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33 近道への案内

 古い祭壇のある洞窟の中で休みながらキラはここまでの道のりを説明した。


「実は魔王の城に入る場所は別にもあるんです。私が通った道は地下通路で、そこからであれば半日もかからないと思います」


 キラが使用した地下通路はスパルノでも見つけることのできない場所にあるという。


「近道できるということね」


 サーシャはその話に飛びついた。レンジュに加護があるとはいえ、深い瘴気の中長期動くのは得策ではない。早めに魔王のいる城にたどり着けるのであればそれに越したことはない。


「悪いけど、キラ。その隠し通路の場所へ案内してくれないかしら」


 それにギーラは待ったと言った。


「道のりに関しては説明をここで聞けばいい。彼女には安全な場所へ避難させよう」


 スパルノに護衛してもらいながらページュ村まで戻ればいい。そこでファルに保護をお願いしよう。


「あの、私に道案内させてください。せめてお礼がしたいんです」


 ちらっとキラはラーフの方を見つめた。


「しかし、これ以上危険な場所にいるのは辛いだろう」


 ギーラはそう説明したが、キラは首を横に振った。


「先ほどまでは怖かったです。ですが、ラーフ様がいるのであれば怖くありません」


 キラはにこりと微笑み、ラーフに声をかけた。


「お礼がしたいのです。いいでしょう?」


 甘えるような声でラーフに懇願してくる。これにレンジュは首を傾げた。


(なんだろう。すごい胸騒ぎがする)


 ラーフはキラの懇願に無表情に答えた。


「好きにしろ。ただし、俺たちもお前を守る程の余裕はないかもしれない。何かあっても自己責任だからな」


 冷たい言い方であるが、ラーフのことである。何があっても最大限守ってくれるだろう。

 その言葉にキラはありがとうございますと嬉しそうにラーフの腕に自身の腕を絡めた。まるで恋人にするかのような仕草だ。

 サーシャはぴくりと眉を寄せた。

 同時にレンジュの方を見つめると、彼女は複雑そうにそれを見つめていた。

 レンジュはすっと立ち上がり、洞窟の外に出ようとした。それにラーフは声をかけた。


「心配しないで。ちょっと空をみたいの」


 空といっても瘴気の雲が蔓延しており、星なんてみえない。

 外にでても無意味であることをラーフが言うが、レンジュはにこりと笑った。


「それでもみたいの」


 その言葉を聞いてラーフは大きくため息をついた。


「わかった」


 そう言い自分も外に出ようとしたが、それをサーシャは止めた。


「いいわ。私が傍にいるから」


 サーシャが立ち上がってレンジュの傍に寄り添った。

 二人が立ち去った後、マホは間の抜けた表情であくびをしていた。


「マホ、寝なさい」


 ギーラがそう言うとマホはこくりと頷いて横たわって寝息を立てた。ラーフは腕が一層重くなるのを感じた。キラがそのまま頭をラーフの腕に預けた姿勢で眠っていた。今までの経緯からよほど緊張していたから、ここで緩んで眠りについたのだろう。


「私も寝るぞ」


 そうラーフに言いギーラも横たわった。


「おい、昔はもっと過保護じゃなかったか?」


 昔のギーラであればレンジュが戻ってくるまではずっと起きていたはずだ。


「レンジュ様のことはサーシャがついている。心配はない。サーシャも敵地で遠くまで行くのを許したりしないだろう」


 ずいぶん信用しているようであった。


「ラーフ、ひとつ聞きたいことがある」


 ギーラはふと一言疑問をラーフに投げかけようとした。


「お前は……いや、やめよう」

「なんだよ?」

「すまない。忘れてくれ」


 そう言いギーラはマホの隣で横になって眠りについた。

 全くとラーフは大きく息を吐いた。


「ラーフ様」


 小さな声で囁きが聞こえてきた。眠っていたはずキラが声をかけていたのだ。


「眠っていたんじゃないのか?」


 キラは顔をあげラーフにお願いをした。


「あとで話があります。聖女様たちが眠られたら、私は洞窟を出ます。その後を追ってください」

「ここで話せばいいだろう」

「いいえ、大事なことで、二人っきりで話したいのです」


 キラはうるんだ瞳でラーフをみつめた。ラーフは面倒そうにため息をついた。


「わかった。まずはこの腕を解放してから寝てくれ」


 腕が重くて楽に眠れないとラーフは文句を言った。それにキラは従い腕を放し横に寝そべった。


  ◇◇◇


 外を出ると真っ暗で空を見上げたら予想通り何もみえなかった。

 星もみえない真っ暗な闇の世界でレンジュは心細さを感じた。


「大丈夫かしら?」


 サーシャがレンジュの方を覗き込んだ。


「はい、……」


 そう答えるもののレンジュは少し表情に影を落としたままであった。


「あまり気にしなくていいわよ」

「何も気にしていないよ!」


 レンジュは慌てた口調で声を出してしまった。はっと口をふさいだ。


「レンジュ様も女の子よね。好きな殿方に他の女がべたべたされちゃ面白くないわよね」


 それにレンジュは複雑そうに眉を寄せた。


「世界を救う為に自分を犠牲にする覚悟はできているのに……その後ラーフが自分のことを忘れて、ほかの女性と幸せになってくれればいいと思っているのに」


 いざ目の前で別の女性がラーフに近づくのをみて心がもやもやしてきた。


「自分がこんな浅ましい女だと思わなかった」


 サーシャはそっとレンジュの両頬を両手で包み込んだ。


「いいのよ。嫉妬しちゃえば。自分の心にウソなんてつくのはよくないわ」

「でも」

「あなたはもうすぐ全てを天に捧げなければならない。なら、それくらい許されてもいいはずよ」

「……」


 好きな男性をうんと好きと感じて、喜んで、ちょっとしたことで嫉妬して。

 そんな普通の女の子の生き方まで否定される謂れはないはずだ。


「それにあんまり気にしない方がいいわよ」

「?」


 サーシャの言葉にレンジュは首を傾げた。



 レンジュたちが洞窟に戻った後レンジュはサーシャと一緒に並んで横になった。

 寝息を立てているのを感じとりラーフは目を開けた。洞窟の中からちょうどキラが外へ出るところであった。ラーフは剣を手に持ち、後を追った。


 洞窟の外を出るとキラの姿がなかった。どこへ行ったのかとラーフはあたりを見渡すと歌声が聞こえてきた。甘い女性の声で不気味な暗闇の中であるのに不思議とそうは感じられなかった。

 その声の方へ向かうとキラが歌っていた。まるで天女の歌声である。


「ラーフ様」

「随分達者なんだな」

「ええ……幼い頃からの特技でした」

「で、俺に話とはなんだ?」


 明日も朝早く魔王の城へ向かわなければならない。

 さっさと要件を済ませて明日に備えて眠りにつきたかった。


「ふふ、ここまで来てわからないなんて困った方」


 キラはそう呟き、ラーフの胸に寄り添った。


「あまりべたべたするな」


 迷惑そうに眉根をよせラーフはキラの肩を掴み、引き離した。


「そんなつれないことを。私はあなたに助けられてからあなたに夢中なのですよ」

「興味ないな」

「……ラーフ様、あなたのそういうところも素敵です」


 そういいキラは身に着けているものを脱ぐ。そこには白い素肌があらわになった。


「私はあなたにどうしてもお礼がしたい。ですが、何もない私にできるのはこれだけ、どうか……っ!」


 ラーフの元へ寄り添おうとしたキラは足を止めた。ラーフは腰に佩いていた剣を抜きキラの方へ刃を向けた。突然のことにキラは驚いた表情を浮かべた。


「何故?」

「昔、聞いたことがある」


 キラは乳母から聞いた話を思い出すように語った。


 昔、一人の天女がいた。

 天女は天上の間でも美しく評判の美女であった。

 歌を歌えば誰もがそれに喜びを感じ、天女に恋をした。


 天女は自分の美しさと歌で男を意のままにできることを喜び、人・天関係なく男を誑かすようになった。

 それに怒った天の神は天女を下界へ落とした。天上に二度と上がれないように力を落とし。


 天女はそれで反省するどころか人の男を誘惑し、しまいには国の王にも手を出すようになった。

 これにより彼女に滅ぼされた国は数知れない。


「お前はその天女に似ているな」


 この世のものとも思えない美しさを持ち、甘美な歌を歌い男に寄り添おうとする。


「あはは……」


 キラは突然笑いだした。


「その昔語りの天女こそ私よ」


 光がキラの体から満ち、キラは白い羽衣を持つ美しい美姫へと転じた。

 ラーフは静かにキラを見つめた。


「ここで驚かないなんて、結構前から私の正体に気づいていたようね」


 女からは随分良い香りがした。甘いお香の香りが。

 領主一族の者であったラーフにはその香がかなり高額なものであることがわかった。


「魔王に囚われた女が、随分上質な香をつけているなぁ……と思っていたら異様にべたべたしてきて怪しいと感じたんだ。今の歌を聞いてふっと天女の話を思い出した。ただ、天女そのものではなく天女の真似事している悪魔かと思ったがな」

「驚いた。たったそれだけで気づかれるなんて」


 キラは関心してしまった。そして興味が出て自身のことを語りはじめた。


「あの話には続きがあるわ」


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