魔法使いの祝祭 4
連れて行かれたのは、舞台の前だった。
そこには三つの席。
「はい、到着」
「……えっと、なにかあるの?」
「あるも何も、今回の祭の目玉だよ」
「はぁ……?」
この魔法使いたちの祭りの、か。
「ほら、座れ座れ。さすがにこの席とるの大変だったんだぞ」
「いや、頼んでないけどね」
「……俺の苦労はなんだったんだ!」
そんなに大変だったのか。
でも、なにがこれから始まるのだろう。
舞台を観察して見る。
かなりの大きさだ。
ドームとかより大きいんじゃないか、みたいに無駄に広い。
そこかしこに篝火が焚かれている。
なにが起こるのか、まったく分からない。
「ねぇシンリ、なにが始まるの?」
「えっと……あ、始まるよ。見たほうが早いと思うよ」
「え?」
心麗の言葉通り、それは始まった。
舞台に上がってきたのは白い衣装の魔法使いたちだった。
まるで、神官と言うか巫女と言うか、そんな服装をした人達。
おとぎ話と言うか、漫画とかで見るファンタジーな衣装だ。
「あの人達は、セレスティア王国の巫子さん達なんだ」
「え、そうなの?」
セレスティアと言えば、海を挟んだ向こうにある国だ。
こっちの中央大陸とはすこし文化の異なる国。
因みに、この祭りの会場はレンデル社会主義共和国。
その、魔法使い連盟が買い切ったとある山中らしい。
だって、移動するときなんにも見えなかったんだもん。
レンデルは、私の住んでいる大和から結構遠い。
海を挟むけど、セレスティアの方がレンデルに近かったと思う。
地理は苦手だし、国の名前を覚えるのとか面倒でうる覚えだから断言はできないけど。
でも、なんでそのセレスティアの巫女さんとやらが居るのだろう。
「禍物化した精霊の話は覚えているか?」
「えっと……?」
まがものか、まがものか……どっかで聞いたことがある気がするけど、なんだっけ?
「たしか、精霊が狂ったとかどうのっていってたっけ?」
「そうそう。精霊が狂ったりすると、禍物化して人間達を襲う。彼らを止める方法は二つだけ。魔法使いが殺すか、セレスティアの巫子が浄化するか」
「……?」
「最近は禍物化する精霊が多くてな、だからみんなが一堂に会するこの祭りで、一斉に世界中の禍物化した精霊を浄化することになってんだ」
えっと、あの化け物たちを倒すための何かってことだろうか。
それはいいことだ。
「……って、この祭りで? これがこの祭りの目玉?」
「うん」
その言葉が終わるか終らないかのうちに、巫子の一人が手を叩いた。
あれ、柏手って言うんだっけ?
それが合図だったみたいで、一斉に巫子達の間に光が満ち始めた。
そして――
「うわ……」
一瞬、昼間のように辺りが明るくなった。
何かが、変わっていく。
いや、変わっていくというより、歪んでいた物が直っていく。
全てが、元通りに。
そんな、気がした。
思わず目を閉じたけど、ゆっくり目を開けると、その余韻みたいにあたりに小さな光が蛍みたいに漂っていた。
綺麗だ。
そんな中、何かが空から降ってきた。
「ゆ、き?」
暗い夜空に、白の雪が降ってきていた。
いま、夏なのに……。
思わず手を出すと、大きな雪が手に落ちる。
細かい雪じゃ無くて、牡丹雪だ。
「きれい……」
「そうでしょ? 小時朗先輩もくればよかったのに……」
心麗が笑顔で聞いて来る。
真冬に逆戻りしたみたいだった。
でも、今は雪なんて降らない夏真っ盛り。あまりの不可解だ。
その間も、儀式みたいのは続いていく。
「しょうがないよ、バイト魔だし」
これで来てたら、魔法使いすげーとか何とか言ってうるさかったんだろうな。
そういえば、何時の間に糸柳先輩から小時朗先輩にランクアップしたんだろ。
祭はその後も続いていった。
なんか知らないけれど、音川家の知り合いとか言う魔女やら吸血鬼やら魔物やら……音川輪に連れまわされて退きあわされたけど。
「そろそろ祭も潮時だし、帰るか」
「あ、うん」
時計を見ると、もう九時を過ぎていた。
けっこう時間がたっている。
見上げれば、暗い夜空に月が浮かんでいた。
「あら、帰るのなら送っていくわよ」
一瞬、暴風が吹いたと思うと、輪の横に女性がいた。
妖艶な笑みを浮かべながら輪の首に腕をまわしている。
「げ、嵐朧……」
「ラ、ランロウさんっ?!」
輪が苦しそうに呟く傍ら、心麗が恐ろしい物を見たかのように声を震わせてその名を言う。
青磁の髪に、青の瞳。
なんだか、人間離れしている人……えっと、この人も人外なのだろうか。
「いや、遠慮しとく」
「ふふっ、遠慮しなくてもいいのに。私と貴方の仲じゃない」
「どん仲だよっ!? 頼むから、止めてくれっ!!」
輪のこの慌てぶり……気になる。
一体どんな関係なんだろうか。
「ふふ……姑と婿の仲じゃない」
「黙れ! お前姑じゃなくて姑の元契約精霊だろ! あと離れろ!」
……。
しゅ、しゅうと、め? むこ……?
えっ……。
「シ、シンリ? あの、しゅうとめって……あの、えっと?」
「ラ、ランロウさんは……その……か、風の大精霊で、その……音川家とは切っても切れない因縁があるというか……その……と、とにかく、その……恐ろしい御方なんだよっ!」
「……?」
シ、シンリ?
震える少年の視線は、ランロウとやらを写してなかった。
「嵐朧! 貴方がそう言ったら、そりゃ遠慮するわよ」
さらに、まったく知らない声が聞こえる。
なんだか知らんうちに、嵐朧の後ろに少女が立っていた。
嵐朧とは違い、金髪碧眼、人形みたいに可愛らしい少女だ。
その目は剣呑。
ランロウと呼ばれた女性を睨みつけている。
「……しょうがない。君が来たんじゃ、退くしかないか」
嵐朧はそう言うと、姿を消した。
一瞬で。
……ま、魔法ですか?
いや、魔法なんだろうな……。
「大丈夫だった? まったく、あの迷惑大精霊……」
少女はランロウの居た場所にどこから持って来たのか塩を撒きながら聞いて来た。
「えっと、誰?」
「ん?」
こっちを見た彼女はじっと見つめて来る。
恐ろしいほどの真剣に。
そして。
「……きゃああああっ?! お、音川、ア、アルトっ?! な、なんであんたがここに?! 死、死んだのに……葬式上げたのに。供養が足りなかったのっ?! まさか、化けて……まさか、あの女狐もっ?!」
「……ひ、人を勝手に殺さないで欲しいんだけど」
……たぶんきっと、彼女は誰かと私を盛大に間違えている。




