第1章 5話
一条の好意に甘えて、だいぶ買ってしまった。
当初は2〜3冊の予定だったんだが。
一条が買えるだけ買ってやる!って譲らないんでこうなってしまった。
話に聞く通り、姉御肌って感じだな。
まずはジョン・タイターの本から。
彼は2036年の未来から来たタイムトラベラーで、アメリカの掲示板に突如として現れた。
2036年では第三次世界大戦が起きていて、核兵器が仕様されたのが原因らしい。
これが文字だけなら失笑で済むが、一部資料を提示したり彼が求めているIBM5100も実際に存在していたりと、にわかに嘘と言い切れない部分もある。
その後、彼は予定の任務を完了したと言って消息を絶っている。
彼の言う理論や一部資料は無視出来る存在ではない。
他にもラリー・ニーヴンの『タイム・トラベルの理論と実際』やキップ・ソーンの『ブラックホールと時空の歪みアインシュタインのとんでもない遺産』等もある。
色んな人の理論は読んでおく必要がある。
あと。
もう一つ気になる事がある。
たぶんタイムマシンを作る上で利用出来るかもしれない物。
だがこれはまだなんとなくってだけで、きちんとした確証はない。
ほぼ思いつき。
その為、まだ誰にも言っていない。
確証を得る為にはそこも勉強しないと。
「やる事が山盛りだ」
本当はもっと早めに勉強すべきなんだが。
なにせタイムマシンという存在を知ったのが最近の話なんだよなぁ。
当然、クラブ活動を行うと決めた時にはある程度勉強はしていたが。
まだまだ詳しい事は知らない事だらけ。
少なくともタイムマシンを行えるという11の理論は勉強しておかないと。
俺はこの中で二つしかまだ知らない。
一つはブラックホール理論。
名前の通りにブラックホールを使って時空を超える理論だ。
ブラックホールは光をも吸収する超重力が発生している空間。
その表側では既存の物理法則が適用されない。
つまり物質は光を超える事が出来ないという物理法則も適用されなくなり、時間を超える事が出来ないという法則も適用されないとされている。
問題は、ブラックホールがまだ未知の領域で本当にそうなのか分からない事。
それとどうやって超えるかの方法が分からないって事だ。
もう一つのワームホール理論も似たようなもんだ。
時空の二箇所を任意に繋ぐ時空の穴があり、その出口を光速に近いスピードで移動させると時空が歪み移動させた方が今よりも過去の時空になっていて、そこを潜り抜けるという理論。
これも問題はある。
まずワームホールの存在や性質が分かっていないうえに、あったとされてもワームホールは不安定でエキゾチック物質という負のエネルギーが必要とされている。
もちろん、このエキゾチック物質も発見されてない。
だいたい残りの理論もそんなんだと聞いた。
架空の理論に架空の物質が必要な物ばかり。
それでも勉強する必要がある。
そこにヒントがあるかもしれないのだから。
Tips:IBM5100(あいびいえむ5100) 1975年にIBMが発売したデスクトップコンピューター。BASIC言語とは別のAPLというプログラム言語も使える機能がある。
Tips:ブラックホール(ぶらっくほーる) 高密度かつ大質量の重力により光すらも飲み込むほどの天体の事。その性質上、直接観測する事は出来ない。また理論上は存在するがその正体は不明な部分が多い。
Tips:ワームホール(わーむほーる) 時空のある一点から別の一点へと通過出来る時空のトンネルのようなもの。そこへは光を超えた速度で通る事が出来ると言われている。理論上は存在するが、まだ観測はされていない。
Tips:エキゾチック物質 負のエネルギーを持った物質と言われている。物理学の世界で仮説的に認識されている。