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ぱにっくシリーズ

さたんぱにっく

作者: 黒湖クロコ

これは、【ぱんぷきんぱにっく】の続編となります。ご了承下さい。

「魔王様、どうしましょう」

 不利な戦況に、私を含めた魔物達は円卓に座って、会議をしていた。会議メンバーは、狼男に吸血鬼、ゾンビにフランケン、そしてランタンと私、魔王だ。

 私は上手くいかない現実に、眉間をぐりぐりと抑える。能力的には高いはずなのに、どうして事あるごとに負け戦なのだろう。

「どうしようも、こうしようもないわ。とにかく女の子を口説くしかないだろうがっ!」

 このままでは、私は現実の世界に帰る事ができないのだから。 


 私が現在住んでいる世界は、【ぱんぷきんぱにっく】と呼ばれる乙女ゲームの世界である。頭がおかしくなったんじゃと思われそうな話だが、実際そうなのだから仕方がない。

 【ぱんぷきんぱにっく】は魔界を舞台としており、魔物が攻略対象となるゲームだ。主人公の女の子は、ハロウィンの日に魔界に迷い込んでしまったというコンセプトで、美形な魔物と恋をするというもの。しかし現在攻略対象となっている魔物達がヘタレ過ぎというか、お馬鹿すぎて一向に女の子との仲が縮まらない為、私は急遽、お助け役の魔王として召喚された次第だ。

 そしてこの世界では、女の子から愛のこもったお菓子をもらわなければいけないという習慣があり、それが達成されるまで私はこの世界から帰れなくなっていた。

 なんて迷惑極まりない状況なのだろう。


「魔王様も諦めればいいのにぃ。ここまで無理なら、一生無理だって」

「ランタン。お前が諦めるな。大体、お菓子をもらえなくて困るのは私だけじゃなくて、お前らもだろうが」

「そうですね。温室栽培等、作物に対して色々対策はしていますし、ドラゴンの炎の配布で凍死しないようにはしていますが、やはり春は来てほしいですね。かくいう私も、今年の冬の寒さは身にこたえるものが……ゴホゴホ、カハッ!」

 びちゃびちゃびちゃ。

 病弱なゾンビが咳をした瞬間、血が円卓に飛び散った。……うわー、いつ見てもグロテスク。何も知らずに見たら、殺人現場だ。しかしそれに慣れてしまった自分が物悲しい。

「ちゃんと、拭いておけよ。……にしても、愛のこもったお菓子を貰えないと春が来ないって、不思議な世界だよなぁ」

 そう。この世界で、意地でも女の子からお菓子を貰おうと魔物達が躍起になっているのは、お菓子がもらえないかぎり季節が冬から春に廻らないという点にある。

 恋が実れば春になるとか、本気で寒い設定だ。それでも地球の常識が通じない世界なのだから仕方がないのだけど。


「まあそんなどうしようもない話をしても仕方ない。とりあえず、私もこの世界でうまく女の子との仲が深まらないのは、何が足りないのではないかと考えた」

「足りないものを考えたって、何を考えたんだい?確かに魔王様達が住んでいた世界とは違うけれど、それほど文明に大きな開きはないと思っていたけれど」

 吸血鬼に言われて、私は頷いた。確かに異世界だけど、お城に住んでいる事もあってか、不便に感じることはない。ちゃんとお風呂もあるし、トイレも個室で水洗だし、食べ物も体に合わないということはなかった。一応テレビのようなものも存在するし、娯楽がないわけでもない。まあ、漫画やパソコンなどがないため、オタクには物足りない世界だけど。

「確かに物欲的には問題ないと思う。でもこの世界は圧倒的に、イベントが少なすぎる!!」

 私は椅子から立ち上がり宣言した。


「「「「「「イベント?」」」」」」

 魔物達の声が一斉にハモる。

 私は全員の顔を見渡してから、深く頷いた。

「お前らの顔は、アイドルだって裸足で逃げ出すほどいいものだ。しかし、それなのに女の子との仲が急接近しないのは、イベントの少なさに私はあると考えた」

 イベント。

 それはどんなゲームでも欠かせないもの。このイベントがあってこそ、ストーリーが進んでいく。

「学園ものならば、体育祭、学園祭、夏休み。色々とこういったイベントを経て、仲が深まっているものだ!」

「魔王様、ここは学校じゃないっすよ」

「その通り。魔界という、現代日本では考えられないファンタジー要素たっぷりな世界だ。それでも、イベントをしてはいけないという理由はない!」


 この世界に迷い込んでしまった女の子に対して、ギャップ萌えを狙ってみようと以前試みたが、そもそもここはファンタジー世界でジェネレーションギャップに近いものがある場所なのだ。多少のギャップ萌えでは真新しさが足りず、甘かった。

「そして今回滞在の女の子は、腐女子っ!」

「婦女子?」

「違う。腐った女子と書いて、腐女子だ」

「えっと、それは人間の少女とは違うということでしょうか?」

「ゾンビみたいな?」

 私はゾンビとランタンの質問に首を振った。というか、人間界にはそんなヒトはいない。

「ゾンビのように腐敗はしていないし、肉体はいたって普通の人間で間違いない。しかし、その精神は人間をはるかに凌駕しているといっても過言じゃない。彼女達は何なら萌えられないのか、私では検討もつかない」

 そう彼女達腐女子は、有機物に限らず、無機物でも擬人化した上で、男同士の掛け算話を妄想し萌えてしまうのだ。今回の女の子がどのレベルかは分からないが、男同士の掛け算で萌えてしまう子の上を行く、ドキがムネムネ――じゃなくて胸がドキドキな場面を作り出す必要がある。


「そんな子を落とすには、1対1になった上で、ロマンチックなシチュエーションを作り出す必要がある。いいか。とにかく、1対1だ。男が2人揃ったら、どんなロマンチックなシチュエーションでも、彼女の聖域。それをオカズにご飯が何杯も進む。ある意味メシウマ状態だ!」

「魔王様」

「なんだフランケン」

「……すみません。俺、魔王様の話……半分も理解できなかった」

 体格のいい体をシュンとさせてフランケンが自己申告してきた。大きな犬がしょんぼりしているようで可愛い。

 うーん。どうして、あの女の子にはこの技が効かないのだろう。……恐るべし、腐女子能力。

「実に結構。フランケン、君は汚れないでくれ」

「魔王様!フランケンだけずるーい。ひーきはダメだって!」

 ランタンは椅子から立ち上がりヒョイっと空を飛ぶと私の背後をとり、おんぶおばけとかした。

「お前はいつから、おんぶおばけに転職したんだ」

 これだからお子様は。


 女の子を落とすために城で生活している魔物の中で、一番幼い外見をしているのはランタンだ。ゲームの時も、確かランタンはショタッ子大好きお姉さま用のキャラだった気がする。

 ……はて、他にも設定があったような気がするが、何ぶん攻略したのがかなり昔になる上、この手のゲームは色々やりすぎていて、ストーリーをおぼろげにしか覚えていない。ちゃんと覚えていたらここまで苦労することもなかっただろうにと思うと、自分が憎い。

「とにかく、何かイベントを行う事と、1対1となる事さえ覚えておけば、問題はない」

「それで、イベントは何をするつもりだい?」

「それを今から考えようと思う。ここは学校ではないので、普通にクリスマスやバレンタインなどの行事でいいのではないかと思うんだが」

 行事といえば、花見とか、ひな祭りとか、子供の日など、比較的色々あるのだが、お菓子がもらえるまでは冬しか来ないこの世界では、冬の行事をするしかない。

 日本古来からのものだと、正月や節分なども上げられるが、クリスマスやバレンタインに比べると、ロマンチックさは下がる。


「クリスマスとはなんですか?」

「キリスト教のイベントで、日本ではサンタクロースが子供にプレゼントを配る日となっている。ただ近年、イルミネーションで観光名所が飾られるようになり、恋人同士が一緒に過ごす日という意味合いも強くなっているな」

 私には無縁だったけどな。

 寒い思いをしてイルミネーションを見に行く相手もいなければ、そんな気力もない。その為、その日はのんびり家でゲームをやる日となっていた。

 それでも、ネットやテレビ、雑誌で情報は得ていたので間違いない。

「魔王様……。魔界にはキリスト教がありません」

「へ?ああ。そうか」

 よく考えたら、キリスト様と魔物では相反する立場にいそうだ。もちろん、彼らはお馬鹿だけど、絶対悪というわけではない。ただ魔物がキリスト教を信仰しているというのもなんだか変な話だ。


「まあでも、日本人も別に神様信じてクリスマスを送っているわけじゃないけど……」

 もちろん中には、ちゃんとしたクリスチャンもいるだろうが、そういうのはほんの僅かだ。大半がただのイベント好きな人である。

 だとしても、魔物が神様信仰……自分から案として出しておいてなんだが、自虐的な気がしてならない。

「なら、バレンタインはどういうものだい?」

「好きなヒトにチョコレートをあげる日だけど……まあこれも、一種の宗教系のイベントかな。思ったより、神様ってイベント好きだね」

 ははは。

 神様がイベント好きじゃなくて、そんな神様を祭っている人間がイベント好きなんだろうけど。にしても、日本人節操がないな。

「だったら、魔王様がイベント作っちゃえばいいじゃん!」

「おっ。ランタン。珍しくやる気だな」

「うん。だから、存分に褒めて、褒めて」

「はいはい。偉い偉い。でも、イベントかぁ」

 やっぱり魔王城だから、舞踏会だろうか?……いや、こいつらの場合、舞踏会が武闘会に変わりそうで怖い。テーブルの上が血まみれになることに慣れてしまったが、同じことを女の子に求めるのは間違っている気がする。

 ん?そういえば、【ぱんぷきんぱにっく】の続編に、こう何かイベントチックなものがあったような……。


「だから、サンタがプレゼントを配るんじゃなくて、サタンがプレゼントを配るならオッケーだよね!」

 私はランタンの言葉にパチパチと数回瞬きした。

「サタンがプレゼントって……私かっ?!」

 というか思い出した。

【ぱんぷきんぱにっく】というゲームには魔王様が魔物達にプレゼントを配る、【さたんぱにっく】が続編にある事を。

 たしかクリスマスの要領で魔王様がプレゼントを配るイベントで、それを【ぱんぷきんぱにっく】の世界から帰れなかった女の子(前作品で友情エンドでまだ特定の恋人はいない)が手伝うというコンセプトだった気がする。確かその時、魔王がサンタ代わりって、まるで黒色のサンタみたいだなと思った気が。


 うわー。素で、続編まで話がきちゃったよ。

 いや、しかし今度こそチャンスじゃないだろうか。うまくいけば、これで私も元の世界に帰れる。私が魔物たちにプレゼントを配りまわるというのは大変だが、背に腹は代えられない。

「よし。分かった。今度こそ、女の子からお菓子という名のプレゼントが貰えるよう、一致団結してイベントを成功させるぞ!」

 私はやけっぱちで、右手の拳を天高く振り上げた。






◇◆◇◆◇◆◇







 裏方というのは、かなり寂しいものだ。


 女の子にプレゼントを配りに行ってもらったり、イルミネーションで飾られた町に遊びに行ってもらったりしたが、私自身はプレゼントのラッピング係だったり、今回の企画の案を他の魔物の方々に伝えたりと、遊ぶ暇もない。

 あらかた終わったラッピングを包む手を一度止めると、腕を上に上げてぐっと背筋を伸ばす。

「あー、疲れた」

 今頃、あいつらは上手くやっているだろうか。

 この城にいる攻略対象の魔物達は悪い奴らじゃない。若干お馬鹿で、今も頓珍漢なことをやっていそうだが、私だって仲良くなれたのだ。あの女の子だって何とかなるはずである。

 っと、なんだか子供の成長を見守る母親のような気持ちになりながら、のんびりと窓の外を見た。

 そろそろこの町並みを眺めるのも見納めかもしれないと思うと、少しだけセンチメンタルな気分になるものだ。


「魔王様。何、こんな所でサボってるわけ?」

「……ランタン。お前こそ、何サボってるんだ」

 ふわふわと空を飛びながら私の前へやってきたランタンに見て溜息をつく。ランタンは本当に気まぐれだ。

 この間やる気を出したかのように見えたのに、もうこの調子である。

「だって、つまーんないし」

「つまんないじゃないだろ。女の子は、大丈夫なんだろうな?」

「うん。大丈夫、大丈夫。なんか、自分も魔物達にプレゼントをするって言って、頑張っているみたいだし。それに、今はゾンビが一緒にいるしね」

 まあ、ゾンビは血や内蔵を吐くが、比較的常識派だ。何とかなるだろう。


「魔王様、俺もプレゼントちょうだい?」

「……お前は子供か?」

「子供だよー」

 ……うーん。

 確かにランタンの見た目や言動は子供なのだが、他の魔物達に混ざって攻略対象となっているところをみると、見た目=年齢なんて事は思わない方がいい気がする。

 良くある、年齢は実は人間の数倍生きているんです的な感じの可能性がないともいえない。

「で、欲しいのは?」

「魔王様!」

「はいはい。見た目だけ子供だけの魔物は駄目だな」

「えー。俺も今回頑張ったのにぃ」

 欲しいものは私って、悪魔だし魂貰います的な感じだろうか。空恐ろしいお子様だ。吸血鬼だって、極少量の血ぐらいしか欲しがらないのに。

「まあでも、頑張ったには頑張ったしな。おいで、ランタン」

 私はふよふよと浮いているランタンを手招きした。

 首をかしげながらもランタンは私のそばへ降りてきた。そして私の目線より下になった頭をよしよしと撫ぜてやる。

「あらかた終わったし、今日一日ぐらいなら、お前の遊びに付き合ってやるよ。何処か遊びに行こうか」

 比較的上手くいっている今回の作戦に気分を良くした私は、ランタンと一緒に自分が企画した祭りの結果を見に行く約束をした。



 これは女の子がBL系ペーパーを城下町に住んでいる魔物(女性)に無料配布しために、魔界が腐女子意味で混沌としていったことを知る少し前の話。その後それを知って再び魔物達と緊急会議をやるのはまた別の話だ。

 戦況は、やはり不利な状況にある事を、この時の私は気が付きもしなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ぞ・く・へ・ん・キターーーーーーー!!!!! ありがとう!!ありがとうございますクロコさーん!!!! おもしろかったです。続きがあればぜひっ!!
[一言] > 有機物に限らず、無機物でも擬人化した上で ヤツらは……擬人化すら……
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