヤーにチートと思われても困る。…チートじゃないよね?


「でもよー、最低限とはいえお前ほどスキルを網羅してれば、もっと儲けが出るヤツ作れないか?」

「レベルが最低限だから、作るのに時間がかかるんだよ。あとはまあ、ゲーム内ではそれほど稼ぐつもりはないというか」

「この課金厨めが。イケメン造形も結構金かけたんだろ?」


 課金厨ちゃうわい、と言いたいところをぐっとこらえ、否定も肯定もしないでおく。ゲーム内貨幣はリーネががっぽり稼いでいて、ケインに譲渡できるのである。

 あと、イケメン造形は私の趣味だ、文句あるか。初めの頃のリーネの討伐報酬の多くをつぎ込んだのだ。どうせリーネは攻略しかしないし。…ヒモみたいだな、ケインの私。



 ―――この世の全ての魔を、攻略する。


「リーネ、おつかれー。今日も凄かったわねえ」

「そうでもないよ。みんなが、サポートしてくれた」


 スポーツドリンク代わりのHPポーションを飲みながら、パーティメンバーの『シェリー』にそう答える、リーネとしての私。

 この初級ポーションはもちろん、ケインが作ったものだ。


「サポートったって、2〜3回程度のターンだけだったじゃないの。攻撃はほとんどリーネの蹂躙だったし」

「その2〜3回が重要。あたし、防御や回復魔法が皆無に近いから」


 リーネは、剣攻撃に特化して成長させている。カンストというわけではないが、剣術スキルは他のどのプレイヤーよりもレベルが高いと自負している。紙装甲だが。


「でも、いくら剣術極振りでも、そのレベルはないわあ。どうやって上げてるの?」

「一に雑魚討伐、二に雑魚討伐、三、四、五も雑魚討伐。FWOの全ての魔物を、攻略すればいい」

「数時間討伐し続けるのを何日もって、どういう神経してるのよ…。昔のキャラ育成じゃないのよ?」


 うん、私も、フルダイブでそんなことばかり続けたら気が狂いそう。ケインとして、並行して魔道書読んだりポーション作ったりしてなければ。


「少女アバターの廃プレイヤー…。ねえ、リーネ。あなた、リアルは男?」

「ぶっ…なんで、そうなるの」

「だって、剣術無双のロリキャラって、男の理想のひとつみたいよ?」


 うんうんと頷く、パーティの野郎共。マジですかい。

 リアルの私はれっきとした女だ。むしろ、男アバター(ケイン)も使ってるネナベ側だ。


「昔やったVRゲーで、その、ちょっと凝ったアバターにしたら…」


 いやもう、ウザかった。明らかに中身がザ・男のプレイヤーが寄ってくる寄ってくる。アバターは男女取り混ぜてだが。結局、ろくに攻略パーティが組めなかった。

 それに懲りて、リーネの造形は基本、デフォルトの少女アバターを更に少し幼くしただけの設定にした。見た目に金をかけるのはケインだけでいい。


「よくわかんないけど、少女設定でこーんな胸してるのは、狙ってると思われてもしかたないよ?」

「ひゃっ!?」

「あら、反応いいわね。中身やっぱり女?」


 シェリーが後ろから抱きついて胸を揉みまくってくる。うわ、変な声出た。野郎共、拝むな。

 PK判定が出る前に振りほどく。なんで私の方から離れることになるのよ。

 ちなみに、リーネの巨乳設定も私の趣味だ。せっかくのVRアバターなんだからいいじゃないか。…ぐっすん。


「と、とにかく、基本値が低いから、地道に経験値獲得して、スキルポイント振らないと」

「難儀なポリシーねえ…モテないわよ?」

「シェリー、あたしをどうしたいの。今日はもう解散。あたしはレベル上げに戻る」


 いいの、私はケインの方でスローライフ楽しみますから。今だって、お客さんや他の露店主となごやかに談笑している。

 売ってるのが安価なポーション中心のせいか、初心者プレイヤーも男女関係なく気軽に買いに来てくれる。ケインとしての私は、このままのほほんとしていたい。

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