第9章 7話
「水谷。俺はお前に助けられたな。それが無ければ今日という日を迎える事が出来たかどうか」
何度諦めようとしたか。
そして、その度に助けられた。
「べっ別に、私は諦めた矢野君を見たくなかっただけよ!」
「しかし良かったのか?クローンの事を覚えていたままで」
もう一度過去に飛べば、おそらくクローンの存在を知らないままでいられたかもしれない。
だが、それを拒否した。
「いいの。もう一度過去に飛んだら私自身が被害に合うかもしれない。クローン無しでどうやって回避するつもり?」
それは考えていなかった。
「この最後のメモ。おそらく考えた末で出した結論なんじゃない?」
歴史の修正にはクローンが必要か。
結果的にそうなったと言える。
「2002年の私の居場所は不確定、でも因果律により蜂に刺される事は回避出来ない。9歳の私を助けるのは不可能と言ってもいい。それならばと2012年の9月12日を選んだんでしょ?」
「そうだ。2012年の9月12日なら居場所は固定されている。そこなら回避する余地があると思ったんだ」
だが、まるで蜂に意思があるかのように水谷を狙った。
そこで水谷が狙われるなら、クローンが身代わりになるという作戦を考えた。
このメモはそれを意味している。
せめて、あと1回はタイムマシンが使えるんだからなんとか別の方法を取りたかった。
でも、それをクローンは拒んだ。
結果的に水谷は蜂に刺されてアナフィラシーショックを受けたが、それはオリジナルじゃなくてクローンだった。
だからこそクローンを送り込んだという事か。
「今回の作戦。もしかして2036年の矢野君が考えたんじゃないの?」
俺!?
「だって、矢野君は脱出する事は決まっているんでしょ?それで桜崎さんも一条さんもクリスさんも解放されている。そして里香ちゃんは人質のまま。じゃあ2036年の矢野君はどうしてるの?」
そういえば。
クローンは全く説明していなかった。
2036年の俺を。
「つまり。私を救出する事に失敗した2036年の矢野君が、歴史を修正する為にクローンを送った」
「じゃあ!なんで俺が来ていない!!」
どうしてクローンを送るなんて事を。
「これは推測だけど、来た事はあるんじゃない?でも失敗した。蜂から襲われる私を救出する事は無理だった。だからこそ私の遺伝子を使ってクローンを作ったんじゃないの?身代わりにするために」
そんな。
「でも、あの子は単に命令されてやったんじゃない。矢野君の役に立ちたいからやっただけ。あの子の意思なのよ。それは尊重しなきゃ」
ほんのわずかな時間だった。
でも。
諦めたくは無かった。
だが、母さんの時と同じだ。
どっちかを取らなきゃならないってだけ。
両方救えるなんて傲慢だ。
そんなのは散々思い知った。
なら。
俺は生きている水谷を選ばなきゃな。




