〈4〉プレーヤー:スズ②
『elevate』のスペルを使い俺たちが飛ばされてきたのは、中心街の西端にある武器市場。
さっきまでいたところから近かったのだが、スペルカードを使わせるのが目的だった。
武器の種類は特に決めていないが、スズが気に入るのがあったらそれでいいと思っている。当分はゲームに慣れてもらわなければ。
「スズはなんか好みがあるか?」
先程から屋台で服を見ている彼女に声をかける。
「よく、わからないから……」
出会ってから思っていたが、スズは口数が少ないようだ。
「スズは可愛いし、服とか凝りたいんじゃないか? この辺は女の子向けのショップが多いから丁度いいと思う。金もあるし」
途端にスズは顔を紅潮させた。みるみる赤くなって、なんなら煙でも出そうだった。
「お、俺なんか変なこと……あ、」
また『可愛い』発言してしまった。思ったことを言ってるだけなんだが……
赤くなるのを見ていると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「と、とりあえず、好きなものを選べ。最初はよく考えなくても大丈夫だからさ」
恥ずかしさを消すように早口になる。
スズも真っ赤な顔で服や武器を選び始めた。
数十分後、買い物を済ませたスズが店から出てきた。
髪型も変えたようで、サイドにまとめた銀髪をリボンでとめている。
服は変わらずワンピーススタイルで、淡いレモン色の生地にところどころレースが施されている。可愛らしく明るい雰囲気だ。
そして、肝心の武器は剣。特に希望が無かったため、一番人気の剣を選んだのだ。
試しに振ってはみたものの、本人はしっくりきていないらしい。
一段落したその時だった。
スズのVRボードが突然現れ、アラームが鳴り出した。
エクスクラスと接続しているパソコンでアラームを設定しておくと、ゲーム中に鳴るようになっているのだ。
「12時だ。私、そろそろ……」
ログアウトするらしい。12時ということは昼飯だろうか。ずいぶん時間に厳しいようだ。
「また明日ね……カケル」
そのまま、スズのログアウトが完了するまでそこにいた。
「さーってどうすっかなー」
スズがログアウトした今、俺はやることがない。
基本的にサポーターAIは単独行動ができないはずだが……
そう思い、一歩踏み出した瞬間――
世界が暗転した。
気がついたときには宵闇の部屋にいた。なつかしい暗闇が俺を出迎える。
目の前では道化師がニコニコ笑っていた。
「おかえり、カケルくん」