プロローグ
ベットの中で目が覚めた俺――館掛徹は、枕元にある時計を手にとった。
時刻は午前5時30分。いつもより格段に早い目覚めだ。
いつもは昼前に起きるから、朝の情報番組すら見ずに一日を終えている。たまには朝が早いのも良いかもしれない。
時計をもとの場所に戻し、体を起こしてカーテンを開ける。こういうとき、ベットと窓が近いのは便利だ。
しかしまぁ、天気が悪いな。
9月のわりに空が暗い。雨は降っていないが、空一面に雲がかかっている。久し振りの悪い天気に、少し気分が下がる。
「しょうがない。掃除でもやるか」
もぞもぞとスウェットに着替える。家から出ない俺にとって最良の服装。
掃除とはいえ、ベットとパソコン、本棚や机しかない質素な部屋だ。その気になれば30分もかからない。
ベランダにパソコンとベット以外のものを出し、掃除機をかけ、雑巾で床をふく、典型的な掃除スタイル。鼻歌まじりに作業を進めるとより進む。
掃除の最中、壁にかかった制服が目についた。2年前中退した高校の制服だ。
今日は9月12日。俺の誕生日だ。中退してからちょうど2年間、ずっと部屋に引きこもっている。
今の家族は両親のみ。あまり干渉してこないから、余計後ろめたいがしょうがない。
俺は最近、VRMMOにはまっている。パソコンにヘッドセット型のゲームハード、通称エクスクラスを繋げるだけで楽しめ、操作が簡単と言うこともあって、世界中で人気らしい。
部屋に引きこもってからというもの、VRMMOにどっぷりはまっている。まぁ、よくある話だ。
別に、俺は今の生活を悪いと思っていないわけではない。更生しないといけない。しかし、そう思うには苦しすぎるほどの体験を俺はしたのだ。
いつの間にか作業は、小物類を運べば終わりというところまで進んだ。
本棚や机は重かったが、家族に頼るわけにもいかない。彼女や友達もいない。すべて一人でやるしかない。
今日は誕生日ではあるが、もう祝ってくれる人はいない。
思えば、俺が愛用しているコップは、過去に俺がある人からもらった物だ。
引きこもる前は、贈り物をしてくれる人もいた。そう思い出すだけでしんみりするが、今はもうどうしようもないことだ。
そのコップをとろうとした、その時、手が滑り、コップが地面へ重力落下し始めた。
「なっ、」
ここは二階。落ちたら当然、コップは割れるだろう。
引きこもりがゆえ、新しいコップなんざ、買いに行くことは出来ない。
落ちていくコップ目掛けて飛んだ俺は、みごと、手でそれを掴んだ。
やった、と思ったその瞬間、俺の、手すりを掴んでいた手がいきおいよく滑った。
多分、さび止め用の油か何かだろう。 それはどうでもいい。
俺は今、コップと共に重力落下している。 地面がどんどん近くなって、とてつもなく怖い。
最悪、頭を打つだろう。
俺はぎゅっと目を瞑った。
――しかし、どれだけ待っても、痛みなんてものは感じなかった。
2015年に書いた作品を改稿し、見やすいように改良しました。