第10話「あれ?お父さん、結局どの部署で働いてるんだっけ?」
少しずつ進んでいる、『コアワールド』の分析。ケインとしての私が毎日ちまちまとやっている。
ちなみに、同時接続のリーネとしての私はミリーと雑魚討伐。ダンジョン終盤の攻略成果だけでは、ビリーくんのエリアの改装資金には程遠いらしい。そのビリーくんは露店地域でほえほえ。もうケインをヒモとか言わせないからね!
「すごいわねえ…特定場所の草花だけでも膨大な種類があったんだねえ」
「ええ、現実世界よりも豊富です。種類を取捨選択していくだけで、様々な異世界環境が整えられるという仕組みです」
「このエリアひとつ分だけでも、何人もの人が何年もかけて作っていく必要があるわよね。春香ちゃんの…あの能力で同時多発的にやっても、何か月もかかるよね、きっと」
ミッキー高橋さんの言う通りだ。件の化粧品じゃないけど、植物に関する資料を参照しながらあれこれバリエーションを増やしていくことを考えれば、とんでもない作業量だ。
でも…。
「でも、妙な感じがするんです。確かに多種多様なんですが、なんとなくどんな種類に発展しているか予測できるような、予感があるというか…」
「そうなの?」
「ええ。僕ならこうするだろうなと思う種類は必ず見つかって、考えていなかった種類のものでも、妙になつかしいというか、馴染みがあるというか…」
いつかどこかで思い描いたことがあるような、遠い遠い昔にひとりで夢見ていたような…うーん?
「ってことは、もしかしてケインくんなら『コアワールド』を拡張できるの?しかも、外部からのデータ修正じゃなくて、仮想世界内部から」
「確かに、仮想世界内部からあれこれと試行錯誤すれば、相応にしっかりしたものができると思います。ですが当然ながら、外部からのそれより時間がかかります」
「10倍の時間加速でも?」
「ええ」
種類のバリエーションだけでも把握できれば、その情報に基づいた内部ツールを開発して一気に『コアワールド』を拡張できるかもしれない。が、草花だけでもこのバリエーションだと…。
「なんとか『思考』パターンを解析して、そのパターンに『想像力』を流し込むような内部ツールが作れれば、『コアワールド』の一部くらいは拡張できるかもしれません」
「でも、そのパターンって人によって千差万別で複雑なんだよね?『コアワールド』って、あの渡辺 凛って人がひとりで作ったって噂もあるし、やっぱり、とっつかまえないと」
「佐藤春香としては、ぜひとっつかまえたいですね」
しかし高橋さん、下手なFWO技術スタッフよりも、ケインとしての私の話にちゃんとついてきてるよね。もう電器店すっぱりやめて、今度新設される『ラボ』に転職しない?
「んー、それも考えたんだけど、店長に泣かれちゃって…」
ああもう、あの電器店チェーン、FWOグループに吸収して…いかんいかん、私は世界を掌握しようとしているわけではない。技術提携でなんとかできないかな?
◇
「来週には『(株)FWOラボラトリーズ』が立ち上がります。そこに所属の研究所のひとつの所長に高橋さんを、という話が確かにあるのですが、電器店チェーンの代表に粘られまして…」
まあ、しょうがないよね。高橋さん、田中さんとのことがなくても、顧客対応がとんでもなく優秀だし。
技術力にも交渉力にも優れているんだから、『FWOエンターテインメント(株)』の社長と交替してほしいくらいだけど、現社長というか旧FWO代表も割と頑張っているんだよ。うーん。
あ。
「電器店チェーンと、研究所を共同設立する?VR関係機器のモデルルームも、設置して」
「…なるほど、VRゲームに限らず、仮想世界技術全般を扱う研究所なら、あるいは」
「そこに、『コアワールド』の研究も、任せるとか」
「いいですね。FWOグループとは別の独立した研究所なら、『コアワールド』管理組織との協議もしやすいかもしれません」
こうして、本人の与り知らぬところで、高橋さんの立身出世が決まり始めていた。
いいよね?田中さんとも一緒に居られやすくなるし。ていうか、姉弟の話じゃないけど、さっさと籍入れて一軒家に引っ越しちゃえ!
「そ、それは時期尚早過ぎといいますか…。それより、FWO内で鈴木姉弟に聞きましたよ。春香さんがこれだけの地位と名誉を得ても、御両親とずっと質素に暮らし続けているとか」
「何が質素か、わからないけど。でも、このままで、いたい」
「ええ、姉弟のおふたりにもそうお願いされています。『プロモーション』の代表としては、有名になっても変わらず静かな生活が送れる、その秘訣を教えていただきたいところです」
そこがわからないのよねえ。姉弟曰く、周囲の人が気づいてないんじゃってことだけど。確かに、向かいの家の奥さんは、私が世間で何してるかとか話題にしないよね。
でもそれって、もし気づいたら態度が変わっちゃうってことなのかなあ。それは寂しいなあ。
「もっとも、そのような秘訣を伺ったところで、おそらく私たちには真似できないでしょうけど」
「真似?」
「なにより、春香さんと御両親御自身が変わってないのですから。私や高橋さんなんか、友人や家族との関係がずいぶんと変わりましたよ。特に、私が社長を始めた頃からは」
あら、高橋さんのことは既に御家族とかに紹介してるのね。ほほお。
あー、でも、ウチの場合は確かにその辺無頓着だなあ。母親の職場、あれから店員さんの態度とか変わったのかな?父親の職場は…あれ?そういえばお父さん、結局どの部署で働いてるんだっけ?おや?まあ、いっか、無事に働いているなら。
「そこなんですって…」
◇
【恐怖】○○市で起きた怪奇現象を語るスレ【奇怪】
211: 名無しのユーザ
なあ、近所のスーパーで信じられないものを見たんだが
212: 名無しのユーザ
とある3人家族のことなら
そっとしておくんだ
213: 名無しのユーザ
そうだ、触れてはいけない
眺めるだけに留めろ
214: 【211】
俺、まだ何も…ああでも、そうだな
そうする
うん
215: 名無しのユーザ
土手で毎朝走ってるあの娘…
216: 名無しのユーザ
>>215
だから触れるなというに
217: 名無しのユーザ
怪奇現象扱いとかヒドス