プロローグ
短編として2つ投稿したものの連載版です。
「えっと、それ、2つ同時に『操作』することはできますか?」
「…は?」
「このゲーム、メインとサブの2つのアバターを作成できるんでしょう?」
チュートリアルを受けながらアバター設定を行っていた私、佐藤春香は、そんなことを担当NPCに尋ね、そして、呆れられた。呆れ顔が本当の人間のようだ。
なお、私の方はまだアバターの姿ではなく、真っ白な空間を意識だけで漂っているような状態だ。
長かった大学受験を終え、時間的にも余裕ができた私は、本日稼働を始めたばかりのフルダイブ型VRMMO『フェルンベル・ワークス・オンライン』、通称FWOを始めた。
以前から考えていた、『2アバター同時接続』を目論みながら。
「この場で同時作成はできますが、ログイン後の同時操作はできません。そもそも、インタフェースが対応していませんから」
「あ、ヘッドセットは私の頭にふたつ接続してますから。変な改造はしていませんよ」
「はあ…?」
ヘッドセットのひとつは、合格祝いとして両親に買ってもらった最新型。もうひとつは、以前自腹で購入した旧型。
私は担当NPCに説明し続けたが、そのうち、疲れた顔で『上司』を呼んできた。運営側のプレイヤーアバターらしい。その上司プレイヤーにもあれやこれやと説明する。
「確かにお客様からは2アバター分の同期信号を確認していますので、メインとサブのそれぞれに接続を振り分けることができますが…フルダイブ型では前代未聞ですよ?」
「とにかく、一度やらせてもらえませんか?」
チュートリアル用の仮想空間で接続してもらい、メインとサブの仮アバターを動かしてみる。
油断すると意識が一方に偏ってしまうが、同時操作はそれなりにうまくいった。
「脳への過度な負担が考えられますから、異常信号を検出次第、強制ログアウトとします。これは譲れませんよ」
「ええ、それで結構です。ありがとうございました」
こうして私は、剣士タイプの少女型『リーネ』をメイン、錬金術師タイプの青年型『ケイン』をサブに、2アバター同時操作でこのFWOを始めたのだった。
そして、数週間後――――――




