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番外編「学園180分コース!(4/4)」

2017/10/18 -- 9/15

「ああ、もう、3位だったー!」

「悪いな、ミリー殿。(わらわ)は走るのも得意でな」

「私は、そこそこ」


 体育大会当日。

 ‎長距離走での結果は御覧の通り。リーネとしての私が1位になっても良かったのだけど、アバター性能を考慮してそうなった。


「それにしても、NPC達の運動能力もすごいわね…」

「俺、パン食い競争でビリだった…。ビリーだけに」

「健人、面白くないわよ」


 美里が辛辣だ。学業はともかくセンスについては厳しいよね。リーネとしての私の服装とか。

 ‎ちなみに、今回はケインとしての私が内部で作り出したNPC達を大量に投入している。各種部活動のデータが溜まったからね。半分くらいは嘘でなくなったよ!


「つまり、残り半分は未だ直接操作してるってことよね…」

「あ、あのコケた選手、NPCじゃないですよね…」

「本当に、どうなってるんだろうねえ、春香くんの頭の中…」


 んー、まあ、フィーリングというかノリみたいなものもあるんですよ。あ、このタイミングならこんな動きかなーっていう。私、人間観察もよくしてるから。


「ってことは、春香さんって、私達のフリもほぼ完璧にできるということですか…?」

「できるけど、する理由がない」

「春香ちゃんが真面目で誠実な娘で良かったわ…」


 また3人してしみじみと。


「ほい、お母さん!」

「まかせて、お父さん!」


 その頃、両親は絶賛リレー中だった。ああ、でもあの組はブービートラップかなあ。



「いらっしゃいませー!ケーキセットが安いですよー!」

「安いよ安いよー!ホントだよー!」


 文化祭当日。

 ‎ウチのクラスはオーソドックスに喫茶店だ。いや、本当にオーソドックスというなら、地元の情報を調べて掲示を作って展示、というものなのだろうけど。


「それ、リアルの中学高校の時に何度もやった!クラスのみんな、やる気ない人多かったんだもん!」

「それってたぶん、姉貴が張り切りすぎてみんなついていけなく…げふっ」

「ビリーくん、それ、正解」

「春香までひどーい!」


 まあ、今回はそもそも地元なるものがないけど。


「2名様ごあんなーい!」

「いらっしゃい、ませ」


 なぜか私は呼び込みとかをさせてくれず、教室の中で田中さんと給仕に徹することとなった。

 ‎呼び込みは高橋さんと美里、料理は両親、コーヒーなどの飲み物は伊藤先生が、それぞれ担当することとなった。


「いいじゃないですか、気楽で」

「でも、なんとなく、むなしい」

「まあ、来客も全員、春香さんですしね…」


 そういう意味では、料理とか飲み物担当が良かったのだが、やっぱりここでも調理の類はダメ出しされた。解せぬ。


 ちなみに、ビリー健人くんは逃亡…ではなく、ケインと後夜祭の準備をしている。


「先輩の歌、楽しみだなあ」

「伊藤先生もいることもあって、日本語訳がほぼ完成したそうだからね」

「うひょー。先行ライブだぜ!」


 後夜祭はライブとフォークダンスを中心としたものだ。キャンプファイアもあるから、それなりの準備が必要になる。


「薪の用意は妾に任せるがいい!」


 ああ、ハルカとしても手伝いましたよ。なぜかあった手斧でスパンスパンと。


「彼女のイメージ、少し変わったかも…」

「そうかい?」


 それは良かった。でも、薪を割る姿で変わるイメージって何。



 文化祭も滞りなく終わり、冬休みが近づいてくる。


「教会も、お寺も、神社も、ない…」

「ごめんねー、学園コースだからねー。でも、ショッピングモールにはクリスマスツリーが飾られるよ!」

「やったー!」


 早速美里がわかりやすい反応をしている。この分だと、冬休みの宿題もすっぽかすだろーなー。


「クリスマスはターキー買ってみんなでパーティやりましょ!学寮の食堂使って!」

「鳥の丸焼きなら、私が」

「むー、わかったわよ、今度は任せるわよ」


 よし、ようやく私の料理を振る舞う機会がやってきた!我が攻略魂を注いだ一品を味わうがいい!


「春香ちゃん、『ハルカ』が入ってるわよ」

「というか、ケインとしての春香さんなら料理もうまくいくんじゃないですかねえ…」


 失礼な。


「まあ、この世界でも春香のターキーが食べられるのね!」

「毎年これが楽しみなのだよな!」


 ほら、ウチの両親は喜んでるじゃない。

 ‎とにかく、今から仕込んでおくか。七面鳥は郊外で飼育してたんだよね。


「え!?成長するんですか?」

「内部で作っていた、動物NPCを、改良した。世界の時間に合わせて、変化するようにした。子供を生む仕組みは、まだだけど」


 あれ、高橋さんと田中さんと伊藤先生が魂の抜けるような表情になった。そんなに驚くこと?これだけ長く生活してるんだから、そういう変化がないと不自然だよね?え、そういう話じゃない?



 正月が過ぎ、3学期が進み、そして、終業式。


「あっという間の1年だったわねえ…」

「ですねえ…。特に、9月からの半年が」

「なぜなんでしょうねえ。しかし、そういえば現実でもそんな印象がありますね」


 リアル社会人組がそんなことをのたまう。ああ、うん、それはたぶん、日照の問題だと思うよ?春から夏までは日が長いからね。緯度によってはサマータイムを導入するくらいだし。で、秋から冬はその反動。


「それで、どうする?あと2年、続ける?みんなの現実の体も特に問題は出てないみたいだし」

「私は続けたい!また健人と春香と夏を過ごしたい!」

「私も、まだ読みたい本が残っていますね。家族がなつかしいですが、なんとかなりそうです」


 伊藤先生、すごいなあ。私達は両親や恋人が一緒だからなんとかなっているところがあるのに。


「私達も構いません。春香もいますしね」

「ずっと家族で過ごせるなんて素敵だわあ」


 あと、ふたりとも、人工島の半分しか歩いていないって言ってたもんね。


「じゃあ、決まりね!このまま続行!」



 そして、卒業式。

 ‎つまり、この世界にログインしてから、ようやく3年が経過しようとしている。


「う、うう…。もっと、もっといたかった…!」

「いや、姉貴、さすがに長いって」

「何よ!健人は私といるのがそんなに嫌なの!?」

「そ、そういうわけじゃないけど、ほら、家族や友達の顔も見たいなーって」


 ああ、またやってるよ。このシーン、2年目の終業式でも見たし。


(みのる)さん、ログアウトしたら結婚しましょ。可及的速やかに」

「そ、そうですね、ええ」


 この二人は、いい加減同棲生活を再開したいらしい。いや、あなた達、学寮以外で結構イチャついてたでしょ?通行人役の私はちゃんと知ってるよ?


「いやあ、案外読み切れるものなのだなあ。もっとも、また最初から読み直したくもある。蔵書参照のためだけにFWOにログインするのもいいかもな」

「先生さえよければ、僕もお供しますよ」

「そうか、助かるよケインくん!…なるほど、確かにケインくんだな…」


 ん?伊藤先生、私、何かおかしなこと言いました?


(わらわ)も学園生活を堪能した。剣や魔法だけでなく、武術も嗜んだしな」

「体育大会で一度も勝てなかった…!」


 じゃあまあ、またFWOでハルカVSミリーで走り回りましょうか。あの広大でほとんど何もないビリーくんのエリアとかで。


「まあ、そろそろ潮時だな。仕事も気になるし」

「そうねえ。あの子達、うまくやってるかしら」


 いやいやいや、現実では3時間しか経っていないんですって、お父様お母様。今更そんなこと言うとは思わなかったよ!って、もしかして、何年も経っているかもと思いつつ今までここに滞在してたの!?


「数日後に自動ログアウトするからね!それまでに、いろいろと整理しておいてね!」

「っていったって、何もないよな?」

「強いて言うなら、学園側の設備で撮影した写真くらい?」


 ああ、ごめん。それ、ほとんど私。いやあ、いろいろとNPCやら環境データやら作り散らかしちゃって。そのまま技術スタッフに渡すのもなんなので、整理する時間が欲しいのよ。


「ま、いいわ。最後にみんなでまたあちこち行っておきましょ!公園とかカラオケとかハンバーガーショップとかアクセサリー店とか海とか山とか…」

「多すぎ」



 そして、ログアウト。カプセル型フルダイブ装置からゆっくり起き上がる。少し、体を動かしてみる。うん、なんともない。

 ‎傍らの操作パネルで、現在の年月日を見る。うん、確かにフルダイブ前と同じ日だ。これまでは、時分秒をまず確認していたものだけど。もちろん、時刻もきっちり3時間経過していた。


「…長い、長い夢を見ていた、そんな気分…」

「そう、だな…」


 そうそう、それそれ。時間加速が強いほど、ログアウトした時にそんな気分になる。でもまあ、理屈は合っている。

 ‎フルダイブとは、脳以外の肉体を睡眠状態にするだけでなく、脳そのものにも休眠効果を与えてリアリティ感を増すようにしている。要するに、人間の夢を見る『能力』を活用した仕組みでもあるのだ。時間加速が強ければ休眠効果も高いということになる。


「でも、3年間の経験は、結構、覚えている」

「そうだね。ところどころあいまいではあるが、でもそれは、現実でも同じだしね」


 だとすると、『コアワールド』を創った時の私には、どれだけの時間加速がかかったんだ?過ごした時間も、数十年では効かないかもしれない。うーん。


「じゃあ、春香、帰りましょ」

「そうだな。本当に3時間しか経っていないからな、ゆっくり帰宅できるぞ」

「そう…だね」


 ウチの両親のマイペースさにはほとほと感心する。ある意味、ケインの原点かもしれない。造形は、フェルンベル総裁の若かりし頃だろうけど。


(みのる)さん、市役所まだやってたわよね?えっと、証人はふたり要るんだっけ?」

「ちょ、ちょっと、美樹(みき)さん、落ち着いて下さい。ひとまず家に帰りましょう!」


 あ、高橋さんがおかしくなった。まあ、事後処理は明日以降でもいいと思うけど。


「ねえ、健人、中学の頃の制服ってまだある?」

「え?あると思うけど、もう小さくなって着られないと思うぞ?」

「そっかー。あ、春香なら」


 さあお父さんお母さん、すぐ帰りましょうそうしましょう。今日はひさしぶりに私がクリームシチュー作るよ!あれ?現実時間では昨日も作ったっけ?おや?

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