日常、変わらない日々。
うちの高校には、いくつもの部活とかサークル、同好会がある。
生徒の数に比例して、数が多くなってしまったなんて言われてるけど、詳細は不明。
ちなみに、サークルとか同好会とか言ってても、『部活』とひとくくりになっている。よくわからないけど、とりあえず伝統らしい。
中には、USOは実在することを証明する部とか有人島でサバイバル部、警察同好会☆警部、エンジェル★同好会、魔法少女研究会なんてへんてこな部活動がたくさんあったりする。
私が所属しているのも、そのうちの一つ……神楽同好会。
何やら神聖そうな名前。だけど、今はほぼ意味をなしていない。
なにしろ、所属しているのが六名なのに、そのうちの三名が幽霊部員。しかも、神楽を踊れるのは私のみ。他の人達、一体全体何をしてるんだい。
「まったく。そろそろあのアパート、改修工事でもなんでもすればいいのに」
「そうよねー。あの鴬張りの廊下、どうにかしてほしいわよね」
「最近、壊れそうで恐いんだけど。特に、男子とかが走ったりするとすごくない?」
「アルトも人のこと言えないわよ?」
「なっ。それどういうことっ」
放課後、同じ神楽同好会に所属している伊莉那と、言い争いながら話題にあがっている南活動棟に行こうとしていた。
その南活動棟は、中央管理棟なんて呼ばれてる教室のある場所からかけ離れた場所にあってひっじょうに行くのがめんどくさい。でも行かなきゃいけない。
なぜって、そこで私達神楽同好会は活動をしているから。
ぼろアパートのような建物だから、伊莉那と私はアパートって呼んでいるんだけど、そこでへんてこな部活が活動しているから異端部隔離のためとかなんとか影で言われたり言われなかったり。
反論できないのが辛い……。
ちなみに、鴬張りなんて言ってるけど、たんに床が古くて軋んでいるだけ。先輩とかが冗談で言ってて、それがみんなに受けたのが事の始まりらしい。
「あっ」
「どうしたん?」
突然、伊莉那が止まって指をさす。
「コタロー」
「え?」
あ、コタロー。
同じく三年生のコタロー。
一緒の同好会に所属している。しかし、幽霊部員。
彼はこちらに気づくと、なんとも言えない顔をした。
そして、伊莉那に詰め寄る。
「俺は、小時朗だ、コ・ジ・ロ・ウ!!」
「イリナ、間違えないでよ」
思わず、コタローって呼んじゃったじゃん。
「あらら? いや、だってコタローじゃ無かった?」
「違う! 小時朗!」
まあ、本当は知っている。
彼は糸柳小時朗。
なんとも古臭い名前の同級生。同じクラス。
でも、彼ほど小時朗という名があっていないやつもいないと思う。
「それにしても、コタロー。今度は、赤にしたの?」
「悪いか?」
「いや、将来が楽しみだわね!」
「……」
真っ赤に染まった髪。
ついこの前まで青々とした緑だったのに、どういう気分転換だか。
頬にはなぜか十字傷。
何をすればそうなるのか、よくわからない傷や破れのあるワイシャツは胸元ではだけ、その下の真っ赤なTシャツと十字のシルバーアクセが見えていた。ズボンは袖口がボロボロで、腰にはチェーンが何本もぶら下がっている。
いわゆる、アレだ。校則無視の常習犯。
だというのに、伊莉那は結構ふつうに話している。それを私は傍で見ているだけ。
同じ部活と言っても、あまり話したことないし。
「つーか、バイトの時間遅れるから、話しかけてくんな」
「あ……」
伊莉那が止める前に、小時朗は走って行ってしまった。
そう、彼が幽霊部員の理由は、ソレだ。
「毎日バイトか……」
一年の最初の頃は何もやって無かったのに、いつの間にかバイト人間になっていた。
「もう。コタローったら、少しぐらい顔出せばいいのに。そしたら、いじ……うん」
「いま、いじめるとか言わなかった?」
「なに言ってんの? この、仏の伊莉那がそんな事言うわけ無いでしょ?」
「……」
なんて奴だ。
まあ、本当に親しい人にしかそういうのやってないからいいんだけど。
でも、そこまで伊莉那と小時朗って仲が良いのか?
同じ部活だけど、伊莉那と違って私は小時朗とあまり話したことが無い。
フレンドリーな伊莉那の様子に、思わずあんな感じで話してるけど、あいつのことなんて何も知らない。
私と伊莉那は小学中学と違う。たしか、伊莉那と小時朗は同じ中学だったはず。だから、仲が良いのか?
「あ、アルトちゃん、イリナちゃん」
「ん?」
後ろを見ると、一年下の後輩がいた。
「あ、シンリ」
水埜心麗。
乙女のような名前に容姿の可愛い後輩。彼も神楽同好会の一員で、実は幼馴染だ。
私と伊莉那、心麗は小さい頃から知っている友達でもある。
ただし、困った趣味を持っている。
なんか、私の周りそういうの多いな……。
「こら、先輩でしょ? 心麗」
「あ、ごめんなさい。イリナせんぱい」
伊莉那の言葉に、心麗は恥ずかしそうに顔を持っていた本で隠した。
なぜか本の題名は、ドキドキ夢占い。持っている鞄にも、星やらお守りやらのキーホルダーがついている。
彼は、男の子なのに占いや星座、おまじないが趣味なのだ。
意外なことに、サッカーチームとかに入っているらしいけど。
そう言う所は男の子らしいのに、なんでそんな趣味に目覚めてしまったのか。
「ねぇ、なんでこんなところで止まっているの?」
「止まっているんですか? でしょ?」
「あっ」
伊莉那の訂正に、真っ赤になって下を向くと、ごめんなさいと小さく謝る。
二年生になっても、心麗はまだ敬語が慣れていない。
まあ、小さい頃からの友達だし、あまり気にしてないけど。
「冗談だよ。心麗はからかいがいがあって今も昔も大好きよ」
「イリナちゃん、酷いですよ!」
「まあねー」
「イリナ、認めちゃうんだ」
「そうよ、アルト。うちは認めちゃいます」
そんな事に、胸を張る伊莉那にため息をつく。
「二人とも、部室に行く途中だよね? はやく行こう」
「あ、そうね。よし、今日もアルトの起こした事件教えてあげる」
「ちょっと、朝の事なら私のせいじゃないから!」
「また起こしたの? アルトちゃん」
あきれ顔の心麗に、思わず叫んだ。
「私が起こしたんじゃないから!!」
その後ろで、伊莉那が黄色い笑い声をあげた。
「人の不幸を喜ぶなんて、なんて酷い人!」
「うちは、そんな人だから仕方ないわ」
そんな感じで、私達は部室に向かった。
そんな日常。
その普通の日常がこのすぐ後に壊れることなんて、私が知るはずも無かった。




