小さな部屋
僕が覚えているのは、夜の都会の賑やかな雰囲気の側をなんの目的もなくさまよい歩いていたところからだ。
何度も同じような風景を見歩き、ただただ疲れて、考えることも億劫になっていた。
その風景を抜けると、たった一つの街灯に照らされた、こじんまりとした木のベンチが現れた。
その哀愁の漂ったベンチに引き込まれるように、僕は足をそこへ向かわせていた。
「はあ…………」
僕はベンチにゆっくりと腰をおろした。
ここまでは僕も覚えているのだが、今座っているのはベンチではなく、木の床の上だ。
「えーと、何処なんだここは?」
僕は周りが木の壁で囲まれた4畳半程度の部屋に横たわっていた。
僕の近くには、机とその上に真っ白な紙が一枚置かれていた。
突然、後頭部に鈍い痛みと不気味な笑みを浮かべるオジサンの顔がフラッシュバックして、呼吸が一瞬止まりかけた。
「うっ……いたたたた」
頭を手でさすりながら、気が気じゃないくらいの寒気と恐怖に襲われた。これは、ただ事ではないことが自分の身に起こっている。それだけはわかる。でも、それ以外のことは直ぐには整理できない。
数分かけて、少しずつ状況を整理していった。
まず、僕の名前は加藤宏樹。年は21歳で大学3年生だ。僕は漠然とした将来に不安をかかえ、じっとしてられず、夜のネオン街を歩いていた。
ネオン街を抜けた適当なベンチに座り、気がついたら、こんなへんぴな場所にいる。
そしてなぜか頭を殴られており軽く出血している。
つまり、僕は誘拐されたのか………。
この結論に達したとき、再び恐怖が全身を覆った。
「えっ……………嘘だろ……でも、だとしたら、さっき思い出したオジサンが僕を誘拐したのか」
そういえば、机の上に紙が置いてあったな。
僕は全身の震えに耐えながら立ち上がった。