第1章 6話
小屋に戻ると、そこに大きなテーブルが置いていた。
人数分の座布団まで用意されている。
そこに座っている里香と桜崎。
「あっ、お兄ちゃん」
テーブルの上にはお菓子が置いてある。
「なんだ?これは」
「えへへー。一条さんに頼んで買ってもらったんだー」
買ってもらったって。
「なんで?」
「え?だって必要じゃない?みんなと一緒に団欒したいし」
いや、なんでテーブルが必要なんだ?
「ほら。お兄ちゃんも座ってお菓子どう?」
まったく。
「クッキーうまー!!」
桜崎は叫ぶなよ。
「これ、どこで売ってるん?」
「え?売ってないよー。私が作ったんだ」
「まさかの嫁スキル!?いいよーいいよー萌え度が上がった!」
本気で分からん。
「しかし、こういう事が出来るなんて思ってなかったよー」
確かに。
こうして他人と一緒にテーブルを囲むなんて、思っていなかった事だ。
俺達は友達を家に呼ばなかったし、友達の家に遊びに行く暇も無かった。
タイムマシンを知るまでは明るい空間とは無縁の生活をしていた。
そういう意味では、前向きになれたって事かな。
「そういえば遥さんはプログラム技術が凄いんだよねー?」
「そうだお」
「どういう事まで出来るの?」
そういや里香には説明していなかったな。
「少なくとも、この学校のパソコンのセキュリティ・プログラムは彼女が作ったもんだ」
桜崎のプログラムのおかげで、ウィルスに感染したという報告は1件も無い。
「へえー、凄いなぁ。一条さんも凄いしお兄ちゃんも難しい事知ってるし、私だけ何にも無いなぁ」
「そんな事ないと思われ」
「え?なんで?」
「里香タンはお菓子スキルがあるではないかー!この技術テラスゴス」
「えへへ。そう言ってくれると嬉しいなー」
そうか。
気にしてたのか。
ここは考えないといかんな。
Tips:萌え(もえ) 好きな気持ちや好みなタイプで興味を引く事等、かなり汎用性の高い言葉。
Tips:セキュリティ・プログラム パソコン等がインターネットに接続している時に、外部から悪意のあるプログラムが送り込まれたりするのを妨害するプログラムの事。数多くの種類を妨害、除去出来たりすると優秀なセキュリティ・プログラムと言えるが、実際はイタチゴッコになっている。
Tips:ウィルス 元は病原菌という意味だが、この場合はパソコン等に悪意的な行動を起こす為のプログラムの事。ウィルスに感染したパソコンはデータを勝手に送ったり、外部から勝手に操作されたりと正常な動作をしない。