人間ライターの長電話。
ぷるるるる
ぷるるるる
酷く古ぼけた屋敷に軽快な電子音が響く。
それと共に慌てたように駆け降りて来る足音。
どうやら、屋敷の主は二階にいたようだった。
「はいっ、夜神です!」
金色の髪が揺れる。
青い目をした少女が、電話をとっていた。
どこか浮かれたような、嬉しそうな明るいソプラノの声が紡がれる。
が……。
『葵か?』
「……なんだ、音川の小僧か。なんのよう、死に損ない」
相手がわかった途端にその様子は一変する。
如何にもめんどくさそうに、彼女は応答した。
『なぁ、オレ……ライターって言われた……』
「は? ライター? あぁ……炎術、人前で使ったの?」
電話相手は少女にとって昔からの知り合い。
そして、彼女の『弟』の友人である。
『「アルト」の前で』
「……ごしゅーしょー。どうせ、うわー便利そう、あんた人間ライターだねっ! って感じで言われたんでしょ」
『……いや、そうはいわれてねえけどさ』
「まったく。そんな事言ったら、私なんて人間シャワーよ。それか人間食器洗い機。あとは乾燥機に扇風機にクーラーに……だいたい、魔法使いなんて大抵そんな感じでしょ」
『だけどよぅ……アルトに言われると、なんて言うか、傷が深いというか、すごく胸を抉られる』
「あ、っそう」
他人事のように、いやまさに他人事なのだが、少女は話を流し聞く。
『なんか、こう……もっと優しい言葉をくれないのか?』
「なんで?」
『……お前に相談したオレが悪かった』
「まったくもってその通りよ。なんなら、マコに電話を替わりなさい」
『今、夜神はいねぇよ』
「っち、使えない奴」
『おい、ちょっと待て』
この二人、仲が悪いように見えるが、意外と息はあっている。
なんだかんだと言いながらも、気は合うらしい。
「まぁ、あんたたち魔法使いも大変よね……」
『……』
「って、なんで黙るのよ」
『いや、お前にそんな事言われるなんて、と』
「……」
今現在、世界から魔法使いが消えようとしている。
多くの魔法使いの名家が途絶えた。
幾つもの魔法が失われた。
世界から、少しずつ魔法は、魔法使いは失われていく。
魔法に全く触れないで生きて来た現代育ちの彼等からすれば、魔法は便利な道具に見えるだろう。
炎属性の魔法なら、アルトが考えた通りライターのように使える。
光属性なら電灯の代わりに。風属性なら扇風機に。
数え上げればきりがない。
「あぁっ、もうっ、まったく今さらなことで落ち込んでるのよ。私の方は忙しいんだからね。切るからねっ」
『そういや、もうすぐか』
「そうよ。もうすぐ始まるわ。まったく、感謝しなさいよ? 私達が手伝っているおかげで祭が行われるんだから」
『じゃあ』
「うん……あ、もう迷惑電話はかけてこないでよ。今度かけてきたら半殺しするから」
『……りょ、了解です』
かちゃりと音を立てて受話器は戻される。
「『アルト』か……。あいつに、似てるのかしら?」
その目は、どこか懐かしさを映していた。
少女に取って、いや、葵にとって、『アルト』という名前は意味のない名前だ。
それでも、なんとなく気になってしまう。
それはきっと、多くの人々がアルトを注目しているからなのだろう。
「さてと、そろそろ準備をしないとっ」
魔法使いの祭典は、すぐそこまで迫っていた。




