第14話「ふむ、お主なかなかやるな。しかし、妾には効かぬ」
黒歴史としての要素は、いくつかある。
その1:ほぼ本名を使っている。
その2:巫女装束+刀という組合せである。
その3:口調が―――
『ふむ、お主なかなかやるな。しかし、妾には効かぬ。剣も、魔法も、な』
うわああああああああああ!!!
なに、『お主』って!なに、『妾』って!
頭から体から羞恥心でいっぱいだよ!リーネとケインのアバターのままで転げ回らなかった私を褒めて!
ていうか、運営!戦闘が盛り上がっているからって、声まで拾って拡声しないで!
あ、でもなんか相手あっさりやられた。魔力を込めた刀は切れ味いいなー。って、今はそこじゃないよ、私。
「…なんで、なんで、あの娘がここに…!?」
隣のソルトは、しかし、いや、当然ながら、困惑したような、泣き出したくなるような、そんな表情を見せながら、声を絞り出すように、そうつぶやく。
い、いや、確かにそうだ。『ハルカ』は…うがあああ!…はあはあ、は、『ハルカ』は、FWOとは全く別の会社が運営しているVRゲームで作ったアバターだ。
そして、抹消している。だから…あれ?抹消したのは、アカウントだけ?アバターのデータって、どうしたっけ?
…ま、まさか、どこかにまるまる残ってた?いやでも、FWOとはコンバートできるほど互換性なかったよね?
などと、未だ羞恥心冷めやらぬ頭で思案を巡らせていると、戦闘スペースでは、ついに出逢ってしまっていた。
『あ、あんた…、あんた、は…!!』
『ほう?その動き、その面影。もしかして、「ミリー」殿かな?』
『こ、こんの、課金女ぁ―――!!』
ああ、そうそう、そんなアバター名だったね。『美里』→『みり』→『ミリー』だったのか。まあ、許容範囲だよ、うん。
キンッ、キンキン、ザザッ、カキィン!
おいおいミリー…じゃなかった、シェリー、魔導師が杖で撲殺しようとしてどうするのよ。
『「ビリー」殿は元気かな?それとも、妾が気づかぬ内に倒してしまったかの?』
『あっ、あんた、のっ、あんたの、せい、で…!!』
うわあ、シェリーが錯乱しながら杖振り回してる。どんだけ健人くんのこと愛してるのよ。
しかし、『美里』→『びり』→『ビリー』か…。健人くん、当時は完璧お姉ちゃんっ子だったのかな。それが今じゃ塩対応…誰が上手いこと言えっていった、私。
『くっ…【ストームバレット】!』
『なんの、【ハウリングスキン】!』
シェリーの頭上にいくつもの風の塊が生成され、『ハルカ』に向かって放たれる。しかし、巫女装束に到達する直前で弾かれる。
ふむ、当たり前だが、魔法体系はFWOのそれか。しかし、『バレット』系の攻撃を『スキン』系で防げたっけ…?対人戦だと判定が違う?
…と、ケインとしての私が分析する。あのアバターはやはりゼロからの模倣かな。でも、ミリーやビリーのこと知ってたし、当時のフレではあるのか?…何百人いたっけ。
『これで、消えなさい!【メテオフラッシュ】!』
『ふん。【シルバーウォール】』
今のシェリーのMP容量の半分を注ぎ込んだ、単体攻撃魔法が発動する。第17エリアのボスなら、HPの五分の一は削られる。
しかし、やはり先の攻撃と同じく、『ハルカ』の装備に触れることすらなく、霧散していく。
…ない。これは、あり得ない。
【シルバーウォール】なんて、せいぜい魔物数匹の攻撃に対する耐性しかない。いや、『ハルカ』が活躍していたVRゲームの同名魔法なら、もっと防御力があったか…?
その時、全体メッセージが流れた。
【全体メッセージ:システムが異常を検知しました。メンテナンスのため、『フェルンベル・ワークス・オンライン』は、5分後にシャットダウンいたします】




