表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/51

12 新しい仲間

「キリク神の器よ。よく来てくれた」


 カイは優しい声でレンジュを迎え入れた。

 優しい老人のような雰囲気の声であった。見た目はとても若いのに。


「あの、神の器というのは」

「そのままの意味だよ。神が自身の力を人の世に具現化するため選んだよりしろ。私と君のことさ」


 それを言われレンジュは驚いた。

 まさか自分以外に神の力を具現できる者がいるとは知らなかった。


「そして、そこにいるマホはいずれ私の跡を継ぎ、マコラ神の器となる」


 レンジュははっと隣にいる少年をみた。

 どこをみても普通の少年であるが、彼も自分と同じ力を持ちえるのに驚いてしまった。


「え、跡を継ぐというのは」

「神の器は短命なんだ。器に選ばれたといっても身体は人だし、神の強い力にようやく耐えられても長くは続かない。私も近いうちに命尽きるだろう。山頂に不老不死の薬があるが、効果を発揮する器は今まで出なかった。服用した器はすぐに絶命した」

「そんな」


 悲しげな表情のレンジュにカイは笑った。


「なに、覚悟はできている。8つの頃生贄に選ばれ、親に捨てられ、先代の器に拾われ育てられ自分の宿命というものをようく考え、今は受け入れている」

「生贄……」

「村で聞いただろう。十年に一度、くじで選ばれた子供が贄にささげられると」


 マホを見つめてカイは今何年目だったか思い出すように言った。


「ああ、マホが贄になってから8年前。つまり、あと二年で世代交代しなければならない」


 それは自分の寿命であることをカイは知っていてあえて口にした。それにレンジュは悲しげに二人を見つめた。


「人の心配をしている場合ではないだろう」

「え」


 きょとんとしているレンジュにカイは軽くため息をついた。


「お前も俺たちと同じ神の器だ」


 そう言いながらカイは手招きした。おそるおそる近づいたレンジュに触れるカイの手はひどく冷たいものであった。


「ふむ、さすがキリク神が選んだだけはある。強い精神力を有している。普通の者であればキリク神の力を使う度に精神を消耗し廃人となっていただろう」


 関心しながらカイはレンジュの中身をそう評価した。しかし、すぐに険しい表情となる。


「だが、肉体はぼろぼろだな。力についていけていない」


 それを言われレンジュは否定できなかった。

 浄化の力を使うのは多くの瘴気を身体の中に溜めこみ病へ変換することで消化していっているのだ。

 レンジュが力を使えば使う度レンジュは病に侵されているということになる。

 これでも栄養がついて以前よりは回復が早くなった方だが、村ひとつの規模であれば時間がかかる。その間に体力が消耗されていっていた。


「それでも、お前は力を使い続けるのだな」


 レンジュはこくりと頷いた。

「その力を一切使わず並みの娘の幸せも得ることができたであろう。その年頃だ。好いた者はいないのか」

「え……」


 突然思いもしない質問にレンジュはかぁっと顔を紅くする。

 そのうぶな反応にカイはおかしげに笑った。


「い、いないよ。そんな」

「素直な子だ。なぁに、いても別に構わない。キリク神もここまで浄化の力耐えきったお前が一人の娘の幸せを追い求めても非難しないだろう」

「いいえ、私は務めを果たします」


 瘴気にあてられ枯れ果てた大地を浄化し、恵みを取り戻させる。そして、世界に病魔と腐敗を与える悪魔を放つ魔王を倒して見せる。


「なら、何故あの男を傍に置く」


 あの男というのが誰かレンジュはすぐに察した。この神の器にはよく見えていたようだ。

 カイの指摘にレンジュは悲しげに俯いた。


「お前はわかっているのだろう。これがよくないことを招くと」

「わ、私は」

「魔王は倒す。だが、好いた男は傍にいてほしい。救世の聖女も女の情には勝てないか」


 レンジュの手を突然引っ張る者が出た。先ほどまで黙って聞いていたマホであった。マホは面白くなさげにじっとカイを見つめていた。

 カイは苦笑いしてレンジュにすまなかったという。


「意地悪をしすぎたな」


 そして、子供に言い聞かせる優しい声でマホにいった。


「そう拗ねるな」


 そういうとマホはぷいっと余所を向けた。そしてマホはぎゅっとレンジュの手を握った。傍からみるとまるで姉弟のようである。


「どうやらこいつはお前が気に入ったらしいな」


 カイは愉快そうに笑った。そして提案する。


「キリク神の器よ。この子も魔王退治に連れて行ってくれないか。火の神の器候補なのだ。悪魔と戦う為の能力はずば抜けている」

「え、でも……」

「この子はあと二年で、神の器となる。そうすれば十年、この山から出られなくなってしまう」


 カイは愛しげにマホの頭を撫でた。


「この子はとても賢い子だ。なのにここで世界の広さを知らずに過ごすのは勿体ない。広い世界を一時だけでも見せてやりたい」

「でも、二年で終わる旅とは限りません」

「世代交代の時が来ればこれでこの子をここへ呼び戻す」


 そう言いカイはマホの首に装飾品をかけた。美しい翡翠の勾玉であった。


「これには強力な呪をかけている。二年後私の寿命がつきたとき、一瞬でこの子がこの山に飛ばされ戻ってくる」


 転送装置のようなものだとカイは説明した。


「そんなすごいものがここにはあるんだ」


 神の力を込めているのである程度のことは可能である。


「1回だけしか使えんがな……」

「ですが、マホはどう思っているか」


 レンジュはじっとマホを見つめた。

 別に嫌というわけでもないし、火の神の力を少し使える少年が傍にいるというのは心強いことであった。

 カイはマホの顔を覗きこんで言った。


「マホよ。この娘についていき広い世界をみるか、ここに残り狭い世界しか知らないまま過ごすか。自分で選んでみろ」


 マホはじっとカイを見つめ、レンジュの手を強く握った。


「行ってみたい」


 マホがそう小さく呟き、カイは満足げに笑った。


「この子をよろしく頼む」


 そう言いカイは頭を下げた。


  ◇◇◇


 マホに案内されながらレンジュは山の中を進んで行った。

 すると二人の男の喧騒が聞こえてきた。


「全く、お前が傍にいながらレンジュ様が攫われるのをただみていたなんて何と情けない」


 ギーラは呆れた表情でラーフを睨みつけた。


「しょうがないだろう。あの猿、すばしっこかったんだから」

「ああ、きっと今頃レンジュ様は野蛮な野猿の群れの中怯えて過ごしているだろう」


 それを思うとギーラは悲しく泣いた。その想像にラーフは首を傾げた。

 レンジュならば猿と仲良く昼寝でもしてそうだ。

 そう呑気な想像をしてしまったが、険しい山の中娘が行方不明になった事態なので笑えない。楽観的に考えるのはよくないとラーフは早くレンジュを見つけようと考えた。


「ラーフ」


 草むらの中、レンジュが飛び出してきた。レンジュはぎゅっとラーフに抱きついた。


「お前は、急に男に抱きつくな!」


 ラーフは顔を真っ赤にしてレンジュを引き離した。ギーラは思いもしないところから現れたレンジュをみて歓喜した。


「レンジュ様、ご無事で? どこか怪我は?」

「大丈夫だよ。私は平気。それより紹介したい人がいるの」


 レンジュはそういい草むらの中へ声をかけた。がさがさと草の音とともに現れたの先ほどレンジュを誘拐した猿のような少年であった。

 反射的に体が動きラーフはマホの胸倉を掴んだ。


「ラーフ、乱暴はだめ。その子は火の神の子なんだよ」

「は?」

「私と同じ神の力を具現化する予定の子なの。二年後の予定なんだけど、それまで私と一緒に旅をしてくれるんだって」

「ちょっと待て。よく理解できない」


 レンジュから出る単語にラーフは頭をかかえた。

 レンジュは順々に先ほどカイという青年から聞いた神の器と継承方法と、そしてマホをそれまで預かることとなった経緯を話した。


「というわけでよろしくね」


 それを言われ、ラーフとギーラはうぅんと複雑な表情を浮かべた。しかし、すぐにギーラは肯定的な考えを持つようになった。


「火の神の力を少しでも使えるのですね」

「ああ、カイ、今の器程ではないけど悪魔を退治するくらいの威力は持っているつもりだ」


 マホは淡々と自分の力について語った。


「これほど心強い仲間はいないでしょう。二年という限定つきですが、よろしくお願いします。あ、私はギーラ・デーヴァ。レンジュ様の眷属です」


 ギーラはにこりと笑いマホに自己紹介をした。とても朗らかな光景で、自分が仲間になるときとは雲泥の差でラーフは内心むっとする。


(まぁ、俺の場合は元罪人だしな)


 己の経歴を考えるとしょうがいないと不満をすぐに抑えた。

 ラーフの表情をみてレンジュはくすくすと笑った。


「おい、何笑っているんだ」


 ラーフはぎゅっとレンジュの両頬をつねった。レンジュはいたいいたいと涙目になった。


「貴様、レンジュ様に無礼だろ!」


 ギーラはレンジュに横蹴りをくらわせた。ラーフは身を崩し、その場に倒れ込んでしまった。


「大丈夫、ラーフ」


 彼の心配をし、近づこうとするレンジュであったが腰あたりに捕まるものがあった。みればマホがぎゅっとレンジュに抱きついていた。

 じっと大きな黒い目で見つめられ、その初々しさにレンジュは思わずきゅんとなり抱きしめ返してしまった。


「おい、あれはいいのか」


 ラーフは腰を撫でながらギーラにレンジュとマホの様子を指差した。


「しょがない。相手は子供だし、レンジュ様と同等の立場の人間になるというし」


 それを聞きラーフは呆れた。


 つまり許容するということか。


 もう一度二人をみたラーフはレンジュとマホの姿が姉弟の姿にみえてきた。

 レンジュはとても嬉しそうにしていて、まぁいいかと苦笑いした。

 こうしてレンジュは旅の仲間を一人得ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ