第25話「転移魔法陣の扱いは任せなさい!」
2017/10/17 - 12/15
「田中さん、会合や会見を、1日ほど延ばせる?」
「そ、それは可能です。その…私や高橋さんが、暫定対応すれば。春香さんはその間何を?」
「鈴木のお爺様に、連絡して、月面の生産施設の、利用許可を得る」
渡辺 凛が『現界』したというのなら、迷っていられない。
「…!?1日で実現できるというのですか、『転移門』を!?」
「『想像』はできていた。でも、重力制御よりも複雑で、大がかり。なにより、時期尚早と、思っていた」
「確かに、月面は素材も工場も豊富です。地球上のどこよりも。『ソル・インダストリーズ』の設備ならなおさらです!」
これまで重力の問題でテラフォーミングが難しかった月は、居住都市よりも工場の地としての役割が大きかった。『ソル・インダストリーズ』の名の通り、一大生産地として開発することを主な活動としていたのだ。
「転移門…!そんな、そんな夢物語な存在が、彼女によって既に実現されていたなんて…重力制御でさえ、架空の存在とばかり思っていた矢先に」
「かかるエネルギーは、膨大。家の扉のようには、いかない」
「そ、そうですね…。しかし、春香さんはいつから『想像』していたのですか?反重力の件でも…あっ」
そう。私は、ケイン・フリューゲル。転移魔法陣の扱いは任せなさい!
◇
【宇宙】FWO総合スレ【開発】
842: 名無しの盾使い
このスレが春香様に驚愕する場となってる件
843: 名無しの八百屋
もう、宇宙船すらいらねえじゃん
飛行機も、鉄道も、自動車だって
844: 名無しの重騎士
>>843
いや、そう単純な話ではないぞ
飛行機があるのに自転車を使うのはなぜだ?
そういうことだ
845: 名無しの弓使い
惑星間か、恒星間か
そういえば俺、飛行機にも乗ったことないや
846: 名無しの神父
春香ちゃんが『時期尚早』と言ってたな
地球上での転移は重力に影響があるって
847: 名無しの吟遊詩人
全ては春香様のみこころのままに…!
848: 名無しの門番
ま、俺達は変わらずFWOライフだ
遠き鐘の音を聞いて過ごす毎日の暮らし
849: 【運営No.00】
攻略とスローライフの日々よ、永遠に
850: 名無しの商人
先輩、ぱねえっす
851: 名無しの魔導師
あたしも春香様って呼ぼうかしら…
◇
月面での怒涛の数日を経て、ようやく時間に余裕ができる。いや、いい加減月からFWO日本サーバへの本格的な接続を試したかったのよ。
「春香、魔法攻撃もやっぱりダメみたい。会話程度ならなんとかなるけど、タイミングがズレるどころじゃない」
「生産も簡単なものだけだなあ。魔法陣発動は、まあ、唱えるだけで済むけど」
「わかった。私はケインと、もう一度ボス攻略を、してみる」
だいたい想定通りなんだけど、試してみたいことがあるのよね。
ということで、あるエリアのリポップボスに臨む、リーネ&ケインとしての私。ケインは表向き日本国内から接続していることになっているから、中継のあるダンジョンボスは避けてみた。ギャラリーが多いとねえ。
「ケイン、ボスの周囲に、結界」
「OK。【連鎖発動】」
とはいえ、一応ロールプレイ。誰かが見ている可能性があるからね。あと、この方が私にとってやりやすいのだ。ロールプレイ厨だよわかってるよ!
「ボスの動きは、過去の、動き」
「そしてリーネ、君の動きは未来の動きだ!」
だから、時を超える。
◇
私は、リーネ・フリューゲル。
この世の全ての魔を、攻略する。
◇
大型ミミズのボスを、頭から尾まで、切り刻む。よし、成功!ボスの動く範囲を結界で狭めたから『可能性領域』の幅を少なくできたのが大きい!
「うまくいったな、リーネ」
「うん。これで、あの理論の…誰!?」
パチパチパチ。
その人物は、ボスエリアの端からゆらりと現れる。大げさな拍手をしながら。
なんの皮肉か、私は既に使っていない、今はTVシリーズ型として配布されている、旧リーネ造形のアバターで。
「ブラボー!ついに時を超えたのね!佐藤春香ちゃん!」
「渡辺…凛…!!」