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31 魔王の正体

 村の道を歩いているとラーフに遭遇した。


「おう、もう終わったか?」


 レンジュの表情をみて一瞬ラーフは困った表情をした。何とも悲しい表情であった。

 レンジュは急いで顔を覆って元の表情に戻そうとした。

 顔をあげると目の前に淡い彩色を施された櫛があった。

 金箔や宝石はついておらずただ色がついただけの櫛であった。

 だが、その色合いが綺麗で、レンジュはとれてしまった。


「わぁ、綺麗」


 蓮の絵が彫られている。

 だが、どこかでみたような気がする。さっきファルと一緒に立ち寄った店棚で飾られていたものなのだが、レンジュは思い出せなかった。


「やるよ」

「いいの?」

「きんぴかの簪より高くなかったし、大したものじゃない」


 レンジュはそれを受け取って嬉しそうに笑った。


「ありがとう」


 レンジュは大事にそれを懐にしまった。

 ファルの時は断ったが、ラーフが自分の為に購入したものはついつい受け取ってしまった。


「で、あいつとはどうしたんだ?」

「ええと、断ってしまった」

「そうか」


 それを聞きラーフはほっとした。


「ま、世界を救った後あんなことはたくさんあるだろうよ」


 たくさんの貴族の若者がこぞってレンジュに求愛するだろう。

 その中でレンジュは一番大事に想ってくれる人と一緒になれればいい。

 そう言うとレンジュはしばらく間をおき笑ってみせた。


「帰るぞ」

「うん」


 ラーフはレンジュの手を握り、宿屋へと連れて帰った。


   ◇◇◇


 村の一角でギーラは神妙な面持ちをしていた。

 ラーフを解雇しようとした原因とその経緯を話されたのだ。


「まさか、そんなことが……」

「そうでもなければエリウ様もレンジュ様からラーフを引き離そうとはしなかったわ」

「信じられない。ラーフが」


 それにサーシャは悲しげに瞳を揺らした。


「事実よ。ラーフは今世界を絶望に突き落そうとしている元凶・魔王なの」

「だが、ラーフにそんな素振りは認めなかった」


 確かに初めてであった時は処刑される罪人であったが、ラーフと接するうちに悪人ではないことがわかった。レンジュは彼の優しさに惹かれていっているのがよくわかった。

 初めてみるレンジュの表情をみてギーラは悪い気分がなかった。


「今のラーフは魔王になる前のものよ」

「どういうことだ?」

「レンジュ様がスミアで世界を救った先はどうなるかわかっているわよね」

「ああ」


 もちろん知っていた。ラーフ以外は知っていることだ。


「レンジュ様は力を使った後、肉体はついに神の力に耐えられなくなり朽ちてしまう。そしてその霊魂は救世神の中に溶かされていく」


 歴代の聖女がそうであったようにレンジュも例外ではないだろう。


「……エリウ神殿にはまだ初代聖女の霊魂があったではないか?」


 肉体が亡ぶまでは知っていたが、魂まで消滅してしまうのははじめて聞くことであった。

 だが、それではあのエリウはどうなのだろうか。何故存在しているのだ。

 前回神殿で自分の目の前にも現れたので覚えている。


「エリウ様は例外よ。初代であるが為、聖女たちを正しい道へ導く為に救世神がこの世に残してくださったのよ」


 その代わりエリウは神殿の中でしか存在できず、力も神殿内に留まっている。

 もし、エリウが神殿の外へ出たときおそらく形は保てずそのまま救世神の中に溶けていくだろう。


「ラーフはレンジュの末路を知り、世界と神に絶望し憎悪を抱くようになる。そして、その憎悪の力で過去を遡ることに成功し、魔王の力を手に入れたの。本来ならこの世界に今の魔王は存在していない。異界でまだ眠っているはずなのだから」


 百年前にさかのぼったラーフはその魔王を殺し、魔王の力を自分のものにしたのだ。どうしてそれができたかは不明であるが、彼の執念はすさまじいものであった。

 そして百年の時を経てまでいずれ自分の元へ来るレンジュを待っている。


「レンジュ様はこのことを?」

「知っているわよ。聖女になった直後夢を介してラーフの魔王になった姿をみてしまったの」


 だからレンジュははじめ魔王になるであろうラーフを見捨てようと考えた。

 しかし、ラーフの処刑の話を聞くとその経緯はあまりに悲しいものであった。

 誘拐され凌辱され殺された妹に嘆き、そうさせた男を憎み殺したというもの。

 レンジュはラーフを救い、自分の一行に加えた。

 ある程度彼が気力を回復した頃に一行から外そうと考えた。しかし、レンジュはそれができずにいた。


「前回、エリウ様に叱咤されようやくラーフを引き離そうとしたけど、遅かったのよね」


 レンジュは思いの他ラーフに心惹かれてしまった。

 いざ離したと同時にレンジュの悲しみようはかなりのものであった。


「この状態をずっと続けてはスミア山に行く前壊れてしまうわ」


 だから、サーシャはラーフがレンジュの傍にいることを許した。


「わかった? ラーフの記憶は操作しなければならないの。レンジュ様がいなくなった後、絶望する間も与えないくらいに」


 知ったからには強力してもらうわよとサーシャは言った。

 ギーラは頭を抱えていたが、ようやくこくりと頷いた。

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