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国境の空  作者: SKYWORD
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首都編 23章

 俺とF二五、そしてリオとロイが無事に基地に到着した後、クリス大尉とF二五は、別室でロイとリオからの事情聴取を始め、俺は、今日付けで復帰したアキと一緒に命令があるまで待機ということになった。部屋で待機している間、俺はアキに、首都であったことをとりとめもなく話し、アキは時折静かな相づちをうちながらその話に聞き入っている。

「状況は、わかった」アキがそう呟いて、椅子から立ち上がり、俺の方を向く。時間はもう夜の十時を回っている。


 夜になると、この辺りにはろくに建物が無い所為もあって、恐ろしく静かになる。時折、周辺を警戒している警備兵の足音が外から聞こえるほかは、殆ど何の音も聞こえない。

「お前、頭はもう大丈夫なのか」俺がそう聞くと、アキは無言で頷いた。足取りや、振る舞いを見る限りでは元気になっているようにも見えるが、表情はどことなく暗い。ひょっとすると、まだ倒れた事を気にしているのかもしれない。

「少し休んどけよ。命令があったら伝えるからさ」俺の言葉にアキは首を振る。

「これ以上は休めない」静かではあるが、はっきりとアキは言った。俺はアキの顔を見て、ため息を一つついてから、二人分のお茶を用意する。とりあえず、アキも、そして俺自身も、リラックスしておいた方が良さそうに思えた。


 俺の煎れたお茶を飲みながら、アキがふと顔を上げる。俺が、どうした、と聞くと、アキは少しためらうような表情を浮かべ、口を開いた。

「教団の強硬派のトップは、リオの兄さん、なのでしょう?」

「ああ。そう聞いてるよ」

「その兄の方が、諜報部の内通者とグルになっている」

「そうだな。実際、何をやる気なのかはよくわからないよ。今、クリス大尉が聞いてると思う。俺たちがどうするかは、その内容次第だよな」俺がそう言うと、アキは小さく頷いて、視線を机の上におかれたティーカップに移した。何かを考え込んでいるような表情。俺はそのアキの様子を見て、ふと、国境にいる頃に聞いた、アキの家族の話を思い出す。姉と母を失ったアキの話を。状況は大幅に違うにしろ、アキはどこかで今のリオの境遇に何かを重ねているのかもしれない。

「できれば、逮捕ですませたい、よな」俺がそう呟くと、アキは視線をゆっくりと上げて、微かに頷いた。


 どのくらいの間そうしていたのだろうか、俺とアキが互いに話題もなくなり、沈黙が部屋を埋め始めた頃、いきなり大きな音を立ててドアが開いた。

「ミーティングだ。すぐに準備してくれ」険しい表情を崩さずに、クリス大尉がそう言いながら部屋に入ってくる。その後ろには、憂鬱そうな表情を浮かべているF二五が立っている。その様子を眺めながら、俺は、これから命令されるであろう内容に思いを巡らせる。おそらくは教団強硬派の制圧を警察と協力の上で行う、という方向だろう。


「あと一時間後に公安と首都警察が、ファルト教団に強制捜査を行うことになった。そこで、とりあえずは教団の連中を確保できる。我々陸軍は、基本的には警察のバックアップとして動くが、もしファルト教団が警察力で抑えきれないレベルの抵抗をする場合は、警察と協力してこれを無力化する」クリス大尉はそう言いながら、俺たち三人を見る。ミーティングの開始早々、後一時間後になどと言われて、俺は驚いたが、考えてみればここから首都までいくのに優に一時間以上はかかるだろう。ということは、俺たちの出番はとりあえずは無い、と言う事でいいのだろう。俺が安堵のため息をつくと、クリス大尉は唇の端だけを歪めて、にやり、と笑った。

「で、カイル、お前さあ、対物ライフルって使えるか?」

「は?」俺は思わずそう聞き返していた。対物ライフルと言うのは、昔は対戦車ライフルとも呼ばれていた大口径のライフルだ。狙撃に使用すると、その弾の大きさ、炸薬の強力さもあって、弾丸の直進性が高く結構使いやすいとは聞いた事はあるが、実際に俺が訓練で使用した経験から考えると、とても使いやすいなんて言えた代物ではなかった。反動で肩は痛む上に、炸薬の発煙が酷く、発砲する度に視界不良を引き起こす。威力は高くても、あれではとても狙撃なんかに使えた物ではなかった。

「教団本体は警察と首都警備隊が抑える。で、俺たちが抑えるターゲットってのも当然ある訳さ。午前九時前後からファルシアの街道を首都に向けて不審車輛が走行している。カモフラージュはしているが、諜報部が撮影した画像を解析すると、陸軍で採用しているG六七装甲車がベースの車輛だと言う事が解った。諜報部に聞いた所、この車輛は三ヶ月前に、諜報部で使用していた物だという事が判明した。ちなみに車輛自体はボストとの内通が疑われる諜報部員が失踪した時期とほぼ同時に基地から消えている。文字通り、基地から一台無くなったってさ。間抜けな話だ」

「あの、まさかとは思いますが、その装甲車を、あの対物ライフルで止めろ、とかそんな話じゃないですよ、ね」

「何言ってるんだ。そのまさかだよ。十二時になったら特殊作戦群のヘリで街道沿いに北上する。ターゲットとの接触は、彼らの走行速度から計算するとおそらく出発から三十分後だ。ヘリから狙撃して動きを止めろ」

「無茶ですよ。揺れが酷いヘリから、ただでさえ使いにくい対物ライフルでですか?しかも夜間ですよ」俺がそう抗議すると、クリス大尉は、そんなことは解ってるよ、と苦笑いで答える。

「もちろん、対戦車用のスティンガーもヘリには積んでいく。ただ、この車輛にはどうも化学兵器か、爆薬の類いが積んでありそうだからな。連中が首都をテロでつぶす気なら、その辺りが一番疑われるだろ?ミサイルなんかで一気にぶっ飛ばしてみろ。大変だぞ後が。街道一本が下手したら封鎖される。首都が壊滅するよりは何倍もましだけどな」

「だから、対物ライフルで、しかも、人気の無い街道で、出来るだけ積み荷に影響を与えないでこれを止めろ、と言う事ですか」

「よくわかってるじゃん。リオの話では、多分ヨハンもそいつに乗ってそうだということだしね。何らかの危険な物を積んでる事もほぼ確定だ。まあ、現場で状況見て、お前がライフルで止められなければ、ミサイルを使うよ。市街地に入れない事が最優先だからな」


 俺は、クリス大尉の言葉に、僅かに引っかかる物を感じる。いろいろと理由をつけてはいるが、多分、クリス大尉も、俺と同じで、ヨハンを殺したくないのだろう。もちろんいよいよ首都に危機が迫れば車輛ごとミサイルで吹き飛ばすことを、大尉は躊躇しないだろう。ただ、それでも、リオの兄を、出来うるなら殺さずに逮捕したいという大尉の意図は俺にも解る。俺はリオが、車中で、兄なのです、と苦しそうに呟いた姿を思い出す。


「わかりました。やります」俺がそう答えて立ち上がると、クリス大尉は、頼む、と力のこもった声で答えた。


 アキは自分もヘリに同行すると言い張ったが、クリス大尉からはっきりと断られ、首都での警察のバックアップに回ることになった。アキはクリス大尉が、命令だ、とはっきり告げても、不貞腐れた表情のまま納得がいかない様だった。

「私の体調を考慮されているのであれば、それは余計な配慮です。連れて行ってください」アキがそう言うと、クリス大尉は、違うって言ってんだろ、と苛立ちの混じった声で答える。

「あのな、ヘリが攻撃されて落ちたりする事も当然考えられるんだぞ。別室のメンバーが全員殉職とかになったらどうすんだよ。解るだろう、そのくらい」

「解りません。だったら大尉が残るべきです。大尉が殉職された方が軍に取ってはダメージが大きい筈です」一理ある、と俺も思う。大尉が同行すると言っているのは、責任感からというのもあるし、この人がどちらかと言えばデスクワークよりも現場好きだから、という理由もあるだろう。

「アキ、一応俺は上官なんだぞ。命令って言ったよな?」クリス大尉が半ば呆れながらそう告げると、アキは唇を噛んで、クリス大尉を睨む。

「アキさん、クリス大尉の言う事ももっともです。私と首都に行きましょう」F二五が取りなすようにそう言うが、アキは首を振って、その申し出を拒絶する。その様子をクリス大尉はため息まじりに眺めていたが、やがて椅子から立ち上がりアキの机の前まで歩くと、俺とF二五の方を振り返った。

「悪いけど、アキと二人にしてくれるか?カイルは特殊作戦群のヘリの所に行って、狙撃のプランを練ってくれ。F二五はロイと会って、首都での公安部との連携プランについて確認するように」クリス大尉のその指示に、俺とF二五は頷きだけを返すと、不貞腐れたアキとクリス大尉を残して、部屋を出る。部屋を出る時に、俺はアキを振り返る。思い詰めたような視線を、机の上に落としたままで、アキは無言のままでいた。



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