29 過保護な3人
ファルの勧めで宿屋にしばらく待機することとなったラーフたちはそこでお茶を飲みながら休憩をとっていた。
サーシャはじぃっとラーフを睨みつけた。
「なんだよ」
「何で行かせるのかしらね」
「お前も止めていなかっただろう」
ラーフの言葉にサーシャはつんとした。
「まぁ、あの男も聖女相手に突然手を出したりはしないだろう」
ギーラはお茶を飲みながらそう呟いた。
「あら、ギーラは随分あの男を信用しているようね。会って間もないのに」
「あの男の一族はそれなりの家系だ。確か、祖先の中に不治の病の治療薬を開発して貴族に昇格される程であったが、あえてこの村に留まって学者の家系を貫いていると」
本当に有名な家系であるらしい。ラーフは初耳であったが。
今では珍しくなく薬師に頼めば調合してくれる薬の数々はファルの祖先が編み出したものだという。
「全くなんで男はこう能天気なの。万が一のことがあったらどうするのよ」
「どうってまだレンジュはガキなんだからあいつもそこまでしないだろ」
呆れた声をあげるラーフにサーシャはきっと睨みつけた。
一瞬だが、ギーラも反射的に睨んできていた。
(ああ、なんだよこの過保護どもめ)
「ラーフ、あんたレンジュ様が聖女の力をとどめておく一番の条件はなんだと思っているの?」
「何だろ」
考えたことはなかった。禊とかを定期的にしていたからそれだろうか。
「処女でいることよ」
サーシャの言葉にラーフはごほっとお茶をこぼした。
マホは心配そうにのぞきこんでくる。
「あんたが子供扱いするのは仕方ないとしても、レンジュ様はすでに成人した女性」
万が一ファルが我慢できずにレンジュを襲うことがあれば聖女の力はなくなってしまうのだ。
「まぁ、確かにそれは大変なことだが」
「でしょう。やっぱり心配だから後を追うわ」
サーシャはそう言い部屋を出ようとするが、ラーフはそれを制した。
「あのさ、あいつからの求愛をどうするかレンジュに考えさせる時間をやってもいいじゃないか」
それにサーシャはぴくりと反応した。どういうことだと睨みつけてくる。
「確かに今は聖女の力はなくてはならない。だけどさ、魔王を倒してスミア山で世界を浄化し終えたらお役御免だろう? つまりふつうの女になろうがあいつの勝手だし。今は無理でも将来は誰かと一緒になったりすることを考えながらモチベーションをあげてもいいじゃないかと……いてぇ」
ラーフが最後まで言いかけたところでサーシャがラーフの腹を強くひねった。
「あんたがそれを言うの?」
サーシャはいら立ちの声をあげうずくまるラーフを見下した。
「どういう意味だよ」
「いいわ。レンジュ様の後を追うわ」
サーシャはイラついた声でそういい部屋を飛び出した。その後をギーラが追う。
「何だよ、全く」
部屋に残されたラーフはいらいらして椅子に座った。しばらくしてじっとするのが億劫になってきたので、ラーフも外へ出ることにした。
「マホ、留守番頼むな」
レンジュだけ戻ってきたときの為にマホを置いていった。
一人ぽつんと留守番することになったマホの元にスパルノが部屋に入ってきた。
「おや、みなさんは?」
「ええっと……レンジュ様が心配だからって」
散歩を追いかけたようであると説明し、スパルノは苦笑いした。
「皆さん、過保護ですねぇ」
「落ち着いたか?」
しばらくずかずかと村の中を歩いていたサーシャにギーラはそう声をかけた。
「あいつのバカさ加減にいらいらするわ」
「ふむ……よく考えたらあいつは知らないで言っていたのだろうな」
それにサーシャはぴくっと身を震わせた。
「もうスミアも目前になるというのに一行の中で知らないのはあいつだけだ。レンジュ様がお役目を果たした後どうなるかを」
一行に加わってからかなり長いというのに彼一人知らないのは釈然としない。
「そういう家系に生まれたわけでもないし、知識がないのもしょうがないことだ」
ギーラとサーシャは天人や神の末裔と言われる一族の出身であり、そういった知識は知っていた。マホは自分の出自から神の器が将来どうなるかを知っていた。
「今まで言う機会がなかったし、そろそろいうべきか」
「やめて」
ぶつぶつとつぶやくギーラにサーシャは強く否定した。
「ラーフは知る必要ないの。知ってはならない」
レンジュがどうなるかを。
「何故だ。あいつも仲間なんだから」
「いらないよ。すべてが終わったらラーフには無理やりスパルノの術を受けさせるの」
以前スパルノ一人では失敗に終わったが、ラーフを自分が押さえつければできなくはない。
「そこまでする必要があるのか?」
いくらショックな内容とはいえ、ギーラには理解できなかった。
「必要はあるのよ」
サーシャは力強く言った。
「一体なんだ? この前、ラーフを一行から外そうとしたことも関係あることなのか」
ギーラには理解できなかった。なぜ、そこまでラーフに聖女のことについて触れさせようしないのか。
サーシャは大きくため息をついた。
「いいわ。あなたには教えるわ」
でも、すぐに理解できることではないけどね。
そう付け加えサーシャは自分の知る話をギーラに話した。
◇◇◇
ラーフは一人村の中の店が開かれている場所を回っていた。腹を抑えながら、ため息をつく。
(ああ、いてぇ。あいつ本気でつねるかよ)
あんなのが竜神を祖に持つナージャ一族の総領娘だなんて一族が気の毒である。
そもそも嫁の貰い手がないんじゃないか。
普段では思わないことをぶちぶちと考えてしまっていた。
ふっと前をみてラーフは慌てて物陰に隠れた。
レンジュとファルに遭遇してしまい、反射的に隠れてしまった。
ラーフはじっと物陰から二人をみる。ふつうにうまくやれているようにみえた。
「綺麗」
レンジュは店棚に並べられた装飾品をみてうっとりとしていた。
「レンジュ様ならこの髪飾りが似合うのではないでしょうか」
ファルは赤い花のついた簪を選んでレンジュの髪に飾った。
「そうかな……」
髪飾りは光にあたりきらきらと光っていた。
鏡の前で自分の姿をみてレンジュは思わず笑ってしまった。
普段の旅でこういったものをつける機会はないし、きらきらしたものをつければ悪魔にすぐ見つかってしまう。
そのため旅の間レンジュはあまりこういうものをつけることはしなかった。
「では、おいくらでしょうか」
ファルが店の者に尋ねるとレンジュは慌てて髪飾りを外した。
「い、いいよ」
「大丈夫です。大した額ではないし、私に付き合ってくださったお礼もかねて」
「いらないよ。ちょっといいなぁて思ったくらいだけど、ほとんどつけないし」
レンジュはそういいながら簪を元にあった場所へ戻した。受け取る気はないと言い張るレンジュにファルは残念そうにつぶやいた。
「あなたに似合うと思ったのですが」
ファルはレンジュの手をとり、ほかの店の方へ向かった。
「では、あちらで飲み物を買って川の方へいきましょうか。この村の川は桃の木が整然と植えられ美しい景色なんです」
「う、うん」
レンジュはこくりと頷きファルについていった。
その後、ラーフはレンジュたちがいなくなった髪飾りの店の前までやってきた。きらきらした簪や櫛をみて深くため息をついた。
(そういえばシャロンはこういうの好きだったな)
さっきファルとレンジュが手にしていた赤い花の簪をみつめた。
シャノンにはいつもこういったものをねだられることが多かった。
約束を破ったときとか。
それを思い出しながらラーフはふと他のものが気になった。
蓮の花の彫り物と淡い色で彩られた櫛であった。
木製で金属のものはついておらず特にきらきらしていなかった。
「これはいくらだ?」
店の者に聞くと大した額ではなかったためラーフはそれを思いつきのまま買ってしまった。
買い終えた後にラーフは見失った二人の行方を勘を頼りに追いかけた。




