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24 聖女に近づく者

 レンジュはエリウ神殿でぼんやりと過ごしていた。

 ラーフがいなくなってから三日が経ち、まだ慣れていない風であった。


「不思議。ラーフとはつい最近であったばかりなのに」


 ずっとラーフと一緒にいたような気がする。

 それが突然いなくなってしまった虚無感がレンジュに襲い掛かっていた。

 レンジュの髪を櫛で梳かしながらサーシャは言った。


「すぐに慣れるわ」


 レンジュはこくりと頷いた。この三日の間、サーシャはレンジュにくだけて接するようになった。

 サーシャにとってレンジュはまるで妹のような感じで、レンジュも姉ができた気分であった。


「明日、旅だとう」

「まだゆっくりしていていいのよ」

「いいの。こうしている間に大地はどんどん枯れ果てていっている」


 一刻も早く世界を救うため、スミアへ行く必要があった。

 そして、そこに居座る魔王を何とかしなければならない。


「わかったわ。今日はどうするの?」

「えと、庭で散歩しようかな」


 サーシャがついていこうとするのを、レンジュは首を横に振っていった。


「しばらく一人にして」


 それにサーシャは大丈夫?と声をかけた。にこりとレンジュは微笑んだ。

 一人庭へ出ていくレンジュを見送りながらサーシャはため息をついた。


「女の子をここまでさせるなんてラーフは本当に罪なやつね」


 振り返るとそこにギーラが立っていた。


「何かしら?」

「そろそろ話を聞かせてほしい。なぜ、ラーフをここで切り離そうとしたのか」

「理由はあるんだろうと納得してあえて聞かなかったんじゃないの?」

「ああ。だが、やはり納得できない」


 ギーラはちらりとレンジュが行った先を見つめた。


「レンジュ様のここまで弱った姿をみるとなおさら」

「あなた、レンジュ様のこと好き?」


 突然言われギーラは顔を真っ赤にした。


「な、そんなわけないだろう!」

「そう? あんなに可愛いからしょうがないと思うけど」

「私はレンジュ様よりずっと年上なんだぞ。まるでロリコンのように言うのはやめてくれ」


 それを聞きサーシャはそういえばと思い出した。

 ギーラの出身であるデーヴァ一族は長寿の家系である。そして、成人した頃から成長が緩やかなものになる。そのため不老長寿の一族とまで言われるのだ。


 ギーラの見た目は二十代半ばの青年であるが、実際はそれに2倍の年齢であった。

 一族内では若者に分類されるがレンジュよりもずっと年上なのである。


「どちらかといえば、父親に似た感情だ」

「そう」


 すぐに冷静を取り戻したギーラは改めて問う。

 レンジュがどうしてギーラを手放さないといけないか。


「とても信じられない話よ。ラーフのこと、エリウ神殿にいる初代聖女の言葉でもはじめは信じられなかった」

「どういうことだ」


 サーシャは大きくため息をついた。

 ここではぐらかすという手もあるが、これから共にレンジュを守る仲間であるのでここは隠さずしっかり話すべきだと判断した。


「ラーフは」


 サーシャの口がゆっくりつぐまれようとしていた。その時――


 サーシャ!!


 突然、二人の前に少女が現れた。

 その少女はレンジュと同じ澄んだ空色の瞳をしていた。

 この神殿の主にして初代聖女のエリウの霊魂であった。

 その表情はひどく焦燥したものであった。


「どうしたの?」

「今すぐレンジュの元へ!」


 一体どうしたというのだ。レンジュは神殿の敷地内で散歩していたはずだ。


「レンジュは神殿の外を出たの」


 その言葉にサーシャとギーラは目を丸くした。


「何ですって! いくら聖女でも神殿の外は悪魔が出没して危険なのに」


 エリウが気づく前にレンジュは塀を超えて神殿の外へ出てしまった。

 エリウは神殿の外に出てしまったレンジュを呼び戻すことはできない。

 彼女の霊魂は残されているが、存在するのが許されるのはこの神殿の敷地内だけなのだ。彼女の力は敷地内だけ作用する。

 神殿の外ではエリウは存在することができなくなる。


「悪魔だけじゃない」


 エリウは声を震わせた。はじめてみるエリウの反応にサーシャは不可解に感じた。


「すぐ近くにあいつがいる」

「あいつって?」


 サーシャの疑問にエリウは深刻な表情で言った。


「魔王がこの近くにいる」


  ◇◇◇


「はぁ。私ってすごく依存性の強い人間なんだなぁ」


 レンジュはため息をつきながらうずくまった。

 そしてちらりと向こうにみえる神殿の建物をみた。


「勝手に出ると怒られる、よね」


 わかってはいたが、レンジュは無我夢中で神殿の外へ出てしまった。

 神殿の中ではどうも落着けない。いつも見張られている気分で。

 歴代聖女を正しい道へ導く初代聖女のエリウ。彼女の言っていることは正しい。

 世界を救うにはラーフとここで別れるのが一番よいのだ。


「うぅ……」


 レンジュは頬からぽろぽろと涙を流した。

 ラーフの温かい手が大好きだった。いつもぶっきらぼうなラーフはいつも心配してくれてる。

 時折みせる優しい目がひどく恋しい。


「ラーフ」


 レンジュはつい彼の名を呼んだ。もうここにはいないというのに。

 ラーフはサーシャが故郷から呼び寄せた術者によって記憶が改竄される。

 自分の元には戻ってこない。


「何そんなに悲しんでいる?」


 後ろからかかる声にレンジュの胸は締め付けられる気がした。

 まさかそんなはずはないと思いながらも期待してしまう。

 振り返るとそこにいたのは黒衣をまとう男であった。

 ひどく達観した表情と白い髪と赤い目ではじめは誰かよくわからなかった。

 だが、よくみると自分がよく知る男であった。

 男が何者かレンジュはすぐに気が付き、後ずさった。

 その腕をつかみ男はレンジュを傍に引き寄せた。


「やめて」


 レンジュは逃げようとするが、男はレンジュを強く抱きしめて離そうとしなかった。


「何故? 俺に会いたかったのだろう?」

「違う……」


 男の声にレンジュは頭をふるふると横に振り否定した。

 それを男は愛しげに見つめた。


「俺は会いたかった。レンジュ」


 彼の発する声はレンジュにとってとても甘く切ないものであった。


「会いたくて会いたくて仕方なかった」


 男はレンジュをゆっくりと横たわらせその上を覆いかぶさった。

 レンジュはぎゅっと目を閉ざし、男をみないよう必死にもがいた。

 男はその耳元にそっと囁く。


「俺は救われた世界ではなくお前を選ぶ……愛してる」

「っ……」


 その声を聴きレンジュはぞくっとした。

 男はレンジュの顎を捉え、上の方へ向かせる。

 レンジュは必死に目を閉ざしていた。


 何をしているの、レンジュ……この男は魔王よ。


 自分の敵であり、世界を滅ぼそうとする悪魔の頭目なのだ。

 倒さなければならない。

 そう言い聞かせ、救世神の力を使おうとした。レンジュの力は汚された大地を浄化するときに発動する。


 悪魔を倒すことに使用することはなかった。

 だが、救世神の力をすべて使えば、魔王をも浄化することができる。

 魔王の邪悪な気をすべて浄化すれば、魔王は存在できなくなる。

 つまり倒すことができるのだ。


 代わりにレンジュはハスラ山に行く前で最期を迎えてしまうのだが。

 ここで魔王を浄化すればひとつの問題が解決する。

 世界の荒廃を加速する者が消えるのだ。


 次代の救世神の聖女が代わりにハスラ山で成し遂げてくれる。

 レンジュは迷う必要などないと自身に言い聞かせていた。

 だが、うまく力を使えなかった。


 相手が魔王だとわかっているのに、うまく発動できない。

 レンジュの躊躇を感じとり男はにやっと笑った。

 魔王はレンジュの顔にそっと近づいた。そして、レンジュの唇を自身の唇で塞いだ。

 その瞬間レンジュは目を大きく見開いた。


「んぅっ」


 じたばたと手足をばたつかせるが、魔王は微塵も動かなかった。

 ようやく放したときレンジュの顔はぼろぼろであった。目からとめどなく涙が溢れる。


 その姿をみて魔王はレンジュの衣をほどきゆるめていった。あらわになるのはレンジュが聖女の証であるという蓮の印であった。それをみて魔王は忌々しく感じた。

 魔王にとってそれは救世神がレンジュは自分の所有物だと言っているように感じた。


「救世神よ。みておけ。お前が寵愛する少女は今から自分のものになるのだ」


 魔王はレンジュにさらに触れようとすると側頭に衝撃が走った。

 身を崩した拍子にさらに強く魔王をレンジュから引きはがす力が襲ってくる。

 地面に転がされ、魔王の顔のすぐ横に冷たい刃が下りてきた。

 上の方をみると鬼の形相で睨みつけるラーフがそこにあった。


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