第33話「私が自ら選んだロールプレイのために」
2017/10/18 -- 11/15
火星側の転移門では、フェルンベル総裁が出迎えてくれた。早速ふたりで、仮想世界システムがある研究所に向かう。
「記者会見を見たよ。やはり強制ログアウトしかないのかね?」
「ええ、それが最良の方法でしょう。私が来なくとも」
「ん?どういう意味かね?」
正直に、話しておこうか。火星における最高責任者だからね。
「私がこれから何をしようとも、強制ログアウトさせるしかないかもしれません。フェルンベル総裁、あなたの手によって」
「私の?」
「ええ。私はこれから、仮想世界システムにログインします。私が既定時間を超えてもログアウトしなければ、システムそのものをシャットダウンさせて下さい」
結局は、私のワガママなのだ。渡辺 凛が仕掛けてくるであろう、その方法を使って、全てをはっきりさせるために。
「…君が何をしようとしているのか、聞いても?」
「私が自ら選んだ役割を果たすために、彼女と話をするだけです」
「…そう、か。わかった、後のことは任せてくれ」
そうして話を終えた頃、私達は研究所に到着する。仮想世界システムと、傍らのカプセルで眠っている、渡辺 凛がいるところに。
◇
渡辺 凛が眠る、その隣のカプセル型フルダイブ装置に、私は入る。カプセルのオプションポートに必要な情報一式を格納したストレージ装置を接続し、準備を終える。
「接続同期完了。フルダイブ開始」
◇
視界が変わり、仮想世界に降り立つ。『コアワールド』をベースにしているだけあって、元のFWOと…
「やっ、佐藤春香ちゃん。遅かったね」
「渡辺…凛…」
管理者権限をもってダイブしているのだ、時間加速10倍なら出現タイミングはすぐにわかるだろう。
「さて、『罠』であることを承知で、来たのよね?」
「…来た。とりあえず、他のプレイヤー…住民を、ログアウトさせて」
「うん、わかった♪」
そう言って、目の前に操作パネルを出現させ、あっさり通常ログアウトさせていく。遠くにいたプレイヤーも、光の粒に変わっていく。
「ん、これで全員っと。あ、もちろん、春香ちゃんはログアウトできないよ?」
「そう。なら…」
「僕が、奪う」
渡辺 凛の後から、声をかける、ケインとしての私。
「!?そ、そんな、ここはFWOじゃ…!」
「Knsq uyflptr ?」
「…!!ケインも!?リーネやハルカだけじゃなく、ケインのプレイヤーも春香ちゃんだったの!?」
そーだよ。気づくの遅すぎ。まあ、おかげで、こうして切り札として使うことができた。ケインの手は、渡辺 凛のアバターをしっかり掴んでいる。
「っ!?管理権限を盗られた!?」
「あなたにも、ログアウトしてもらう。でも」
「その前に、確かめさせてほしい。あなたは、僕と…佐藤春香と同じ世界で、超加速時間を発生させたかった」
「そ、そうよ!そうすれば、またあなたと知識や能力を一瞬で共有できるから!」
なるほどね。100万倍以上の時間加速が複数人のフルダイブで成功した場合、そういうことができるのか。
でも、『一瞬』かあ。理論上、そんなはずないんだけどなあ。
「それで?」
「それ以外にないわよ!博物館の展示装置を使ってふたりでフルダイブして、一瞬のうちに弾かれて強制ログアウトしたら、『現界』能力が身についていたり、『コアワールド』が出来てたんだから!春香ちゃんは、小さい頃だったから覚えていないかもだけど!」
うん、覚えていない。でも、それだとつじつまが合わないんだよ。あの雄大な仮想世界データが、とんでもなく手作り感漂うあのデータ群が、一瞬で出現するはずないんだよ。
「博物館は匿名入場で、ログアウトした後も何も言わず帰っていったから、春香ちゃんの素性がわからなかった。だけど、『ハルカ』アバターの接続パターンでわかった。あの博物館の時の接続データが残っていたから!」
「その時から、追いかけていたと?」
「ええ、いろいろ失敗したけど、春香ちゃんはどんどんその能力を発揮した!私の目に狂いはなかった!佐藤春香ちゃん、あなたは神にも等しい能力をもつ『創造主』よ!その能力があれば、世界の全てが手に入る!」
なんか、他の人にも似たようなことを言われたなあ。そんなに、世界の全てとやらを手に入れたいものなのだろうか。まあ、価値観の違いということにしておこう。
「もう、わかった。あなたは」
「そろそろログアウトしてもらおうかな」
「まっ…!!」
渡辺 凛のアバターが、この世界から消えていく。
◇
「ああ、もう!もう少しだったのに!」
「凛!お前は!」
「うわ、おじい様!」
「はあ…全く、なんてことをしてくれたんだ」
「あーあ、ここまでかあ。ま、でも生きてれば、もう一回くらいチャンスが…!」
「ところで、彼女は?」
「彼女?」
「佐藤春香さんだよ。彼女はなぜログアウトしないのかね?」
「え…?」
◇
「ケイン、行こう」
「ああ、リーネ」
私は、渡辺 凛から奪った管理権限を使って、時間を超加速させた。全てを思い出すために―――