13 人食い鬼
人食い鬼と呼ばれる一族として娘は生まれた。
物心つく頃から人の血肉を食べ栄養をつけることに何の疑問も抱かなかった。娘は特に幼い子供の血肉が好物であった。
しかし、なかなか幼子は手に入らない。人の親が人食い鬼に食われまいと必死に守っていた。
だから、一族は近くの村に一人の幼子を生贄に差し出せば村人は襲わないと言った。
すると村の者は定期的に幼子を一族に差し出したのだ。
時には村の外で誘拐までして、村人は幼子を差し出す。
今日がちょうどその日であった。
娘は久々に、手に入る幼い子供の血肉に心躍らせながら森の中を散歩していた。
そして、娘は森の中で男に出会った。
優しい男で娘は恋していることに気付かず、毎日通い詰めていた。
気づけば男とは相思相愛となり、子供を作る仲となっていた。
しかし、男はすぐに死んでしまった。
村に蔓延していた瘴気に中てられ病で倒れたという。
村の外れの墓場に夜忍びこんで娘は男の死を嘆いた。しばらくして、娘は男の子供を産んだ。
元気な男の子で娘は大層喜んだ。
彼は成長する毎にいろんなことを覚え、その度に娘は喜んでいた。
そしてふと考えた。
男を失って胸が張り割けない程悲しんだのだ。
この子を失ったら自分はどうなってしまうのだろう。
同時に考えた。
城に捕えている食料となった人間にも家族がいるのではないか。
彼らが死んだと知り、家族はどれだけ悲しむだろうか。
そう考えると娘は食事を手につけられなくなっていた。
娘は子を育てながら、長く空腹の中過ごしていた。
◇◇◇
魔王の拠点があるといわれるスミアに近づくごと悪魔との遭遇数が増えている気がした。
しかも、強さもそこそこなのが増えていた。
ラーフとギーラはレンジュを中央にした形で守りを固めていた。
悪魔たちの狙いは清らかな魂を持つ聖女であるレンジュであった。
彼女がいては自分たちの棲み処が壊されてしまうからだ。
襲いかかってくる猪のような形をした悪魔が鋭い牙をぎらつかせレンジュの方へ突進してきた。
それをラーフが剣で牙を受けとめ、それ以上近づかせないように留まらせる。
「さすが馬鹿力」
ギーラは皮肉を言いながら、目の前の鳥形の悪魔を槍で倒していく。
「聞こえているって」
ラーフは苛立ちを覚えながらも、悪魔を押さえつけそれ以上進ませないようにした。
しかし、ここで剣の力を弱まらせば悪魔はまたレンジュの方へ走りだすだろう。
どうしたものかと悩んでいると横から勢いのある炎が悪魔を包み込んだ。
あまりの熱さに悪魔は泣き叫びその場に倒れ込んでしまう。
焼き焦げた悪魔はそのまま灰と化し、消失してしまった。
ラーフは横をみると十一歳の少年がじっとこちらをみていた。
少年の後ろには同様の灰と化している悪魔たちの焼死体が積み重なっていた。
「さすが火の神の器候補だ」
悪魔を昇華させる程の強い炎を駆使することができる少年の強さにラーフは感心した。
同時に卑怯な強さだとも思った。
とはいえ、レンジュを助けてくれたのは変わりない。
「ありがとうな。マホ」
そういうとマホは何も言わずレンジュの方へ走り寄った。
レンジュの胸元に頭を埋め、ぎゅっとレンジュを抱きしめている。
「ふふ、お疲れ様」
レンジュはマホの頭を撫でた。なかなかレンジュ以外に心を開こうとしない少年にラーフは呆れたが、レンジュ曰く彼は人づきあいに慣れておらず照れているのだという。
「ラーフも、ギーラもありがとう」
自分を守ってくれた二人にレンジュは屈託のない笑顔をみせた。
「いえ、当然のことです」
ギーラは全部の鳥形の悪魔は倒したようで、涼しい顔でレンジュに腰を折った。
「はぁ。しかし、このままだとスミアに行くのは大変そうだな」
スミアに入ればもっと強い悪魔が出没する。
レンジュを守りながら魔王の城を目指すのはなかなか大変そうである。
マホの火の力でだいぶ楽になっているとは思うが、それはそれで何となく面白くないことだとラーフは感じていた。
「もうすぐホシノイ村だよ」
レンジュはそう言いマホの手を握りながら村の方へ指差した。
やれやれと思うながらラーフはその後を追う。
同時にギーラがホシノイ村の説明をした。
「ずいぶん長いこと疫病が蔓延しており、瘴気もひどいと言われている」
それを聞きラーフは複雑そうな表情をした。
つまりはレンジュが力をまんべんなく使う場所だということだ。
旅をして何度かレンジュの浄化の力をみてきた。
人々の棲む村や町に蔓延する瘴気、疫病、枯れた大地、汚れた水をレンジュは力を使い浄化していった。
これに人々は感謝し救世神への信仰を強くしていった。
ホシノイ村に辿りつくと早速村の者たちは救世神の聖女に縋った。
レンジュはそれに頷き、一番瘴気の強い場所を捜した。
瘴気の強い場所はだいたい水場が多かった。
一番人にとって生活を行う上で大事なものだからだ。
水がなければ人は生きていけない。そこを悪魔は狙って汚していくのだ。
そして、大地を腐敗させ作物を実らなくさせていく。
人々は病気に苦しみながら食べるものも、飲むものも限られ全滅を待つしかなかった。
そこへ現れた浄化の力を持つ救世神の聖女は救いとしか思えないことだろう。
ホシノイ村の人々はレンジュをみては膝を折り頭を垂れ神へ祈りをささげた。
中には乳飲み子を抱えているやせ細った女性もいる。
世界のあちこちでよくみる光景にラーフは複雑に感じた。
井戸の方へ近づきレンジュはここが瘴気のたまり場だと考えた。
レンジュはぎゅっと両手を合わせ祈りを捧げた。すると彼女の身体から白い光が現れ、井戸周辺を包み込んでいった。
そして、光は小さな粒となり飛散し、村中のいたる場所に光の雨のように降り注いで行った。
今まで元気のなかったものたちの顔色が次第によくなったりしていくのをみえた。
井戸の中の水も村の大地も浄化されていっているだろう。
目に見える救いは村の者たちはおおいに喜び神に感謝した。
「救世神よ。私たちに聖女を送ってくださり感謝します」
その言葉にラーフはますます複雑に思った。
祈りを終えたレンジュの顔色をみると青白くなっているのがみえる。
急いでラーフは彼女に近づき身体を支えた。
「大丈夫、ありがとう」
そういって触れた彼女の身体は異様に熱かった。
これが彼女の力を使った後の代償である。村全体を一気に浄化させるとその分強い病気として現れ彼女の身体を蝕んでいった。
「ラーフ、レンジュ様をこちらへ。すでに長にいって休む場所を儲けさせた」
ギーラがそういいレンジュを抱えたラーフを案内した。上等な宿屋でラーフはその奥の一番高そうな部屋へレンジュを運び込んだ。
しばらくレンジュの部屋にはレンジュの供以外入るのは禁じることとなる。
周りにはレンジュが神へ感謝の祈りを捧げる為だと言ってあるが、実際は病に苦しむ姿を見られるのがレンジュは嫌だったのだ。
レンジュの気持ちを尊重するためにギーラは気の事情を知る者以外は部屋に入れさせない。
寝台に横たわらせるとレンジュは熱に浮かされ、苦しげに息を吐き意識を手放していた。
人を救う為に救世神の力を使うが、その分レンジュは身体を蝕まれなければならなかった。
そのことにラーフは疑問を抱きながらも、彼女が選んだ道であり今さら彼女は人を救う為に力を使うのに何の躊躇いもみせなかった。
むしろ喜んですらいる。
それをみてラーフは胸の奥が締め付けられうような感覚を覚えていた。
マホが宿屋から綺麗な布と水を手に入れ、部屋へ入ってきた。
それでレンジュの汗ばんだ肌を拭ってやる。
レンジュに声をかけ水を適宜飲ませていた。




