44 対峙
瘴気の立ち込められる祭壇に案内されたレンジュは言われるまま魔王の傍にまで寄った。近づく間にふとレンジュはギーラの気配が弱くなっているのを感じ取った。
(全ては私の甘さが招いたこと。私が何とかしなければ)
レンジュはきゅっと唇を噛みしめ魔王の元まで近づいた。
「どうした? レンジュ」
目の前の男が優しくレンジュに声をかけた。レンジュはじっと男を睨みつけた。
「俺が憎いか?」
男は理解しているようにいう。その表情はひどく優しかった。
「いいえ」
「そうか。俺はこの百年、世界を壊し続けてきた」
「……」
「お前に憎まれても仕方ないと思っている。それすらも俺は受け止める」
レンジュが傍にいるだけでいいと男は笑った。
そしてレンジュを抱き寄せた。
「お前は俺の傍にいればいい。俺を憎むだけ憎んでいい。俺が何よりも嫌なのはお前のいない世界なのだから」
「私が、すぐにあなたから離れなかったから、最期まであなたが傍にいることを望んだからこうなったのね、ラーフ」
レンジュにようやく名で呼ばれ男は嬉しそうにしていた。
「ラーフ、私が……私の甘さであなたをこうさせてしまったのならこれは私の罪。私が購わなければならない」
「お前は何もする必要はない。ただ、いてくれればいい。お前はもう聖女でいる必要なんてない。ただの娘に戻ればいい」
そう男はレンジュを抱き寄せようとした。それをレンジュは跳ね除け後ろへ下がった。
「いいえ。私は聖女であることをやめない」
レンジュは首を横に振った。その時、レンジュの体が白く光った。
「ラーフ、あなたを浄化して、私は最期のお役目を果たす」
「俺を浄化するのは並大抵のことじゃないぞ。今まで腐敗した大地を浄化する程度では無理だ」
魔王として百年も蓄積した瘴気はいつものレンジュの力では浄化することはできない。
「できるわ。最期のお役目の力を使えば」
いっそうレンジュから出る光が強くなった。今までの比ではないくらいに。最期の聖女の力であった。
「世界と魔王を一気に浄化するのか」
魔王は特に驚いた様子もない。これも想定内だっといわんばかりにだ。
「俺も、何も考えていたわけではない」
魔王は手を翳すとレンジュの足元に円を描くかたちで陣が敷かれた。
「あっ……」
レンジュから出る光が徐々に弱くなっていった。
「俺がお前の力を簡単に出させると思ったか?」
百年もの間、魔王はレンジュにどうすれば力を使わせないか考えた。
魔王の知識を得て、多くの悪魔や識者を利用し聖女の力を弱める術を開発させた。
「かなりおおがかりなもので、すぐに使えなかったがな」
自分の力が抜けて行くのをレンジュは感じ取った。
この陣の中では自分の聖女の力は使えない。
救世神に祈りを捧げてもそれは天に届けられることはできなかった。
この陣の中ではただの少女と化してしまった。
それにレンジュは青ざめて身を崩してしまった。
魔王は陣の中に入りレンジュの傍に寄り添った。
「放して」
レンジュは魔王から離れようとするが、陣の中では身が重たくうまく動けなかった。そのままレンジュは魔王に手をとられ引き寄せられてしまった。
「どうして……ひどい」
この陣の中にいる限りレンジュは何もできなくなってしまった。
何の力もないただの少女、レンジュが最も嫌がる姿だ。
「ひどいのはどっちだ」
魔王は苦しげに呟いた。
「お前は、自分を犠牲にすることを躊躇わない。自分の命すらも喜んで捧げてしまう……それで世界が救われるならと」
確かにレンジュの自己犠牲で世界は救われた。
枯渇された大地は回復し、豊かさを取り戻していった。
人々の生活に活気が戻っていく。
多くの人はしあわせに生きていけるだろう。
「ラーフ」
辛そうな魔王の表情をみてレンジュはどういえばいいかわからなかった。
「レンジュ!」
突然呼ばれレンジュは驚き扉の方へ振り向いた。
そこにはラーフがいた。
レンジュのよくしる今のラーフであった。
彼は体中傷だらけで、今も血が流れていてそれが痕を引いていた。
「旦那、やっぱり手当してから来ればよかったでしょう」
ここまでくる間スパルノは何度もラーフに手当をするように提案した。
しかし、その時間も惜しい程とラーフは拒み先を進んできたのであった。
ラーフは体内の多くの血を流してしまい意識が朦朧としていた。
ようやくレンジュの元へたどり着いたと思ったらその場に崩れ落ちてしまった。
「ラーフ!」
ラーフの重傷をみてレンジュは悲痛な悲鳴をあげ、魔王をはねのけ陣を出ようとした。
魔王がそれを止めた。レンジュをこれ以上聖女の力など使わせないように。
「ダメ!! あなたまでいなくなるなんていや!!」
「やめろ」
魔王はレンジュが力を使うのを許さなかった。
陣から鎖が現れ、レンジュを拘束する。レンジュが陣から出られなくなったのを確認して魔王は彼女から離れた。




