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47 悪魔の存在

 シュールから聞かされた話にラーフはぞっとした。

 レンジュを失った後、自分はこの悪魔の言葉に乗せられてここまできてしまったのか。


「魔王様は私の理想通りの魔王様でした。自由に悪魔の生成もさせてくださいましたし」


 ここでレンジュに魔王の子供を産ませれば自分の目的はほぼ達成できたようなものだった。


「なのに、ここで引き下がってしまうとは情けない。あなたの執念には敬意を抱いていたというのに」


 悪魔は呆れたといわんばかりに大きくため息をついた。


「ですから、計画を変えます。この聖女様は私が貰い、私の子供を産んでもらいます」


 レンジュはじたばたと暴れたがシュールにがっしりと抱きしめられて逃げることができなかった。


「レンジュを放せ」

「放しませんよ。百年以上も待ったんですから」


 そう言いシュールはレンジュの口を覆っていた右手を放し、手を翳す。

 すると陣から禍々しい闇が生まれシュールとレンジュはその中へ誘われる形で姿が消えようとしていた。

 ラーフは慌てて二人を止めようとした。


「ラーフ!」


 レンジュは鎖をかいくぐって右手を前に差出した。ラーフへ助けを求める。

 ラーフはその右手を捕まえようとしたが、間に合わずレンジュの姿も消えてしまった。


「くそっ!」


 ラーフは何もなくなってしまった陣に拳を振り下ろした。

 まさかスパルノが悪魔と入れ替わっていたなんて。

 早く気づいていれば、こんなことにならなかったのに。


「一体どこへ」

「悪魔の世界へ行ったんだろう」


 腹の傷を抑え魔王はラーフの傍にかけよった。


「お前はここで待ってろ」


 魔王はそう言い手を翳した。

 すると先ほどと同様の闇が陣からあふれ出た。


「俺がレンジュを連れ戻す」

「俺も行く!」

「瘴気はここの比ではない。お前のその守りすら役に立たないくらいにな」


 魔王はちらりとラーフが持つレンジュの守りを見つめた。

 自分のものはどこへ行ったのだろうか。

 魔王はふとそんなことが頭の隅に出てくる。


「レンジュは?」


 いくらレンジュが聖女でも悪魔の世界で力を発揮できるのだろうか。

 救世神の加護が届くのだろうか。


「レンジュは……シュールが大事な実験材料とし瘴気から守ってくれることだろう」


 魔王は忌々しげに呟いた。


「すべてあの道化に踊らされた俺の責任だ。俺がこの世界にレンジュを戻してやる」


 だから、ここで待て。


 そう言うがラーフは否と答えた。


「お前のその傷でどうやって戦えるんだ……それに俺は何があってもレンジュを守る」

「それは、レンジュが聖女だからか? それともレンジュを惚れているからか?」


 魔王の質問にラーフは動揺した。そしてようやく強くうなずいた。


「ああ、俺はレンジュが好きだ。だから、守る。そしてレンジュの望みをかなえてやりたい」


 例えそれが彼女を失うことになろうとも、自分も共に消えてしまえばよい。


「……愚かな」


 魔王は嘆息した。今の自分としては理解できない選択である。

 だが、もう目の前の男を止めようとは思わなかった。


 ◇◇◇


 レンジュは唇を噛み、目の前の悪魔を睨みつけた。

 両手を鎖でつながれ磔にされている状態であった。両足にも鎖が繋がれその先にはおもりがついていた。


「そう怖い顔をしないでください」


 シュールはにこりと笑いレンジュの頬を撫でた。それにぞわっとした。


「恨むならラーフとやらを恨んでください。あのままうまくいけばラーフと結ばれたでしょうに」


 残念そうに呟くそれにレンジュは顔をそむけた。つれない態度をとるレンジュの顎をとらえ無理やり上へ向けさせた。


「最高の悪魔を作る素晴らしさに気づけないとは。これだから救世神に寵愛された程度の人の娘は」


 シュールの表情は冷ややかであった。その冷たさにレンジュは身を竦めてしまった。


「大丈夫ですよ。あなたは大事な体なので傷つけたりしません。なんでしたら私が彼の代わりに愛を囁いてあげましょうか。彼の姿に化けるなど簡単ですし」

「やめて」


 レンジュは首を横に振った。

 いくら姿が愛しい者であったとしても嬉しくもない。

 恐怖しかなかった。


 部屋の外から大きな音と悪魔の奇声が響いてきた。

 しばらくそれが続いたと思ったら扉が開かれ、そこにラーフと魔王が飛び出してきた。


「レンジュ!」


 ラーフはレンジュの姿を認め、叫んだ。

 愛しい者がここまで来てくれたことにレンジュは胸の締め付けられる想いがした。


「やれやれ、思った以上に早かった。傑作の悪魔たちだったのに」


 二人の道を阻んだ悪魔はシュールが百年間作りだしたものたちであった。


「シュール……」


 魔王はシュールを睨みつけた。


「おや、なんですか? もしかして私を恨んでいますか」

「いや、お前は私の願いを叶えてくれた」


 どんな形であれ会いたいと強く願ったレンジュに出会うことができたのだ。

 恨むのはシュールに乗せられここまで来た自分である。


「お前には感謝すべきなのだろう。だが、レンジュはお前には渡せない。返してもらおう」


 そういい魔王はシュールに剣を向けた。


「そんな傷で私に挑むのですか? いくら魔王様でも無謀ではありませんか?」

「確かにそうだ」


 魔王の前にラーフが出て自分が戦うと言った。


「お前はレンジュを解放するんだ。俺があの悪魔を倒す」

「逆だろう。あれは俺が倒すべきものだ。お前はその間にレンジュと一緒に逃げろ」


 ラーフは魔王の腹の傷をみた。まだ傷は癒えてなく血が今も流れ続けていた。


「いいから俺にやらせろ。俺はあの悪魔を一発殴ってやりたいんだ。レンジュを道具としか考えていないあいつをな」


 その言葉を聞き魔王はわかったと言った。


「いくぞ、シュール」


 ラーフはシュールに剣を振り上げた。それをシュールは指で受け止めた。


「だいぶ瘴気にあてられて弱っておいでですね。傷を負っているとはいえ悪魔の肉体と化している魔王様に戦いを任せればよかったのに」

「うるさい! 俺はお前を許さない」


 ラーフが戦っている最中に魔王はレンジュの方へ近づいた。鎖を外していきレンジュは自由の身となった。


「ここを通れ」


 魔王は足元に闇の入り口を作った。


「ここで元の祭壇に戻れる。お前は先に戻れ」

「ラーフが……」

「あれは俺が後で連れ戻す」


 そういってもレンジュは首を横に振り入り口へ入ろうとしなかった。レンジュは両手を合わせた。


「無駄だ。この世界じゃ救世神の加護は届かない……お前の祈りは届かない」


 悪魔の世界では聖女もただの人の娘でしかない。

 それでもレンジュは祈りをやめようとしなかった。


 魔王はラーフの方へ視線を移す。

 何度か攻撃を受け流しながらもシュールはラーフの攻撃を直撃しそうになった。


(おかしい、ただの人が、何故この瘴気が蔓延している世界で動けるんだ。さっきよりもずっと動けるようになっている)


 違和感を覚えながら考えようとしてもラーフの早さがあがっていき何度も危ない目にあってしまう。そのときちらっとみえたレンジュの仕草をみた。祈りの姿であった。


(まさか、この世界では聖女の力など効果がでないはず)


 そう思っても現にラーフの力は強かった。

 そして、シュールはついにラーフの一閃を受けてしまった。


「っぐ……こんな人に」


 自分が作り上げた魔王であればまだ理解できた。だが、魔王になる前の人のラーフにやられるなど。


「はぁっ」


 ラーフは一撃くらわせても油断せずシュールの体へ何撃も攻撃した。

 胸を首を腹を急所といわれる場所に攻撃を受けたシュールはその場に崩れ落ちた。


「なんで……お前はこんなに動ける」


 そういえば、とシュールは百年前過去へ来たばかりの魔王の強靭さを思い出した。

 少女一人のために身をぼろぼろにしても構わず、魔王に一人で対峙することも厭わない男の姿を目の前の男と重ねた。


「俺はレンジュを守る為ここに来た。レンジュを苦しめたお前を絶対に許さない」


 ただそれだけの為に目の前の男はここまで奮起したというのか。シュールには理解できなかった。

 ラーフは崩れ落ちたシュールの心臓の位置に剣を下ろした。


「ラーフ」


 レンジュはラーフの元へ走り寄った。少し体が重たいが、それでもラーフの傍に早く寄り添いたかった。ラーフはシュールの肉体を背に向けてレンジュを迎えようとした。

 勝利の余韻を味わっている二人に魔王は慌てて叫んだ。


 まだわずかに動いていたのだ。あの悪魔は。


 その叫びよりも早くラーフの心臓の部分に衝撃が走った。

 シュールが人差し指をだしラーフに向け白い閃光で攻撃したのだ。

 ラーフの胸から赤い血が飛び出し、それがレンジュの肌と白い衣装にかかった。


「はは……私の計画を台無しにした報い、です」


 そういいシュールは笑った。

 かなりの深手を負っていたが、この程度では死ぬことはなかった。

 魔王はすぐにシュールの方へ近づき手の平を向けた。

 手の平から黒い渦が現れ、シュールの全身に襲い掛かった。渦は次第に小さくなり姿を消した。

 それがとどめとなりシュールの息の根を止めた。


「ラーフ、ラーフ……」


 レンジュは髪を振り乱しラーフを抱きしめ必死に呼びかけた。


「この瘴気の中では毒だ……急いで元の世界に戻るぞ」


 魔王がそういい二人を連れ元の世界へ戻った。


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