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20 宴

 カリアはいら立ち椅子の脇におかれていた2つの鎌を取り出し構えた。


「この裏切り者め! 侵入者ともども成敗してくれる!!」


 ティーモの考えはカリアには理解できず、人も、聖女も食べて自分の栄養にするものだという考えは揺らがなかった。


「ギーラ」


 剣を構えラーフはギーラに声をかけた。ギーラはわかっているといわんばかりに横へずれた。

 かきんと金属のぶつかる音がする。

 カリアの鎌とラーフの剣が交差したのだ。カリアは恐ろしい形相で鎌を操りラーフの首を狙う。ラーフは巧みに剣を操り、それを受け止めた。


「なに? 眷属にしては弱いわね。それとも鬼の私に怯えているの」


 カリアは後ずさるラーフの反応をみて高笑いした。滑稽と感じたのだろう。


「お前は好みではないから、使用人たちのお膳にしてやろう」

「ああ、そうかい」


 ラーフは興味なさげに言った。後ろに下がるラーフをみてティーモは慌てた。このままではラーフは姉の鎌の餌食になってしまう。


「姉さま、もうやめて!」

「黙れ、この裏切り者!」


 カリアは妹の言葉をはねつけ、ラーフへの攻めを緩めようとしなかった。

 壁際にさしせまりラーフの逃げ場がなくなったとき、カリアは終わりだと笑った。

 ラーフは前に出てカリアの右腕に剣を振った。


 その瞬間あたりが真っ赤に染まった。

 腕から血しぶきが出てカリアは何が起きたか理解できなかった。

 右腕をみると腕はなく床の方に鎌を構えた右腕が落ちていた。


「な、……」


 予想していなかった。

 人に強靭な肉体を持つ鬼の腕を剣で切り落とすなど。


「お前は一体」


 カリアは血が流れる腕を押さえながら後ずさった。

 ラーフはにやっと笑った。


「なんだ。俺を使用人の膳にするんだろ?」


 揶揄するような言葉にカリアはかっとなった。左手で鎌を振るが、ラーフはそれを剣で受け止め、足でカリアの腹を蹴った。


「がぁっ」


 腹に走る衝撃でカリアは胃のものを吐き出しながら床に転げ落ちた。

 体制を直そうとしたが、その前にラーフの剣がカリアののど元を狙った。


「さぁ、終わりだ」


 人食い鬼退治の終了だとラーフは内心思った。

 そしてそのままカリアを殺そうとするが、横から押さえつけてくるものがあった。

 みればティーモであった。


「お前」

「ごめんなさい。この人は私の姉なのです。命は助けてください」


 ティーモは必至に姉の命乞いをした。それにカリアはかぁっとなった。

 人に負けただけでなく裏切り者の妹に命乞いされるなど恥辱としか感じなかった。

 カリアは右腕を抑えながら部屋を飛び出し逃げ出した。


「待て!」


 ラーフは追おうとするがティーモはそれを押さえつけて姉の逃亡を許してしまった。

 主人のいなくなってしまった当主の間にぽつんと残されたラーフはじっとティーモを睨みつけた。ティーモは恐れずにラーフに言った。


「私の首を刎ねてください。それでこの件を許してほしい」


 でもとティーモは条件を言った。


「私の子供は許してください。あの子は人間とのハーフで私たちのように人の血肉を食べなくても人と同じ食事で生きていけます」


 そのように育てたのでティーモの子は放っておいても人に危害を加えることはないと述べた。


「姉の代わり私を討ってください。そして、それをホシノイ村の人にみせて」


 それによりホシノイ村は人食い鬼の脅威に怯える必要がない。

 ティーモはそう言い、自身を殺してほしいとラーフに訴えた。

 人籠はギーラによって壊されレンジュは自由の身となっていた。レンジュは間に入りティーモが討たれるのをよしとしなかった。


「君が命を落とすことはないよ」


 レンジュはティーモにそういった。


「でも……」

「君には子供がいる。君がいなくなったら子供は悲しむよ」


 その言葉にティーモははっとした。そしてみるみるうちに涙を浮かべた。


「鬼の私を……人の聖女が気にかけてくださるなんて」


 でも、よいのですとティーモは言った。


「私は今耐えがたい食欲を理性で抑えています。いつまでもつかわかりません。この理性が外れたとき姉以上の人を食らう化け物となるかもしれません」


 ならばここで討ってもらえたらとティーモは願った。

 それにレンジュはぎゅっとティーモの手を握った。レンジュはじっとティーモを見つめた。

 瞬間レンジュの体から白い光が溢れてきた。それにティーモはあっと驚きそのまま光に包まれていった。


 ティーモは光の中で安堵した。

 きっとレンジュは自分が苦しまないように退治してくれているのだと。

 だが、光がなくなってもティーモは自身が死んでいないのに気が付いた。


「え……」


 どういうことだとティーモは首を傾げた。聖女へ質問する前に、ティーモへ呼びかけるものがいた。


「お母様!」


 幼い子供が両手いっぱいに果物や木の実類を運び部屋にやってきた。


「グラナート」


 そう呼ばれた少年はにこっと笑った。そして両手にもっていたものをティーモに示した。


「みて、これ全部食べ物なんだって! マホが教えてくれた」


 グラナートが思いもしない名前がでてきて扉の方をみるとマホがそこにいた。

 グラナートに果物を差し出され、どうやらこれは全部ティーモの為にもってきたのだろう。


「私に?」

「うん、お母様おなかぺこぺこでしょう。でも、お母様は人を食べたくないって言っていたから」


 だから、美味しい木の実や果物をたくさん集めてきたのだという。

 しかし、人食い鬼のティーモには果物や木の実程度では空腹は満たすことができない。

 そういうとグラナートはきっと悲しむだろう。

 ティーモは一口食べて満腹のふりをしてしまおうと考えた。


 柘榴の実を一口食べる。


 するとティーモはあれと首を傾げた。

 お腹は満たされた気がした。

 今までつらかった空腹感が一気になくなった。


 これはどういうことだろうかとティーモはレンジュをみつめる。

 レンジュは嬉しそうに笑った。


「救世神に願い、あなたたち人食い鬼が人以外の……柘榴を食べることで栄養を満たすようにしてもらったの」


 そんなことが救世の力では可能なのかとラーフは内心関心した。


 これでティーモはじめ人食い鬼は人を食べずにすむ。

 ふと横へ目をやるとマホがきょろきょろあたりをみていた。


 どうやらすべてが終わったこととレンジュが無事であることにほっとした。

 マホはグラナートに遭遇し、彼が城でかなり大事な存在であるのに気が付いた。そのまま人質にとってしまった方が良かったと考えていた。


 しかし、あまりに必至に果物や木の実類を聞いてくるのでその中で自分がよく食べていたものを選んでグラナートに教えてやり時間をくってしまったのだ。


「ごめん」


 レンジュが危ないときにのんきなことで時間をつぶしてしまいマホはばつの悪そうな顔をした。


「まぁ、無事でよかったんじゃないか」


 ラーフはぽんぽんとマホの頭を軽くたたいた。それにマホは頭をなでじっとラーフを見つめた。


  ◇◇◇


 ホシノイ村は盛大な宴が開かれた。今までずっと苦しめられてきた疫病と人食い鬼の害が一気に片付いたのだから。

 あれ以降、ティーモがオーサ城の主となり他の人食い鬼たちを統括することになった。

 人の代わりに柘榴を摂取することで生き続けることができるので、人食い鬼の人を襲う必要性がなくなった。


 しかし、人の血肉を美味とする鬼たちは残っている。

 ティーモは人との共存の為に人の血肉に近い味の柘榴の実を開発することにした。


 レンジュ一行を救世主と村人たちはあがめ盛大にもてなした。

 レンジュたちの前にご馳走がずらりと並ぶ。

 優美な美女の舞を眺めながらふとラーフはレンジュが部屋からいないのに気が付いた。


 ラーフは女性のお酌を適当にうけた後、部屋を後にする。

 部屋の外にレンジュがいた。

 そして小さな子と先日であった遊女のキーリがいた。


 長の敷地に入るのはできなかったキーリが丁度外へ出たレンジュを呼び止めお礼を言っているようであった。

 キーリは何度も頭を下げその場を去って行った。

 嬉しそうに母子手をつないでその場を去り、レンジュは切なげにそれを見つめた。

 ラーフの存在に気が付いていたレンジュはくるりと後ろを回った。


「ありがとう、助けてくれて」

「まぁ、それが俺の役目だからな」

「あと、私の我がままを聞いてくれてありがとう」


 オーサ城に一人入るときのことだろう。


「結局危ない目にあっただけだったな」

「うん、ごめん」


 レンジュはラーフの方へ近づこうとしたが、足を崩しその場に崩れた。

 地面に顔がぶつかる前にラーフがレンジュを受けとめた。


「あれ」


「二度も力を使ったんだ。休んでおけ」


 レンジュの体に触れるとレンジュの肌は真っ白で血の気がなかった。

 かなりの疲労状態であるのを感じ、ラーフはレンジュに休息をまずとるように言った。


「え、と」

「あいつらには適当に言っておく。お前は寝ろ」

「でも」

「俺はお前の我がままを聞いてやったんだ。今は俺の言うことを聞け」


 有無を言わさない声にレンジュは苦笑いした。

 そしてラーフの腕の中でレンジュは意識を手放した。

 彼女の額に触れると熱かった。まだ力を使った反動はまだ続いていたのだろう。


 きつかったはずだ。


 なのにこいつは母子のために鬼の城へ乗り込んだ。


「何故、お前は他を優先してしまうんだ」


 髪に触れると柔らかい感触で心地いい。

 ラーフは腕の中の少女の顔をじっと見つめた。

 彼の腕の中で眠るその姿は神の力を得て奇跡を起こす聖女とは程遠くごく普通の少女のものであった。

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