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21 スミアに棲む魔王

 カリアは命からがらスミアの方へ向かった。

 スミアは天にも届く程の国一の高山を中心に並ぶ山岳地帯であった。

 ラーフによって切り落とされた右腕を道中布で止血し、ある人物に助けを乞うことにした。


「あの男、戻ったら八つ裂きにしてやる。ティーモもただではすまない」


 城の主として人食い鬼として畏れられていた自分をこんな惨めな立場に落とした者たちを呪いながら山を登った。

 そしてスミアで最も高い山であるハスラ山を上った。


 そこには荘厳な城が建っていた。

 元々は救世神の聖女がここで荒れ果てた世界を再生させたという伝説の残る山であった。


 しかし、その山に建てられた城は黒く禍々しい気で満ちていた。

 とても世界を救う神の力を宿す聖女が世界を救う場とは思えない。


 百年前、世界に魔王が現れたとき魔王は好んでこの山の城に棲みついたのだ。

 神の力を解き放つ山は次第に魔王の力により暗黒に染め上げられ人が来るような場所ではなくなってしまった。


 おそらくは聖女の行動を邪魔するためにあえてここを本拠地にしているのだろう。

 魔王はここで多くの悪魔を作り上げ、力を分け与えてきていた。

 城も門には数匹の黒い犬の化け物が待ち構えていた。

 鋭い牙でやってくる者を食い殺さん勢いである。


「私よ。オーサ城のカリアよ」


 そういうと犬は道を開け、カリアは堂々と中へ入っていった。

 出迎える悪魔たちによって奥へ通される。


「これはカリア様。相変わらずお美しい……おや、その腕はどうしたのでしょうか」

「お久しぶり、シュール。とりあえずあなたの主人に会わせてくれないかしら」


 そういうと使用人のシュールはカリアを城の奥へと案内した。

 奥の部屋はこの城の謁見の間であった。

 部屋の奥には階があり、その上に王座があった。

 そこに座る男はカリアを見下ろし、久しぶりだなと声をかけた。

 カリアは階の前まで進み、膝を床につき頭を垂れた。


 王座に座る男は白く長い髪をひとまとめにした黒衣の男であった。

 白い髪であるが、若い人間の男の姿をであった。

 なかなかの偉丈夫ではじめてであったときカリアはつい目を奪われてしまう程であった。

 男の血のように紅い瞳がじっとカリアを見つめた。


「何があった」


 久々に聞く魔王の声にカリアは不思議とつい最近聞いていたような気がした。

 そんなはずはないと首を横にふり自分の身に降りかかった不幸を語った。


「魔王よ。どうかお助けください。聖女の一行が私の妹を誑かし、私を城から追い出したのです。聖女の眷属である無礼極まりない男にはこの通り右腕を切られてしまいました」

「ほう、聖女の一行が」


 魔王はじっとカリアの右腕を見つめた。


「魔王よ。どうか私に力をお与えください。裏切り者の妹と憎き聖女一行を倒す力を」


 魔王から返事がしばらくなかった。

 長い間の沈黙が流れ、カリアはごくりとのどを震わせた。


 魔王は王座から立ち上がり階を降りた。カリアの前までやってきてカリアに尋ねた。


「俺の力を与えてお前は何を俺にしてくれる?」

「憎き聖女の首を魔王に献上します」


 魔王は頷いて、カリアに左手を出すように命じた。

 カリアはその通り左手を差し出すとその左手は突然なくなってしまった。


 ごとり。


 左腕が落ちる音であった。

 みれば魔王は腰に履いていた剣を抜いていた。そこにカリアの血が染みついていた。

 カリアは悲鳴をあげた。


「な、なぜ……」


 魔王の突然の行動にカリアは理解できなかった。

 両手を失ったカリアはどくどくと流れる血を止めることもできなかった。

 魔王から後ずさり、魔王をじっと見つめる。

 魔王は笑みを浮かべカリアをじっと見つめた。


「お前、聖女を食べようとしただろう。俺は『聖女は殺すな、生きてここまで連れてこい』と悪魔と俺につき従う一族に言っていたはずだ」


 確かにそうだった。

 カリアははじめて魔王に従ったとき、そう言い含められていたのを思い出した。


 しかし、不可解なことがあった。

 なぜ魔王はカリアが聖女を食べようとしていたのを知っているのか。


 オーサ城の人食い鬼があらかじめ言ったのだろうか。

 いや、自分より先にこの城へやってきた者はいないはずだ。

 カリアはじっと魔王を見つめた。


 笑みを浮かべ剣を持ち上げていた。

 その姿をみてカリアは理解したように眼を丸くした。

 何かを言おうとしたが、その前に剣が振り下ろされカリアの肉体は真っ二つになった。


「魔王、カリアは人食い鬼の一部族の長でかなりの強さを持っています。ここで殺すのは惜しかったと思いますが」


 剣をもとに戻した魔王は傍らにいた悪魔の使用人をじっと冷たく見つめた。先ほどカリアをここまで案内したシュールである。


「こいつは聖女を食おうとした。それだけで十分だろう」


 魔王はシュールに命じてカリアの死骸を回収させた。


「まぁ、肉体は有効利用するさ。そこそこの力を持っているし、新しい悪魔の肉体の材料にでもしておけ」


 その言葉にシュールは御意と応じ他の悪魔を呼び寄せ、カリアの肉体を回収し部屋の外へ持ち出した。

 魔王は階にあがろうとせず、謁見の間からすぐ出られるバルコニーへと出た。

 どす黒い瘴気に包まれたスミアの空の向こうにはまだ汚されていない青い空がみえていた。


 その下に聖女はいるのだ。


 魔王はそう考えると何ともいえない気分となった。


「早く来い。レンジュ」


 聖女の歩は想像以上に遅い。歩く先々の人々の願いを聞き届け救おうとするからだ。

 あ、そうかと魔王は思いついたように呟いた。


「俺が会いに行けばいいのか」


 遅いのであれば会いに行ってやればいい。


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