43 ギーラの戦い
「お前の相手は私だ」
ギーラは槍を構え、ルシルと対峙した。
「まぁ、いいでしょう。あんな怪我では、魔王様の元へたどり着く前に倒れてしまうでしょう。一緒に行った者もたいしたことなさそうですし」
「そうか」
ギーラはそう言いながらルシルに突きを食らわせようとした。それをルシルは軽ろやかにかわしていく。
「私の相手はあのまま彼に任せればよかったのでは?」
「そうだな。だが、お前は私が倒さなければとも思った」
「?」
「お前が昔戦った女戦士……、この耳飾りをしていなかったか?」
そういいギーラは自身の耳につけている耳飾りを示した。髪で隠れていたが、髪を払いみせた。翡翠の石が埋め込まれた耳の装飾品であった。
「さて、覚えていませんね」
「……そうか」
ギーラはそれだけいいルシルを攻撃することにだけ集中した。
ルシルは後ろに回り込み、ギーラの背中にちょんと指をはじいた。その瞬間、ギーラの体から血が噴き出した。
「あはは、綺麗ですね」
花火のようだと血しぶきをたたえて笑った。
ギーラは槍を杖替わりにして立つのに耐え抜いた。
「はぁ、はぁ……」
強い。
ラーフの感じていた通り、今までそこいらにいた悪魔とは違いすぎる。
彼にはじかれた瞬間、頭の中がぎゅうぎゅうづめにされる感触を覚えた。ひどい頭痛だった。狂わんばかりで。
瘴気の蔓延した中、こんな攻撃を受けては正気を保てなくなっていただろう。
数年前、瘴気の元になったルシルと戦った妹が正気を保てなくなる理由がわかった。
レンジュから与えられた守りのおかげで何とか耐えられていたが。
ギーラはふとレンジュの顔を脳裏に浮かべた。
あんな幼さが強く残った少女であるのに、とんでもない重荷を背負わされていた。
そしてその末で待ち受けている現実を彼女は拒まずに自分の役割を全うしようとしていた。
聖女として生まれたから強いのだろうとギーラは感じていた。
だが、共に行動をするにつれ聖女であっても元はただの少女なのだと感じ取った。
それでも悟られまいとレンジュは弱音を吐こうとしなかった。甘えもみせなかった。
そんなレンジュがはじめて我儘を言ったのはラーフを供にと選んだときであった。
その時からレンジュは少しだけ甘えをみせるようになった。
ラーフはそれを受け止め、ぶっきらぼうなりにレンジュの甘えに応えていた。
その様子をみるのがギーラは嫌いでなかった。
「あなたも変な人ですね。あのまま彼が私と戦っている間先に進んでしまえばよかったでしょう」
「……かもな」
アーテと戦っている最中、ギーラは何度か考えた。ここでラーフに二人の悪魔を押し付けて先に進んでしまおうかと。
そのまま見殺しにしてしまおうと考えもした。
だが、できなかった。
仮にそうしたら、その後どうすればいい。
おそらくレンジュが一番傍にいて欲しいのは自分ではない。
彼がおぞましい魔王になるとわかっていても、レンジュはラーフが来てくれることを望んでいるはずだ。
「さて、ここで終わりにしましょうか。ああ、そうだ。女戦士のように狂っていくのも楽しそうですね」
ルシルがそういい再度ギーラに攻撃しようとするが、ギーラはそれをよけた。意外とルシルは関心した。
「その傷でよくよけれましたね。さすがデーヴァ一族は頑丈だ」
「お前なんかの好きにはさせない」
ルシルの攻撃は厄介だ。触れられないようにしなければならない。
ルシルの行動を追う必要があった。
アーテのような行動パターンがあるかもしれない。
だが、アーテの場合は何度も攻撃をみたから予測が可能だったのだ。
ルシルの攻撃を何度も受ければ体にがたがきてしまう。
ルシルが目の前にまでやってきたときギーラは腰につけていた袋をとりだしルシルに叩きつけた。
「これは薬草ですね……」
顔面にあたった袋の中のものをルシルは確認していった。薬草をしっかり焚きこめたものであった。
「確かにこれは薬草の中でも厄災払いに使用されるもので、悪魔で嫌がるものもいるでしょう。ですが、私には何の効果もないですよ」
ギーラの行動を滑稽だとルシルは笑った。ギーラはじっと目を閉ざしていた。
それを見てついに瘴気の中気が混乱してしまったのかとルシルは考えた。
「哀れですね。これでおしまいにします」
そういいルシルはギーラの横を回り込んだ。ギーラは目を閉ざし、必死にその先を追い求めた。
そしてわずかに感じ取った軌跡を追い槍を構えた。
槍の突きはルシルの首に命中した。
「な……」
今まで自分の動きについてこれなかったギーラの突然の変貌にルシルは動揺した。
そんなことはありえないと再度回り込んでみるが、ギーラは落ち着いてその先を追いかけ心臓にめがけ槍をついた。
「馬鹿な……どうして急に」
「デーヴァ一族は香に関して敏感なんだ」
「……なるほど」
それを聞きルシルは笑った。
「先ほど狂ったのかと思った薬草の投げつけられた。あの薬草は香にも使用されているもの」
ルシルに香の匂いをつけて、その匂いの先を追って攻撃をしたのだ。
ルシルはその場に崩れ落ちた。
それをみたギーラは安堵し、その場に倒れこんだ。
「はぁ、……確かにラーフに任せておけばよかったかな」
ルシルの攻撃でかなりの傷を負ってしまった。
頭もずきずきして痛む。起き上がろうと思ってもなかなか起き上がれなかった。
これではレンジュの元へ行くことが敵わない。
「見届けなければならないのに……」
ラーフがレンジュの元へたどり着いた時、ラーフは何を感じどう行動とるのかを。
魔王を倒さなければならないというのはわかっているはずだ。
あれだけの怪我をおっているが、ラーフにはまだ戦う力が残っているようにも感じられた。
もし、倒せたとする。ラーフはレンジュをどうするか。
「攫ってくれないかな」
レンジュが役目を果たすのが一番とギーラは考えた。
同時にレンジュは十分役目を果たしたとも思った。
辛い最期をとげるのではなく、愛しい男と一緒になるのも許されるのではなかろうか。
「つくづく甘いな」
聖女が長くみせてくれた甘さに酔ってしまったようだ。
ギーラは皮肉げに笑い瞼を閉ざした。




