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28 プロポーズ

 次の村・ページュ村まではかなり歩くことになったが、スパルナがあらかた道に出没する悪魔を一掃してくれたおかげで戦いは最小限に抑えられた。

 それでもレンジュ一行の行方をかぎつけた悪魔が出てきたが、今までに比べると少ない方である。結構歩くが、比較的楽な道であったと思う。


 まさかスミア近くまできてここまで楽できるとは予想できなかった。

 ラーフはスパルナがただのサーシャの部下ではないと感じ取った。

 あのとき自分でぼこぼこにしたのだが、対悪魔戦に相当慣れていると思われる。


 スパルナが報告した通り、ペーシュ村は桃によって囲まれた村であった。

 近づくと桃の甘い香りがただよっていた。

 確かにここまで桃の香りが充満していたら悪魔も近づくのは躊躇うだろう。


 魔王かそのクラスの悪魔が近づかない限りはある程度の平和を確保できている村であった。

 人の手によってここまで瘴気から身を守った村は珍しい。

 スミアに一番近いからこそやらざるを得なかったのかもしれない。


(ここでレンジュが力を使う必要性はなさそうだ)


 ラーフは村の雰囲気をみてほっと安心した。


「もし……」


 突然男に声をかけられ一同は足を止めた。目の前に現れたのは二十前後の若い男であった。

 黒い外套と眼鏡をかけた学者風の男であった。

 全体的におっとりとした雰囲気で静かに瞳は一行を見つめていた。

 正確にはレンジュの方を。


「あなたはもしかして」

「私はレンジュと言います。救世神の聖女です」


 改めて問われ名乗ると気恥ずかしいものがあるのか、レンジュは少し頬を赤くした。


「やはり、この清らかな気……聖女様でしたか」


 男は感激し、レンジュの前に膝をおった。


「お手を」


 そう言われレンジュは首を傾げるまま右手を差し出した。男はそれに触れそっと唇を近づけた。


「聖女様、どうか私の妻になって欲しい」


 突然の申し出にレンジュはきょとんとした。

 妻という単語が何か認識したと同時に顔を真っ赤にさせた。


「え? え?」

「ああ、失礼。性急でしたね」


 まだ名も知らないというのにと男は笑っていった。


「私はファル・ルフト・シュピゲール。このページュ村に古くから住む学者の家の者です」

「あなたが……ここの桃の開発をしている方?」


 それを聞き男は嬉しそうに頷いた。


「はい、桃は神聖な果実です。一本だけでは微々たる効果ですが、このようにあらかじめ村全体を覆う程の桃があればかなりの力を発揮します。悪魔は桃の放つ気が嫌いですから」


 そのため悪魔の被害はそれほど酷くないのである。


「だが、それは下級の悪魔たちだろう。上の強い悪魔だったらこんな村焼き払っているんじゃないか?」


 ラーフはレンジュとファルの間に割り込む形で話を挟んだ。


「ええ、この百年、悪魔の襲撃がまったくなかったわけではありません。その度に私の曽祖父と祖父が魔術で対抗していました」

「魔術?」

「私の家は学者の家系でもありますが、魔術師の家系でもあります」


 男の説明にラーフは不審そうに言った。


「魔術は悪魔の力を借りるものだろう?」


 それにファルはおかしくなり笑ってしまった。馬鹿にされたとラーフはむっとした。


「失礼。確かに魔術は一般的に悪魔の力を借りるものだと思われがちです。ですが、ほかにも神や精霊、自然の力を利用し魔術を操るものもいます」


 自分の家系は自然を利用した魔術を得手としている。

 ここには多くの桃の気があるので、それを使った魔術を開発しつづけていた。


「神聖な属性の魔術ですので、ある程度力のある悪魔は退治することができました」


 百年前に何度かそれを繰り返すとついに悪魔の方が面倒に感じ、この村をスルーするようになったのだ。

 だから、ここはスミアに近い村でありながら悪魔からの害を最小限に抑えられていた。


「私の祖父が悪魔を撃退できたのも村を覆う程の桃の気を利用できたからですが」

「それだけ桃の恩恵があるなら何で他の村に桃の栽培を勧めなかったんだ」


 それにファルは皮肉そうに笑った。


「まだ悪魔がこの世にあらわれて間もない頃、曽祖父たちは隣の村まで行き桃の栽培の大事さを解きました。ですが、だれも曽祖父の言葉に耳を貸さなかったのです」


 当初、このペーシュ村の住人もシュピゲール家の話に半信半疑であった。

 魔王がスミアに住みついてしまっているから、早急に予防線を張る必要があるといわれて信じるだろうか。

 スミアは古くから神聖な山と称されており、悪魔たちが住み着くはずないと考えられてきた。

 むしろ悪魔によって汚されるのは最後だと思ったため人々は特に気にしていなかったという。

 桃の重要性もそこまで認識していなかったのもある。


 仕方なくシュピゲールの当時の当主は息子とともに村のあちこちに桃を植え、育てることにした。

 村の者たちがようやくその重要性に気づいたのは隣の村で疫病が流行り、作物が実らなくなった頃であった。

 その頃には村を囲う形で桃が実をつけ、神聖な気を張り巡らせていた。

 ようやくペーシュ村の者も桃の重要性を認識し、共に栽培をすることになったという。


「皮肉なことにここは魔王の総本山に近いところですが、ある程度安全が確保された土地なのです」


 ファルはにこやかに笑いながら説明した。

 この男の曽祖父の代からの努力でここまで可能になるとは。

 ラーフは内心関心せざるをえなかった。


「それで聖女様、先ほどの話ですが」


 ファルはずいっとレンジュの方に近づき、話をもとに戻した。

 レンジュへの求愛の返事を待っているようであった。


「え、えと……」


 レンジュは顔を赤くしてどうすればいいか困惑していた。今まで異性にこのように求愛されることはなかったためどうしていいか理解できない。

 ちらりとラーフを上目使いで見つめてくる。


「ど、どうしよう」

「どうしようってお前が自分で考えて答えることだろう」


 ラーフの言葉にレンジュはしゅんとうなだれた。


「まぁ、会って間もないですし少し散歩に行きませんか?」


 ファルはレンジュの手をとり提案した。


「ええっと……」

「散歩だけだろ。行ってきたらどうだ」


 どうしていいかわからないレンジュにラーフは後押しした。それにレンジュは少しさびしそうな表情を浮かべた。


「お前も散歩だけだからな」

「ちゃんとお許しがあるまでは何もしませんよ」


 ラーフが釘をさすようにファルに言うとファルはもちろんですと答えた。


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