魔法使いの祝祭 3
祭は夜になるにつれ、祭に来る人はどんどん増えていった。
それこそ、本気で迷子が出るほどに……。
「こ、こんな年になって迷子になるなんて……」
なんて言うか、落ち込む。
元々、自分のせいだってこともあるから、さらに、だ。
まわり知らない人だらけだし……。
まあ、楽しんだけど。
それに、あの風の精霊三人組の事も気になる。
射的もどきで取った景品の大きな縫いぐるみを抱いて、リンゴ飴もどきを食べながら道の端の石段に座りこんでいた。
空を見上げれば、食人植物の他にも光る物体や飛行物体が飛び始めるし。
可笑しな風景。普通だったらぜったいにありえない。
でも、結構綺麗だ。
暗闇の中で、青や赤の淡い光が飛びまわっているのを見ていると、青白い光を放つ蝶が飛んでくる。
……って、あれってどう見ても私に向かってくる?!
「……?」
私の周りを何周かした後、少女の姿に変わった。
しかも、見覚えのある子だ。
「えっと、プシュケ?」
この前、シンリに呼び出されて剣になったヒトだ。
『ふむ。わしの事は覚えていたようだな』
……ええ、覚えてましたよ。
シンリに別に死んでもいいだろなんて言ってたヒトですよね。
「あんたも、風の愛し児がどうのとか言うわけ?」
『……まさか。わしは風の精霊では無い。だが……一つだけ』
「なに?」
『……彼等にとって、お前のような存在は……特別なのだ』
「それは知ってる」
だって、そのせいでいろいろ迷惑してるし。
『とても、大切なんだ。暗い道にある、唯一の灯りのように』
「……」
そういう彼女は、どこか遠くを見ている。
なんで、そんなのが私なんだろう。
おかしすぎる。
『……わからなくていい。だが、彼等にとってお前はとても大切なのだ』
そこで、ようやく気づいた。
木々の後ろであの三人組が隠れていた。
といっても、私でもわかるぐらい丸見えだけど。
「……まったく。ちょっと、そこ!」
気づかれたのに気づいた三人組が、急いで隠れようとする。
それに、私は一気に走り込んで、三人組を捕まえた。
『す、すみませんですぅ』
『きゃああっ、誘拐!』
『ごめんなさいっ』
思わずため息をつく。
「ちょっと、静かにしなさい」
『『『……』』』
「さっきは、言いすぎたから。ごめん」
『そ、そんなっ』
「迷惑かけないなら、別に来てもいいから」
『ほ、本当ですか!』
こちらまでわかるほど、嬉しそうに言ってくる。
なんだか、罪悪感がした。
「その代わり、本当に変なことしないでよ! あと、変に畏まらないで!」
そんな私達の様子を見ていたプシュケが、蝶に姿を変えた。
その蝶は空に上がっていく。
「アルトちゃーん!!」
「あ、シンリ」
腕を振りまくって心麗が人込みをかき分けて私の前まで来た。
「よかった、見つかって……っと、そろそろ始まるから早く行かないと逝けなんだよ!」
「え、何が?」
「もちろん、最後のとっておき!」
そうこうしている内に、三人組の精霊はぱっと解散してどこかに飛んで行ってしまった。
また会うような気がする。
「じゃ、行こう」
「え、ちょ、どこに?」
「リンさんが特等席取ってくれたから、全部見れるよ!!」
「は?」
「こっちこっち」
心麗に手をひかれるままに人ごみに向かう。
なにか、もう訳が解らないのだが、とにかくすごいのが始まるらしい。
と、声がした。
「あら、音川さんではありませんか」
「?」
振り向くと、同い年くらいの少女。
茉莉を満喫しているらしく、浴衣姿に金魚の入った袋をつるさげ、さらになんかのお面を頭に、さらにさらに綿あめを食べている。
「……ねえ、シンリ。あの人誰?」
「なっ。わたしを覚えてないと?!」
ヒステリックに叫ぶ人だなあ。
でも、どこかで見た事がある気がする。……気もするけど、思い出せない。
「黄土色の髪にそれと同じ瞳……どっかであった気がする……?」
「隣のクラスのクラス委員兼文化祭実行委員の真弓梓!!」
「……ああ。留学してたとかなんとかの人か」
思い出した。
二月だか三月にどっかの国に留学しに行ったんだ。
その前から何かと突っかかってきて、すごくうるさかった覚えがある。
覚えてなかったのは、最近会って無かったからだ。
「帰って来たんだ。お帰りー」
またうるさくなるということだろう。
……って、あれ?
ここに居るって事は、彼女も魔法使い?!
「ふん。遂に魔法使いになったと聞きました! 高校生になってからだなんて、名家音川の名も落ちたものね。私は五歳になる時から魔法使いとして訓練を受けていたというのに」
「あっそう」
以前の経験からして、彼女にはあまりかかわらない方がいい。
適当に流しておけば勝手に納得して行っちゃうから。
でも、まさか彼女も魔法使いだったなんて。
いや、だからこっちに突っかかって来たのか?
「これで、もう遠慮なく物言いができるわ!」
「?」
「あなた、めざわりなの。流留歌から出てってもらえないかしら?」
「……は?」
何を言ってんだこの人。
「いい事。貴方の存在のせいで、あの町はどんどん狂っている。どんどん私達には住みにくくなってるのよ! 水埜君も気づいているでしょう?」
心麗に何やら意味ありげな視線を送るけど、心麗は困ったようすだ。
どうすればいいのかと、まだ傍に居たプシュケをみる。が、彼女は店の商品が気になるらしく、聞いていない。
「シンリ、そうなの?」
「いや、その……」
「貴方のせいで、流留歌に精霊が来れないのよ! そのせいで、精霊使いや精霊魔法を使う人が迷惑してるの!!」
「へー……そうなんだ」
そう言えば、流留歌に風の精霊が来れないとか言ってたような気がするけど。
だからって、なんで私が流留歌から出て行かなくちゃいけないんだ。
「あれ? でもそれって、わたしじゃ無くてセイレイオウとかいうのが命令したとかじゃ無かったっけ?」
「だから、あなたがいるから精霊王は流留歌に精霊が入らないようにって命令したの!!」
「あぁ、そっか」
その辺の所、最近知ったばかりだから勘弁してほしい。
そもそも、魔法使いについて知ったのだって、三ヶ月か四ヶ月くらい前の話なのだから。
「貴方が流留歌を出れば、それもこれも元通りになるのよ。まったく。さすが恥知らずの音川ね」
ぷりぷりと怒っている梓の言葉に、ひっかかりを覚える。
「どういうこと? 恥知らずって……」
「あら、知らないの? ネクロマンサーの音川さん?」
「ちょ、ちょっと! 真弓さん!」
慌てた心麗が真弓の前に出た。
そのせいで表情は見えないけど、なんだか怒ってる?
「ネクロマンサー?」
ネクロマンサーって……?
「ふん。知らないなら教えてあげる。死霊使い。風使いの恥さらし。誇りも名声も全て捨てた音川家。有名よ」
「真弓さん!! それ以上言うと、さすがに怒りますよ!」
「おおっ、恐いわ。さすが精霊王の加護厚き一族。なら、決闘でもします?」
「……」
は?
えっと、この人、本当になに言ってのん?
まったく、意味がわからないんだけど。ネクロマンサーって……?
いつも思うけど、魔法使い初心者の私にも解るように行って欲しいものだ。
「おいっ、アルト! 心麗! そろそろはじま――って、何してんだ?」
そこに現れたのは、音川輪。
今回はナイスタイミングだ。いつも、こんな感じで早めに来て欲しい。
なんだか良く解らないうちに変な空気になっていたから丁度いい。
輪を見ると、まるであざけるように笑って真弓は去って行った。
「……? えっと、どうした心麗?」
「……な、なんでもない、です」
心麗は殺気の事を言わないつもりだ。
「なんでもないってことないでしょ。ねえ、音川輪。ネクロマンサーの音川ってどういう事?」
「いや……その……それはまあおいおい話そうと思ってたんだが。まあ、とにかく行こうぜ」
「……」
納得いかない。
何も解らないまま、何も言わないまま、輪はそっぽを向いた。




