第40話「『ここで!』『俺達の出番だぜ!』」
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「ミリー、私は攻略を、中断する。これから、クルーズ船内の、仮想世界に飛ぶ」
「え、戦争は見ないんじゃなかったの!?」
「その戦争システムに、不具合が起きた。それじゃ…っ!?」
仮想世界間の転移が弾かれた!?FWOと互換ゆえに、運営No.00として転移権限を発動できるはずなのに!?もしかして、ログインも不可!?
「しかた、ない」
リーネとしてFWO日本サーバからログアウトし、クルーズ船内設置の個人用VRサーバにログイン、そのサーバ内の『佐藤春香』アバターに接続する。
このVRサーバは、FWO日本サーバ内では実施しにくいデモを、技術スタッフの人達に行うために設置しておいたものだ。いやあ、何がどんなことに役に立つかわからないなあ。などと、感慨にふけっているヒマはない。
◇
個人用VRサーバ内に現れる私。試写会用の予備としていくつかアイテムが置かれている以外は、何もない真っ白な空間だ。
個人用VRサーバはクルーズ船の制御コンピュータにも連動しており、田中さんや技術スタッフが集まる場所のスクリーンに、VRサーバ内の様子を表示させることができる。
「あ、春香ちゃん!」
高橋さんもいましたか…。そんなことよりも。
『田中さん、状況は?』
「既に御存知の通りかと。我々が構築したはずの仮想世界システムが、ログインもログアウトも不可とされてしまいました」
『渡辺 凛の仕業?』
「おそらく。本人がログインして内部から時限ツールを使用した可能性もあります」
彼女の十八番か。
しかし、毎度のことながら、こんなことをする理由がよくわからない。FWOグループの不手際を糾弾するため?
でも、不正ツールを使ったのなら、発信元は追えなくとも、使用した形跡は残る。これまでのように証拠を示して、今回の試み自体がご破算になるだけ―――
『…!田中さん!現実世界で監視している、調停機関の人達に、連絡を!』
「ど、どのような?」
『現在の、それぞれの勢力の動きを!早く!』
田中さんが、今回のVR戦争専用の通信回線で、コンタクトを試みる。
「…応答がありません。明らかに、おかしいです」
『双方の勢力の、どちらも?』
「田中さん!春香ちゃん!港の映像を見て!」
試写会用設備でクルーズ船から撮影していた、最寄りの港の埠頭。
そこにいたのは、渡辺 凛。そして、今回のVR戦争を提案した勢力の、幹部達。うん、あの顔ぶれは確かに資料で見た。
でも、なぜここに?いや、私の予想通りなら…!
『田中さん、私の、予想通りなら、提案された側の、現実の本拠地が、制圧されるかもしれない』
「なんですって!?」
『多くの兵士や司令官が、ログインしたまま。そこを、突かれる』
「それを防ぐのが調停機関のはずだったのですが…!」
もしかして、例の詐欺手法を使った!?
一度一緒に戦場の世界を見てましょうとかいってログインさせた後、ログアウト後もでっち上げた個人用VRサーバに閉じ込めたまま。
日本からの個人用VRサーバの全てが、相手の勢力に強奪されたのではなかったとしたら…!
「春香さんの推測通りですと、双方の本拠地を監視する人々は、今回の件で最終会議を行ったこの港町から、未だ出ていない可能性があります」
『ただの推測。けど、そう考えると、辻褄が合う』
「こうして姿を見せたということは、よほどの自信があるのでしょうか。だまし討ちのようなことをして、それでも現実世界で勝利すれば問題ない、というPRでしょうか」
勝てば官軍、か。本当だろうか?国際的な批判を浴びないだろうか。いくら、仮想世界技術を用いた、人命を損なうことなく推移した『戦争』だったとしても。
「いずれにしても、閉じ込められた側の勢力は不満を持つでしょうね。紛争が終結して、提案側の勢力が国全体を掌握しても、テロやゲリラがむしろ増加する可能性もあります」
であれば、やることはひとつ。
『田中さん、技術スタッフに、戦争VRのシステムを、強制シャットダウンさせて』
「…いえ、それはまずいかもしれません。強制ログアウトに相当しますから、精神に混乱を来たすかもしれません。その状態で攻め込まれたら…」
『…っ!?』
確かに、みんながみんな、私のように強制ログアウトに慣れているわけではない。
何か、何かないのか…外部から不正ツールを処理する方法が…!
『ここで!』
『俺達の出番だぜ!』
『!?』
私しかいなかったはずのクルーズ船個人VRサーバの空間に、いくつもの声が響く。技術スタッフのみなさんがログインしている!?