第1章 9話
「しかし、山田の理論を聞いて理解するなんてさすがね」
「クリスです」
やはり名前にコンプレックスがあるらしい。
そういう事なら味方に引き入れる為にも名前には気をつけた方がいいな。
「光よりも強い重力を持つブラックホールを利用する理論は、光と時間が関係性がないと出ない理論」
なるほど、そういう事か。
さすが本場の科学者は違う。
「そのタイムマシン理論も理論上存在する物ばかりで、実在はしていない。机上の理論と変わらない」
確かにそれは否めない。
だが。
「LHCの実験に成功したというのなら、陽子と陽子をぶつける事の意味が分かるはずだが?」
「それが?」
「それなら分子と分子をぶつければ?」
これが俺の考えた理論。
「分子同士を?どういう意味?」
「陽子同士をぶつけるのはビックバンの再現だと聞いたが、分子同士をぶつければ当然エネルギーが生まれる。そのエネルギーを利用して、光を超えるエネルギーを作る」
「それも机上の空論。分子をただぶつけただけでは、光は超えれない」
「普通にだろ?水分子を振動させて加熱させるほどのエネルギーを発生する道具が身近にあるが、あれの出力を上げたらどうだ?」
「電子レンジ!?」
そう。
俺が目をつけたのは電子レンジの加熱方法。
食材にあるわずかな分子ですら振動させて熱を出すほどのエネルギーを持っている。
当然、家庭用や業務用でも安全装置があるために、そこまでのエネルギーは出せない。
そのために一条を仲間に入れた。
彼女なら、その辺りの改造も出来る技術を持っている。
「どうだ?クリス。出来そうか?」
「いや。それでも無理。光を超えるほどのエネルギーというのは膨大。電子レンジを改造させたとしても無理」
無理か。
「そもそもそれはワームホールを作る理論。でもワームホールだけでは意味が無い。エキゾチック物質が必要」
やはりそうなるか。
「あのー。さっきからちんぷんかんぷんなんだけどー」
「私もよ。連れて来たはいいけど言ってる内容が理解出来ないわ」
あはは。
Tips:ビッグバン 宇宙の始まりにあったとされる爆発の事。ただし宇宙の始まりがどこと定義されている訳ではなく、理論上存在するだけ。
Tips:電子レンジ(でんしれんじ) マイクロ波をあてて水分子を振動・回転させてそのエネルギーで熱を発生させる機能を使った調理機器。