第16話「諸悪の根源は、やっぱり私だった」
中止となった第1回バトルロイヤルの、後日談である。運営は約束通り、今回の『事件』の詳細を、公式掲示板や報道機関を通じて発表した。
私が思い出した『あの時』とは、課金女…『ハルカ』として活動していたVRゲームのアカウント抹消を決心した出来事だった。
簡単に言えば、今回の事件とほとんど同じである。チートツールを使ってイベントに乱入し、システムに不具合を起こしてシャットダウンに持ち込む。
『ハルカ』への誹謗中傷が頂点に達し、肩を持ったとされる運営会社にまで迷惑行為が繰り返された、短い時期の混乱に乗じて不正侵入された。
その時も、イベントトーナメントでシャットダウンが起こるようチートツールを使っていた。イベントの中枢システムに近づき、不正コードを送り続ける。
が、チートだろうがなんだろうが、役立たずにして除去すれば終わりである。過去のVRゲームの経験から不正コードを察知した私が、実行犯のアバターを見つけて『ハルカ』としてぶった切った。
膨大な数のプレイヤーが一斉に強制ログアウトしたとなれば、社会的に大きく問題視され、運営会社は非難を免れない。つまり、同業他社による非合法の妨害工作である。
今回は、新規プレイヤーの急増に紛れて、非正規に作成されたアカウントで仕掛けてきた。具体的には、あのキャンペーンで使用された機材の不正使用だ。ダメじゃないの。
今回の『ハルカ』アバターは、前回不正侵入された直後にシステム内部からコピーされたものを基に作成されていた。
なんでまた『ハルカ』の造形を、と思ったら、前回の実行犯と今回の実行犯は裏でつながっており、前回の実行犯の経験から、今回は防御チートを追加したようだ。
そして、どちらの実行犯も、『ハルカ』にこっぴどく振られていた。
そう、諸悪の根源は、やっぱり私だったのである。…私が解決したんだから、いいよね?
◇
ざくっ、ざくっ、ざくっ、…ざくざくっ
「で、なぜふたりは途中参加できたの?」
「運営から何度もメッセージが届いていた。気が変わったらいつでも言ってくれって」
「公式チートじゃないの…」
いいんだよ。イベントは事件で中止したけど、詳細発表に伴うコロッセオ内映像の公開で、また新規プレイヤーを激増させたんだから。『チン、と鞘に』はやり過ぎたか。
あと何、あのリーネとケインのフィギュア販売。キャンペーンで機材をバラまいたのはまずかったからって、そっちの戦略に転換したとか。まあ、マージンは頂いてるけど。
「あたし、ケインのフィギュア買っちゃった!図書館版と、コロッセオ版!」
「シェリーはそんなことより、ソルト…弟さんに、もっと素直になるべき」
「うっ」
別に、恋人同士のようにイチャつけとは言わないよ?でもね、黒歴史がどうだの他人に言いふらすのは、自分の首を締めているだけだと思うんだよ。
あとね、本来の黒歴史っていうのはね、忘れたくても忘れられず、そして、思い出した途端に床を転がってわめきたくなるような…
ざくっ…ざっ…
「あっ」
「あら、一匹逃げてった。珍しいわね?」
「…問題ない」
ざくざくっ、ざくっ、ざくっ、ざっ
◇
「ところで、『フリューゲル』って何?」
「げほっ」
それを、露店販売の真っ最中に尋ねてきますか、ソルトくん。ほら見なさい、買い物客どころか、通りがかりのプレイヤー達まで耳を澄ましてる。
「いや、『リーネ』や『ケイン』を名乗りたいって要望が増えたらしくてね。アバター名はUnicodeで十文字までOKだから、運営とも相談して、名字相当を考えて付けたんだ」
「名実共に、夫婦となりましたかあ…。FWOって、結婚システム実装しないのかな?」
「さ、さあ…」
結婚システムってアレだよね、ストレージが共有されるやつ。まるで意味ないなあ、リーネとケインの場合。
「ソルトも、シェリーとやってみたら?同じ名字を考えるのは、結構楽しいかもよ」
「んー、その前に、名前そのものを変えるかも。戻す、ってのが正確だけど」
なるほど、似た響きの名前か。姉弟っぽくていいかも。