37 マホの灯り
ラーフたちが城の中へと消えた後、マホは柱の上の火が消えないように力を使い続けた。
「あっらー? 急に嫌な空気になったと思ったらこんな火が灯されているわ」
女の声にマホは頭上を見上げた。そこに自分と同じ年頃の女の子の外見をした悪魔がいた。彼女はにこりと笑い、左右に息を吹きかけた。
すると左右の柱に灯された火が消されていった。
「あなた、火の神の加護を受けているわね」
「だとしたらどうなの?」
「火の神はね、私が一番大好きな神様なの」
少女は満面の笑みで答えた。
「私はカパリ。みての通り悪魔よ。魔王様直属の、魔王様から直接力を与えられた者」
「ということは悪魔の中では結構偉い方?」
「まーね」
マホの純粋な質問に、カパリは鼻を高くして笑った。
「どうして、悪魔が火の神のことを好きなの?」
悪魔にとって天上の神は邪魔な存在なはずである。
それにカパリはくすりと笑った。そしてマホの首を右手で掴んだ。
「っ……」
突然のことにマホは逃げられず、顔をゆがませる。
「だって、人に火を与えたのよ。火を」
人は火を手に入れたら初めは獣から身を守る為に使い、時と共に暖をとったり食事を調理するために使った。そして次第に人は火を戦の道具として使用することとなった。
「火は人間の醜い争いの為に利用されるようになったのよ」
首を絞めつけられていたマホは無我夢中にカパリの胸めがけ蹴りを与えた。
カパリは急いで手を放し両手で胸を抑えた。マホは音をたてて地面へと落とされたが、急いで態勢を整える。
「全く……女の子の胸にけりを入れるなんてひどい男ね」
カパリはぷんぷん怒ってマホを軽蔑した。
「でも、山の中にずっと籠っていた野生児だししょうがないかぁ」
カパリは右手で人差し指だけ立て左右の柱に指をさした。すると柱に火がともされた。先ほどマホが灯したものとは全く別のものであった。
悪魔の灯した火であり、悪魔にとって力をさらに上げる効果があった。そして人にとって不安をあおる火であった。
マホは慌てて両方の火を消して自分の火を灯そうとした。しかし、悪魔の火の勢いは思った以上に強くなかなか灯せなかった。
「まぁ、実際まだ神の器ではないあなたには無理ね」
カパリはくすくすと笑って、マホの無駄な力の浪費を労った。
「さてと」
カパリはマホの方へ指をさしくるりとマホを囲うように指を動かした。するとマホの周囲に黒い火がともされた。
「うわっ」
マホは慌てて火から逃げようとしても黒い火はマホの身をまといマホの体を焼き尽くした。
火の神の加護を受けていても悪魔の火への耐性はない。徐々に命を削られていくのを感じマホはその場に崩れ落ちた。
「思った以上に弱いわね」
あっけないマホの退場にカパリは残念がった。心底つまらなさそうにしている。
「まぁ、まだ子供だし神の器じゃないししょうがないかぁ」
ホノカ山で現神の器をしているカイならばまだやりごたえがあったかもしれない。
「今度ホノカ山に行ってみましょうかね」
カパリはじめ多くの悪魔たちはホノカ山へ近づくのを嫌がっていた。
ホノカ山の頂から流れる空気が悪魔にとって力をそぐ神聖な空気であった。
しかし、今は全世界に悪魔の放った瘴気が蔓延している。
ホノカ山周囲も例外ではない。徐々にであるが押されていると報告があった。
「まぁ、まずは侵入した眷属の奴らを排除しましょうか」
マホがここにあえて残って、ほかの眷属たちはすでに城の中に入っているようであった。カパリは急いで後を追い眷属たちを倒さなければならない。
「もうすぐ大事な儀式もあることだし」
カパリが中に入ろうとすると後ろから衝撃が走った。
「あっつ」
背中に火が放たれカパリは慌てて背中の火を払いのけた。火傷していてカパリはちっと舌うちした。
そして後ろの方へ振り返った。
そこには先ほど倒れていたマホがいた。
「あらまぁ、死にぞこないが無駄なことを」
カパリは無表情でマホを睨んだ。
「可愛い。でも、私の背中に火傷を負わせてただではすまさないわ」
今のよりもずっと強い悪魔の火で焼き殺してやろう。カパリが火を出そうとする前に周囲を火で囲われてしまった。
「なに……」
マホの出している火であった。
「ふん、こんな脆弱な火はすぐに私の炎で消してやる」
カパリは笑ってそうしようとするがなかなか火は消えない。
「どうして……」
先ほどマホが出した火よりもずっと強いものであった。
「さっきまで本気じゃなかったの?」
それにマホは否定しなかった。
「僕は旅をする前カイに限界値を設けられていた。それより強い火は出さないようにって」
しかし、限界ギリギリまでの力では勝てないというのが目に見えていた。この左右の柱の炎を灯すのも難しいというのを知った。
「だから、カイの設けた限界を超えることにした」
それにカパリはごくりと唾を飲んだ。
「信じられない。今までこれだけの力を持っていて隠していたというの」
カパリは空を飛び火から逃げようとした。しかし、火はカパリの周りをまとわりつき逃がさないといっているようであった。
「熱い」
あまりの熱さにカパリは顔を歪ませた。
自分はここで死んでしまうのか。
今までいろんな場所で瘴気を蔓延させ、時には生きた人間を集めてはじわじわと焼き殺して楽しんできていた。
自分がまさかそれと同じ目に遭うなんて。
「ありえない」
カパリはそう言い切って火から逃げようとした。しかし、火はカパリの全身を包み込みカパリの体力を落としていった。
それを見つめながらマホは左右の柱に手をかざした。
悪魔の火を打消し、自分の火を灯そうとしているのだ。
「きゃはは、むだ、むだ。さっきも無理だったでしょう」
炎の中に包まれながらもマホをバカにするカパリを無視してマホは全身を集中させた。
悪魔の火は勢いを失い代わりに清浄な火がともされた。
「うそ……」
その火をみて城の中の空気が一斉に変わっていきカパリは驚きの表情を浮かべた。そしてその場に崩れ落ち体が灰へと転じて行くのを感じた。
そしてついにカパリは姿を消し、代わりに灰が空の中へ散った。
「やった……」
マホは嬉しそうに笑った。これでラーフたちは少し戦い易くなっただろう。
いくらレンジュから加護を受けたといっても、今のレンジュは攫われていていない。
城の中は魔王の本拠地だけあって人の生命力を徐々に削る程の瘴気が蔓延していた。そして嫌な気で体力もそがれて行く。
しかし、ここでマホが神殿の炎の灯される場に本来灯されるべき清浄な火を与えた。これにより空気は清浄なものが流れるようになっただろう。
満足したマホはその場に崩れ落ちた。
「ああ、カイ。ごめん」
カイに言われていた限界値を破って力をいっぱい使ってしまった。
火の神の力はある程度までは体力を次削る程度ですむ。しかし、強い力を使えばそれは命を削ることに繋がる。
だから、カイはマホの力に限界値を設けたのである。
次代の火の神の器に消えられたくなかったから。
火の神の器が途絶えればあの山周辺の火の神の加護は途絶えてしまう。
悪魔が瘴気をばらまきやすくなってしまうだろう。
「でも、これもひとつの方法だよね」
今ここで魔王を倒さなければ全世界が壊れてしまう。
そうなれば信仰する人々もなくなってしまう。
「きっと火の神様も許してくれるよね」
マホはにこりと左右の柱の上で灯る火を眺めていた。
強い力を使ったから簡単に消されることはないだろう。
それを眺めながらマホはゆっくりと瞼を閉ざした。




