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国境の空  作者: SKYWORD
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廃都編 5章

 無線に何らかの連絡が入ってくるのを、ただ、俺とルカは待ち続けている。俺も人の事を言えたものではないが、ルカは俺に輪をかけて落ち着きがない。時折椅子から立ち上がっては、ヘリに据え付けられた時計を眺め、ため息をついたり、俺になんのかんのと話しかけたりという動作を繰り返している。俺はというと、ハッチの横に設置した対物ライフルの側で、ただ外の様子を伺い続けていた。

「攻撃っていつからなのか聞いとけばよかった」ルカがそう呟いて、時計を見上げる。それには俺も大いに同感だった。

「だな。いつになるのか解んないまま、何かを待つってのはつらいよ」俺はそう答えながら、リーフの事を思い出す。いつになるのか解らないまま、何かを待つ暮らし。リーフのそれは、多分、今の俺たちの状況の何倍もつらい筈だと思う。


「なあ、少し話してもいいか?」ルカがそう呟いて、対物ライフルを挟んで俺の前に座る。

「いいよ。何だ?」俺が丸窓の向こうから目を離さずにそう答えると、ルカは、別に何って言う訳でもないんだけどさ、と続ける。

「退屈で……」その言葉を聞きながら、本当は退屈と言うよりも何か話していないとこの娘も不安なんだろうと俺は思う。気持ちは解らない訳でもなく、雑談でもして不安を紛らわせたいのは俺も同じだった。俺たちは雨音だけが響くヘリの中で、どちらともなく雑談を始める。


「こないだの奇襲の時は、うちの基地には何にもなかったのにな……」ルカはそう言ってヘリの床を軽く指でなぞる。

「俺がいた所にはわんさか来たよ。ボストの連中が」俺がそう言うと、ルカは、そっか、と呟いて、こんな感じだったのか?と俺に尋ねる。

「いや、セルーラの特殊部隊がいたからね。殆どはそっちが対処した。俺は残党とちょっと戦闘になったくらいで……」初めて人を殺したあの戦闘を俺は思い出しながら、そう答える。時間の経過は確実に俺の中からあの衝撃的な光景を薄れさせてはいたが、だからといって、もう一度あの光景を見たいかと言われれば答えは明確なノーだった。


「あたしは、……駄目だな。怖いっつーかさ。情けないよ。少し」ルカが視線を床に落として、そう呟く。その姿に、俺は、不安に駆られながらボストの残党を追跡したあの日の自分の姿を重ね合わせていた。怖かったし、逃げ出したくなかったのかと言われれば、否定は出来なかった。

「一緒だよ。俺も。怖かったし、今でもそれは変わらない」俺の言葉にルカは驚いたような表情を浮かべた。

「冷静に、見えるけど」

「そうあろうとはしてる。でも、怖くないか、不安じゃないかって言われれば、怖いし、不安ですとしか言い様が無い」

「……早く、戦争なんて終われば良いのに」ルカがそう呟いて、目を伏せる。

「だな。さっさと終わってくれれば、俺も家に帰れるし」そう言ってしまうと、また、俺の脳裏にはリーフの、あの何かを慈しむような笑顔が浮かぶ。早く、一刻も早くこの戦争にけりをつけて、リーフが穏やかに暮らせる日々がくる事を、俺は改めて願った。


 結局、攻撃が開始されたのは、夜の十一時過ぎだった。疲れているのか何度も眠りそうになっていたルカに、俺が毛布をかけ、休ませようとした刹那に、凄まじい爆発音と銃声が響きだし、それは約二時間ほど続いた。ルカは僅かに肩を振るわせながら毛布にくるまり、俺はハッチの横で、時折発される閃光で照らし出される基地の光景を伺い続ける。

 

『カイル、応答しろ』無線から大尉の声が聞こえて、俺は無線機の元まで向かい、マイクを手に取る。

「カイルです」

『攻撃は失敗した。格納庫を占拠しているのはボストの部隊じゃない。おそらくファルト教団と同じような、ボストに煽動された連中だろう。ある程度の訓練は積んでいるようで、武装もかなりの物だったようだ。基地警備部隊は撤収して、現在格納庫周辺は敵の勢力下にある』

「エイジア陸軍は来ないんですか?」

『基地の連中がやっとさっき陸軍に支援を要請した。メンツだのなんだのがあるんだろう。エイジア陸軍の特殊部隊が到着するまで約二時間かかる。部隊の展開までは二時間半といった所だろうな』

「ヘリポートは、格納庫と滑走路に囲まれています。敵がヘリを接収しようとする可能性は大きいと思いますが、その際は脱出の上、敵包囲を突破し、基地司令部に向かうと言う事でいいのですか?」

『まあ、そんなところだな。ただ、無理はするな。状況によっては敵に投降しても構わない』クリス大尉が言った投降と言う言葉に、思いもよらず、俺は抵抗を覚える。何となくではあるが。

「投降は、避けたい所ですね……正直言って」

『かといって、戦闘に入れば、きついぞ。お前一人と奴ら全員で、どう戦う?』

「ヘリから今のうちに抜け出して、狙撃ポイントを探し、ヘリに敵が近づいてくるタイミングで、狙撃戦を開始します。こちらの場所を特定されなければ、かなりの混戦に持ち込めるものと思いますが」

『適切な狙撃ポイントがあれば、と言った所だが……。一緒にいるエイジア兵に代われるか?』俺は、ルカの方を振り向く。ルカは、俺からマイクを受け取ると、幾分ためらいがちに、エイジア空軍、第二整備班、ルカ上等兵です、と告げた。

『俺は、セルーラ陸軍参謀府のクリスだ。いままでの話、聞いてたか?』

「大体は」

『狙撃ポイントを探したい。格納庫からヘリポートに向かうラインを、大体四百から五百メートルの距離で狙えるポイントはあるか?』

「第十二格納庫の側の監視塔、かな……」ルカは何かを考え込むように目を閉じて、そう答える。

『そこまで、敵の目につかないように移動しろ、と言われたらどうだ?適切なルートはあるか?』

「ヘリポートの脇の沼地から、草地を通って行けば、多分……ただ……」

『ただ?』

「殆ど人が通るような所じゃないから、結構きついかも……」

『そう言うルートなら、好都合だ。目につかない。カイル、すぐに移動準備。狙撃銃と銃弾携行の上、監視塔に向かえ。監視塔到着と同時に、ヘリ周辺を警戒。敵がヘリに近づけば狙撃戦を展開しろ。二時間持たせれば、上出来だ』

「了解しました。お願いしますよ大尉。二時間持たせるのは俺の仕事ですが、その後は大尉の仕事です」俺がそう答えると、横にいたルカが、僅かに身震いしているのが見えた。

『解ってる。危なくなれば、お前も逃げろ。無理をするな』

「それも、了解しました」俺はそう答えて、無線のスイッチを切る。いつ敵が来るか解らない以上、さっさと行動を開始しておく必要があった。出来うる限りの素早さをもって。



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