第5章 9話
「どうしたの?」
「ああ。水野か」
13日の金曜日。
一条が死なないかどうか見守る為に今日という日を迎えた。
「いや、昨日クリスに言われた事が気になってね」
「昨日?」
そこで俺はタイム・パラドックスの事を説明する。
「なるほど。今日だって同じ13日の午後7時の矢野君がいるって事になるのね」
「そういう事だ」
うぉ!
クリスが近くにいた。
「どういう事なんだろうか。数多くの科学者がそれで断念もしている。タイム・パラドックスを解決しない限りタイム・トラベルは無理だ」
そうだ。
すでに今日だって何度も迎えている。
なのに前の僕に出会った事は一度も無い。
「ねえ。だったら今起きてる事象に従って理論を合わせるってのは?」
今起きてる事象?
「どういう意味?」
「つまり、飛ぶ前の矢野君がいないって言うなら、飛んだら前の矢野君は飛ぶ前の矢野君は存在しなくなってんじゃないの?」
へ?
「つまり存在そのものが、飛んだ後の矢野君に上書きされていなくなってしまう。そうとしか思えない」
「確かに上書きされて消去されるなら矛盾は存在しない。だが強引すぎる」
確かに水野の理論は理論とも言えない無理矢理感がある。
「でも、実際そうなってるじゃない。飛んでない矢野君はどこへ消えたの?違う場所へ移動してるって訳?なんで?今日もクラブがあるのに?」
それはそうなんだ。
俺はこの事件が起こる前でも、今日の午後5時にはこの小屋に訪れている。
同じ時間、同じ場所に来ているのに、会って無いから全く気付かなかったが。
「だいたい、そんな事言ったらあのタイムマシンだってかなり強引な理論じゃない。電磁波を回転させる事でタイムワープを作るなんて聞いた事ないわよ」
だが、実際は出来ている。
「確かに」
「だから、目の前で起きている事象に合わせるしかないのよ。それがどんなにトンデモ理論でも。だって実際に起きちゃってるじゃない」
起きている以上、それを受け入れろって事か。
この辺りは水野だから言える事か。
俺やクリスはどうも理論優先にしてしまう。
「なあ。今日の実験はどうするんだ?」
おっと、そうだった。
「今日の実験は中止だ。今日の午後7時30分に地震が起こり、一条みなみが死なないかどうか見届ける」




