第9話「そんなお約束、聞きとうなかった」
さて、どうしようか。議題はもちろん、美里の健人くんへの想いについてだ。
ガチなブラコン気質を確認できたところで、シェリーがリーネにしたようなけしかけを私がするわけではない。つうか、しちゃダメだろ。
ただ、放っておいて良いものか。ゆるい友人関係をもつリアルな私としては成り行き任せでいいのだが、仮想世界の攻略・スローライフの、割と近しい仲間としては…。
「二人共、私と違ってロールプレイをしているわけではないし、リアルと仮想世界で人間関係や素性を区別しているわけでもないのよね。サブアバターも作ってなさそうだし」
つまりは、リア充ということだ。くっ。
とにかく、なんらかの着地点は必要かな。ソルトはともかく、弟が絡むと言動不安定のシェリーは、今後の私の攻略方針を阻害するかもしれない。なにしろ私、紙装甲だし。
となれば、やはりリアルではなくFWOでのアプローチ、ということになるか。
シェリーの気持ちはだいたい把握したし、今度は、ソルトの方を確認してみよう。…なんとなく、何も考えてないような気もするが。
◇
などと目論んでいたら、向こうから振ってきた。
「ということでさ、その姉貴の友達が始めたら、ちょっと付き合ってやってくれよ。あ、でも浮気はダメだぞ?」
「あ、ああ。…そういえば、さ。ソルトも、その、リーネと仲良くなりたかったんだよな?」
「ん?ああいや、俺はリーネちゃんと知り合いになりたかっただけさ。なにしろ、超有名なトッププレイヤーだし。食事会でのフレ登録で十分さ」
なるほど、シェリーの危惧は見当違いだったわけか。
そういえば、ソルトのアバターはリーネのそれと同じく、デフォルトの少年型にあまり手が加えられていない。そういう意味では、お似合いの容姿だったわけだけれども。
「実はさー、恋愛対象っての?女の子の好みとしては、リーネちゃんはあんまり意識できないんだわ。だからまあ、安心してくれ」
「い、いや、そういうつもりで尋ねたわけじゃないんだ。でも、好みって?」
「あー、うん…俺って、戦闘タイプの娘は、その、な。街での静かな雰囲気は割と気に入ったんだけど、リーネちゃんって基本、攻略&レベル上げだろ?」
美里、合掌。アバターは変更できても、リアルな特攻体質は隠せないよね。
ていうか、もしかしなくても、姉の美里があんなだから、弟の健人くんが同じタイプに苦手意識をもっちゃってるんじゃないだろうか。だとすると…自業自得か。
「じゃあ、ソルトの好みは、普段から静かな雰囲気で、非戦闘タイプの娘、ってことか?」
「そうそう。いやー、あの先輩、マジでFWO始めてくんないかなあ」
…ん?
「先輩?学校の?」
「ああ。さっき話したろ?姉貴の友達。クラスメートって言ってたから、同じ学校の先輩ってことになるな。くそー、もっと早くに知り合ってたらなー」
…そんなお約束、聞きとうなかった。




