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第30話「近所のガキ大将をやってたくらいだからな」

2017/10/18 -- 4/15

 渡辺 凛(わたなべりん)の博士論文『フルダイブ技術を応用した仮想世界の可能性の検討』がネット経由で読めるようになっていたので一通り読んでみる。

 …が、やはり理論のみ。『コアワールド』の創造過程は何も書かれていない。何かあれば、そこから私の思い出せない過去がわかると思ったのだけれども。


「そもそも、博士課程以前の発表論文が、見当たらない。修士論文とか卒業論文とかも…。って、ああ、そうか、もしかして」


 『リーネ・フェルンベル』で論文検索サイトを調べてみたら、数多くヒットした。大学学部時代は研究室の教授との連名だったりしたけど、修士論文の発表前後は、筆頭著者(ファーストオーサー)となっているものが多い。

 おお、修士段階で『コアワールド』理論のほとんどを定義している。あれ、フルダイブ技術の改良にも手を出していたのか。あの女、多才だな。

 というか…。


「博士論文前後の、あの大げさな序文表現が、それより前の論文にはない…。彼女の性格が、大学院時代に、徐々に変わっていった…ということ?それとも、ただの偶然?」


 偶然でないのなら、当時の誰かの影響なのか、それとも『何か』の影響なのか。

 ただ、そんな表現のせいなのかは知らないが、『リーネ・フェルンベル』としての研究成果は、それはそれでかなり有用だが、何か方向性が異なる。地道な基礎理論だったり、改良案だったり。

 一方、『渡辺 凛』と名前を変えてからの実績は、将来の華々しい世界を思わせるような、そんな内容が多い。『コアワールド』を頂点に、仮想世界に関する数々の画期的な実用化案ばかりだ。


「精密高速スキャンも、彼女が最初に、実用化したのか。あ、VR向けモーションキャプチャシステムも。どれも、基礎理論を『コアワールド』に、適用したものだけれども」


 あらためて『渡辺 凛』の研究成果を調べて驚いた。イマドキのVRゲーム普及の下地となる、あれやこれやの実用化技術の多くに関わっていた。なんてこった。

 今なら、『現界』能力で生み出していったのだろうということがわかる。本人の想像力の問題もあるだろうが、周囲の人間にとって、また、彼女自身にとっても、『打ち出の小槌』のようなものだ。

 暗躍できるだけの人脈や資金が手に入るわけだ。本人があまり表に出ない代わりに、実利を『コアワールド』管理組織やVRゲーム会社の人々に与える。ある意味、うまい戦略だ。


「相応の知識と能力を持ち、人脈作りにも長けている…。たとえ、『コアワールド』を創ったのが、私だったとしても、もう、私に関わる必要は、ないのでは」


 私が『放浪者』として得た知識や技術は確かにあるが、『コアワールド』理論とその応用に比べれば、極めて個人的なものであり、微々たるものとも言える。あの女に影響された今はともかく。

 やっぱり、そこがわからない。なぜ、私なのか。ケインについてだって、あくまで私との絡みで関心をもっているようにも見える。時を超えたがどうとか言っていたからね。


「やっぱり、つかまえる。全て、吐かせる」


 いつになるんだろうなあ。

 フェルンベル総裁が到着する数週間後か、それより、もっと後か。

 憂鬱とも焦りとも思える感情が、私の心の中をかけめぐる。はあ…。



 あの女のことを調べるのは一旦やめて、私自身のことを探ってみる。ちょうど、『リーネ・フェルンベル』が『渡辺 凛』と改名した頃の、約十年前だ。


「一度不安定になった時、『博物館』のことを、思い出した。お父さんとお母さんと、行った時だ。時期も、合っている」


 そういうわけで、今度はネットでその頃の件の博物館のことを調べる。

 あ、確かにちょうどフルダイブ機器の展示や体験を実施していた。しかし、それだけである。展示や体験を具体的に誰が対応していたか、なんて細かいことまではわからない。

 協賛組織とかがわかれば…と思ったが、しょせんは約十年前の博物館の行事、記録も最低限のものしか残っていなかった。…残っていなかったんですよ、データベースに。どこのデータベースのことかは、ここでは語らず。


「お父さん、お母さん、いい?」

「なんだい?」


 しかたがないから、ものはためしと両親に当時のことを確認してみた。

 回答は、ある意味想定通り。


「んー、一緒に博物館に行ったことは覚えているわ。でも、あの時は確か、みんなすぐにそれぞれ興味のあるところに行っちゃったのよね」

「そうだな、たぶん、そうだ。見て回る時間だけ決めておいて、そのまま帰宅したんだな。その博物館が、どうかしたのかい?」

「ううん、何もなければ、なんでもない」


 やっぱりダメかあ。


「そうね、強いて言うなら、あの頃から春香ちゃん、ずいぶん大人しくなった気がするわあ」

「ああ、そう言えばそうだな。小学校に入ってしばらくまでは、近所のガキ大将をやってたくらいだからな」

「が、ガキ大将!?」


 え、え、覚えてない、覚えてないよ!?

 いや、近所の子供達とそれなりに遊んだ記憶はあるよ?でも、自宅がずっとアパートなせいか、幼馴染と言えるほど何年も一緒に遊んだって子がいなかったから、どんな人間関係だったかまでは詳しく覚えてない。でも、ガキ大将はないんじゃない!?


「どんな子でも、すぐに仲良くなっていたわねえ。いつも春香が中心になってて」

「リーダーシップ、というほどでもないが、他の子をグイグイと引っ張っていたな」


 ああ…そういうタイプね。美里の姉御のような。美里がガキ大将…ぷっ。


「ああもちろん、大人しくて読書好きになっていった春香が悪いというわけではないぞ?」

「そうよー。むしろ、去年からの春香の方がだいぶ変わったんじゃないかしら?」

「そうだな。しっかりしてきたというか、たくましくなったというか。あ、もう一度銀貨を切って見せてくれないか?」


 後でねー。


 しかし、リーネ化の方が違いが大きいということですか。まあ、そうか。

 そして、小さい頃の私がリア充…。もしかして、当時あの女とふたりしてフルダイブして、時間加速の世界でお互いに影響し合ったか何かしたのだろうか?

 でも、今のあの女はリア充なのだろうか?まあ、あの年でリア充も何もないだろうけど。もっとも、逃亡している割には確かに妙に楽しそうな印象だったし…。やっぱり、本人に聞くのが早いか。

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