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25 再び一緒に

「ラーフ」


 レンジュは慌てて崩れた衣で自分の体を隠した。


 信じられなかった。


 もう会えないと思っていた男が自分の目の前にいることが。


「お前、どこの悪魔か知らないがこいつに手を出してわかっているんだろうな」


 どうやら異様な形相の魔王を悪魔を認識したようである。それに魔王はおかしく笑った。


「何がおかしい」

「おかしいさ。これほど愚かしいものはない」


 ラーフのこの衝動的な行動はよく知っていた。自分も同じことをしていたのだろう。

 守るべき少女が目の前で汚されようとしていたのだから。


「だが!」


 魔王の周囲から黒い影が広がりそこから大きな黒い手が現れる。

 それがラーフの肩を掴んだ。その瞬間ラーフはあまりの熱さに悲鳴をあげた。

 手から逃れる為、急いで男から離れる。

 ラーフの右肩はひどい蒸気とともに黒々と変色し、そこから露出した筋肉がみえた。熱さの次にやってくる激痛にラーフは冷や汗をかいた。


「お前、なんだ?」


 今までの悪魔とはくらべものにならない程の力である。

 恐怖したラーフに魔王は嘲笑い見下した。


「ラーフ」


 レンジュはラーフの方へ近づこうとした。それをラーフは制した。


「お前は離れてろ」

「ラーフ、だめ。あなたはもう眷属じゃない。私を守る必要なんてない」

「バカか」


 叫ぶレンジュにラーフは呆れたように言った。


「眷属だからお前を守るんじゃない。俺がそうしたいから守るんだ」


 それを聞きレンジュはしばらくして顔を赤くした。


「ははは……」


 ラーフの言葉に我慢できず魔王は大笑いした。ここまで滑稽で歯がゆい言葉を耳にするとは。

 いつ魔王が攻めて来るかとラーフは身構えた。


「ああ、興がそがれた。帰るか」


 ぽつりとそうつぶやく。

 このままレンジュを攫って好きにしてしまおうと考えたが、まだ焦る必要はない。

 そう自分に言い聞かせ魔王は広がる影の中に沈んでいった。

 まるで奈落に落ちていくかのように。


「おい、逃げるなよ」

「そんなに守りたければ、大事に仕舞い込んで可愛がればいいじゃないか」


 魔王の言い方にラーフはふざけるなと叫んだ。


「お前のような変態と一緒にするな」


 それを聞きさらに魔王はおかしくなって笑ってしまった。



「ラーフ」


 レンジュはラーフの元へ近づき、肩に触れた。

 触っただけで黒い痕から黒い手が現れて、レンジュの手首に絡みついた。

 レンジュはそれをじっと見つめ悲しそうな表情を浮かべた。

 目を閉ざし、身から白い光を出す。黒い痕はレンジュの光により徐々に薄くなり消えていった。


「なんだ……今のやつ」

「魔王だよ」


 レンジュは悲しげに答えた。

 思いもしない場所で現れたことにラーフはギョッとした。


 あれが。魔王。


 もっと悪魔の主人らしく禍々しく化け物じみた外見を想像していた。

 自分と同じような人の姿をしていて、意外に感じた。

 それを口にすると意外なことがレンジュから返ってきた。


「元は人間だよ」


 大事なものを失い、世界に絶望し世界を滅ぼすほどの力を手に入れてしまった。


「世界を……そうだな」


 今の黒い手のようなものを思い出し、ラーフは納得した。あんなものを生み出せるのだ。悪魔なんか簡単に作り出せるだろう。


「何であの魔王はお前にあんなことしたんだ」


 するとレンジュは顔を真っ赤にして唇を両手で塞いだ。


「わ、わからない」


 さっきのを見られてしまった。


 レンジュは酷く震えていた。

 聞いてはならないことだったかとラーフは大きくため息をついた。


「それよりラーフ。何でここに来たの?」


 ナージャの地に向かっていたはずだ。

 サーシャが手配しているナージャの術者によってすでに記憶を操作されているはずだ。

 レンジュのことなどすぐに忘れてしまうと思っていた。

 突然両頬をつねられる。


「らーふ、いひゃいい」


 レンジュは自分の両頬をつねるラーフの手を握った。


「お前は……俺にあんな奴あてがってまで傍に置きたくないのか」


 どうやらすでに術者に出会っていたようである。

 そして、術者が自分に何をしようかも。

 すぐにラーフは気づき、術者を張り倒してレンジュの元へ向かった。


「おかしいと思ったんだよ。あんな顔で俺を追い出そうとするわ。術者をあてがおうとするわ。サーシャに何か言われたのか?」

「ち、違う。サーシャじゃなくて私が」


 それ以上言おうとしてレンジュは口をつぐんだ。


「なんだよ。言えよ。いわねぇとこの手はやめないぞ」


 再度レンジュの頬にあてがっていた手に力が入る。


「わひゃった」


 レンジュが涙目で言うとラーフは手を放した。


「このままじゃよくないと思ったの」


 レンジュは頭の中でラーフにどういうべきかを考えながら口にした。


「私は聖女で、人々を守らなければならない。でも、知らないうちにラーフに甘えるようになって聖女としての覚悟が薄れてくるような気がしたの」


 本当はもっと別の事を言わなければならないと思った。でも、今言えるのはここまでだった。


「お前は……」


 ラーフは呆れてレンジュの髪をくしゃくしゃにした。


「別にそれの何が悪い。お前はまだ子供だろ。大人の俺に甘えて何も悪いことなんてないだろ」

「こ、子供……」


 ラーフから出た言葉にレンジュは内心ショックを覚えた。

 確かにラーフはすでに20代を過ぎた大人で、自分はまだ成人したての十五の娘である。年齢差から子供と思われても不思議はないだろう。


「いっぱい甘えろよ。お前は聖女だから気張りすぎで少女らしさを忘れようとしている。忘れなくていいんだよ」

「でも」

「俺がいいと言っているんだ。少なくとも俺の前ではそうしてろ」


 有無を言わさない言葉にレンジュは切なくなる。

 気づけばそういう風に言い、レンジュに並みの子供らしさを持たせようとしてくれる。


 私は、ラーフが好き。


 レンジュは改めてそう感じた。

 今のラーフが自分のことを子供と思っていてもいい。それでも好きなのだ。


「さて、改めて聞くぞ。お前は俺をそんなに解雇したいのか? 一緒にいたくないのか?」

「違う。一緒にいたい」


 その言葉にラーフはにやっと笑った。


「なら、いいだろう。俺が傍にいても」


 頭の中ではわかっている。

 自分がラーフの傍にいることが後々悲劇を生むことになるというのに。

 けど、レンジュは手放せなかった。ラーフを。

 レンジュはラーフに抱き着いた。ラーフは応えるようにレンジュを抱きしめた。


「ラーフ、あんた」


 サーシャは冷たい声でラーフを見下ろした。

 よく見ればレンジュは目を真っ赤にしている。そして衣類が崩れていた。


「聖女様になんてことしてんのよ!」

「ち、違う。これは……魔王の仕業で」


 ラーフは何とかとりつくろうとしたが、サーシャは水を操りラーフの顔面めがけ攻撃した。


「ラーフ」

「ダメよ。こんな男に近づいたら」


 ラーフに近づこうとしたレンジュにサーシャが止める。

 その瞬間レンジュとサーシャの目があった。


「ごめんなさい。私には彼を手放せない」


 悲しそうにつぶやく少女にサーシャは大きくため息をついた。


「そうね。わかっていたわ。エリウ様も言っていたわ。ある程度のことは大目にみることとしたって」


 ここ数日のレンジュの様子をみてきたサーシャとしてはレンジュの為に彼が傍にいた方がいいと感じた。だが、すべてを許すつもりはなかった。


「けど、彼があなたへの感情が変わらないように気を付けないと。そして、儀式の直後に無理やり彼の記憶を奪うわ」


 レンジュはこくりと頷いた。


「あー、そうだった! サーシャ。お前よくもナージャの術者を俺によこしたな」


 エリウ神殿を出た後まるで待ったかのようにラーフの前に術者が現れた。それはサーシャが手配した者で、記憶を操作する術を使う者であった。ラーフはすぐにその者が何か気づき振り払ってここまで戻ってきたのだ。


「あら、何のこと?」


 サーシャはきょとんと首を傾げた。


「俺の記憶を操作して何のつもりだったんだ」

「ああしないとあなたが私たちの後をついてくるかと思って」

「そこまで俺を邪魔扱いにしていたのか」


 サーシャの邪見な物言いにラーフは頬をひっかき質問した。

 それにサーシャはしばらく考えるように間を開けた。


「そうよ。だってあなたのようなシスコンに聖女様のお世話なんて任せられないわ」

「おま、だれがシスコンだ!」


 二人の様子をみたレンジュは思わず笑ってしまった。

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