ちょっとした真実と魔法使い 1
三日連続更新……だ、と……?!
初めて見た世界は……よく覚えていない。
ただ、歪んで見えた。
幾つもの気配がして、こちらを見てくるのがわかった。
でも、失敗だった。らしい。
それからは、ずっと、一人っきりだった。
あの子に会うまでは。
でも、もうなんでも良かった。
もう、消えてしまえばいいと思った。
いや、今も思っている。
今も――……。
この世界は、とっても歪んでいる。
水越しに見なくても、とっても歪んでる。
でも、それでも、彼は……
廃屋の中を、私と小時朗は覗きこんだ。
「ほんとに、ここにシンリが居るんだよね?」
後ろのプシュケは、無言でうなずいた。
なんだか、人いなそうだけど……。
「おい、ここ……」
「?」
小時朗が、何かを持ってきた。
掛け看板か何かだろう。
「これ……けい、むしょ?」
確かに、そう書いてある。
なんで、刑務所?
『ここから先は、わしでも何があるのかわからない』
「つまり、何も分からないまま行けと……」
ゲームならどんどん行くんだろうけど、これはゲームじゃないし。
むしろ、生死がかかってるし、慎重に……。
「あ、ここ階段あるぞー」
『この先、誰かがいる気配がするな』
「よし、上がってみよう」
『ふむ、この罠は作動するととても面白そうだ』
「おおっ?! すげえ、なんかすげえ!!」
「……」
こいつら……。
つい、殺意が湧きました。
「じゃあ、一番上の二階から調べて行こうか」
『はい……』
「おう……」
私は、しゅんとしたプシュケと小時朗を従えて、階段を上がって行った。
何があったのかは、秘密だ。
先ほどプシュケの見つけた罠は、触らない様にして階段を上る。
二階は、閑散としていた。
「なにも無さそうだな……」
この刑務所を閉鎖するときに、荷物はあらかた持っていったのだろう。
物が散乱するほど多く置いてない。
残された机た家具が転がっているだけだ。
いくつかの部屋を入っても、ここ最近人がいた気配はない。
「じゃあ、一階か……」
「ねえ」
「なんだ?」
「こんな事してていいのかな」
「こんな事?」
「……シンリを攫ったのは、魔法使いだったんだよ。しかも、何人もいた。私は魔法使えないし、小時朗だってそうでしょ? プシュケはなんか出来そうだけど、三人でシンリを助けられる?」
むしろ、捕まって他の人に迷惑かけるだけのような気がする。
もっと悪い事に、死んでしまうかもしれない。
「でも、このままだと水埜が危ないんだろ?」
「……音川輪とかに任せておけば」
「でも、それでいいのか?」
「……」
「折角ここまで来たんだし、なんでもやってみようぜ?」
「コジロウって……」
なんだか、ほんと人ってわからない。
ただの不良だと思ってたら、お前は冒険に夢見る男の子か!
……なんだか、羨ましい。
私は、魔法とか冒険とかに、夢を見られなかったから。
「そう、だね。そう言えば、今日バイト無いの?」
「え?……あ……」
面白いほどに、顔色が悪くなっていく。
あっちゃあ。あったのか。
「やべえ……」
なんだか、可哀想なほどだ。
「だい、じょうぶ?」
「だ、大丈夫だ、問題ない」
それ、死亡フラ……うん。
二階から下りて、一階に行くとまた部屋の中を散策した。
やっぱり、二階と同じで物が無い。
人がいる気配もない。
「本当に、ここにシンリが居るの?」
『もちろん。信じられないのか?』
「いや、でも、誰もいなそうだし」
二階も一階も、何もない。
あらかた部屋を見終わると、最初の入口に戻ってきた。
「なんにもなかったね」
「ここじゃ無いんじゃ……」
プシュケは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「でも、おかしくねえか?」
「なにが?」
「ここ、刑務所、なんだろ?」
さっきの看板をもう一度拾って、そう言った。
「でも、何処にも独房とかなかったぜ?」
「あ……」
そう言えば、全部普通の部屋だった。
事務室だったり、客室っぽかったりしたけど、捕まった人の部屋が無い。
「でも、一階も二階も何もなかった……」
「とすると、地下、とかか?」
地下……。
思わず床を見ても、何もない。
『一つだけ、方法がある』
「え……」
「なにがだ?」
『どこに彼等が居るのか分かる方法だ』
「ど、どうするの?!」
『……誰かが、あの罠を起動させる』
あの罠って……階段にあったやつ?
ちなみに、あれ以外にもいろいろあったのだが、それは全部プシュケが教えてくれた。
たしかに、罠を起動させれば、誰かがそこに来るかもしれない。と言っても、原始的な罠だとしたら、何日も放置されそうだけど。
とりあえず、上手く言ってわざと捕まれば、心麗の所に行けるかもしれない。
「じゃあ、私が――」
「ダメだ」
「え」
にべもなく、小時朗は言い切る。
「お前、顔知られてんだろ? だったら、オレの方がいい。それに、女の子がそんなことすんな」
「はあ……」
む。
男女差別反対!
でも、ちょっとびっくり。
「二人は隠れてろ」
「う、うん」
プシュケと一緒に、扉の影に隠れた。
そして、小時朗は躊躇いもなく罠を作動させる。
と言っても、階段につけられていた細い紐に触っただけなんだけど。
それでも、その紐は簡単に切れた。
そして――
「誰だ?!」
誰だろう。
見た事のない男がどこからか現れた。
「っ? 誰って、お前こそ誰だよ」
小時朗が振り返って、警戒する。
が、遅い。
他に何も言う暇もなく、小時朗はのされてしまった。
早っ。
ちょっとがんばってみようよ!
それにしても、男の人が出て来るの早かった。早すぎだ。まさか、ここまで上手くいくとは……。
「コ、コジ――」
『こら、だまっとれ』
「で、でも……」
『声を出せば、ばれる。あの小僧の意味が無いだろ』
でも、大丈夫かな……。
し、心配だ。
よくプシュケは平然としていられるな……。
そんなこんなでも、小時朗は男に担がれていく。
すごい。
小時朗だって男だから、かなり重いはずなのにあんなに軽々と。
とにかく、追いかけないと。
行ってしまった二人を、私とプシュケは静かに追おうとした。
「まったく、こまった子どもたちだ」
そんな言葉の後に、何も分からなくなった。
「ランロウ、テメェ、どういうつもりだ!!」
筋を立てながら詰め寄った輪に、ランロウは嘲笑う。
「そんな事言ってる暇あるの? そんな暇があったら、あの子を追えば?」
「っ!!」
正論だ。
まったくの正論だ。
ランロウなんて存在を相手に取っていたら、絶対にアルトが危ない。
彼女は自分の事も、こちらの事もよくわかっているのだ。
面倒な事に、様々な事をわざわざややこしくする。
「くそっ、後で覚えてろ」
何を考えているのか未だにわかんねぇ。アイツ、何様のつもりなんだ。
いや、風の大精霊様だけど。
そんなことを考えながら、輪はもう一度校長室へと走った。
「まゆら!!」
校長室は、先ほどとまったく変わって無かった。
すぐに戻ってきた輪に驚き、その様子に何かあったのではと気付いたようだ。
「なにがあったんですか?」
「アルトが、ランロウに飛ばされた」
「はい?」
意味がわからないんですけど……。
そう、真弓良が困ったように眉をひそめる。
「ランロウに、心麗が捕まったと思われる所に飛ばされたんだっ!!」
「な、なんですってっ?! どどど、どうして!!」
「知らねっ。しかも、小時朗も一緒に飛ばされたらしい」
「なっ……」
みるみるうちに、真弓良は真っ青になった。
しかし、考えようにはまだ救いがあるかもしれない。アルトは本当に魔法使いについて基本的なことしか知らない。しかし、なぜか小時朗はそういう知識が中途半端だが有るらしい。しかも、魔法を無効化させる体質だとも聞いた。
「オレも心麗救出に行く。場所教えろ」
「は、はいっ」
世界地図と数枚のどこかの国の地図を出すと、真弓良は指を指す。
「新フィンドル王国の厳重警戒保護地域、旧魔束刑務所の跡地……です」
「ぶはっ」
「ど、どうしました?」
「……フィ、フィ、フィンド、ル、だと?」
三協国として有名な、新フィンドル王国。
元々は長い名前の国だったのだが、何十年か前に三つに分かれた国だ。
なぜか愕然としている輪に、真弓良は首をかしげる。
「えっと……フィンドルがどうかしましたか?」
「オレの……その……生まれた国だ」
「え」
「ま、まあ、昔のことだし。うん」
そうだ、もう何年も昔のこと。本当に、昔のことだ。
最初こそ衝撃を受けたが、大丈夫。落ちついている。
そう自分に言い聞かせながら、輪はその詳細を書かれた地図を受け取った。
「よし、行ってくる」
「はい……気をつけて。音川さん達を、お願いします」
「……おう」




